マンガに限った話ではないが、「バカ」をめでる文化というものがある。
猪突猛進型の「バカ」が暴走するマンガといえば、この作品。市川マサ「バカビリーバー」。とにかく、あまりにもバカすぎて爽快。
https://yanmaga.jp/comics/
◉[序の序] イシスのトキワ荘?
多読ジムSeason9 が終了して3日後。「ご自身が書き上げた三冊筋プレスを、さらに推敲して遊刊エディストに掲載しませんか?」とお誘いがあった。
ホイホイと多読エディストラウンジに来てみたら、十数名が横並びでバリバリ推敲する、まさに「トキワ荘」かと見間違える環境だった。
拙文「【三冊筋プレス】ココロの隠し立ては青いふところ(大沼友紀)」の推敲をすすめる最中に「ご自身のすすめる『ヨットロック』のプレイリストをInfo(追加情報)としてつけてもいいですね」とアドバイスを頂く。
とはいえ、単なるプレイリストは面白くない、と天邪鬼に構想試作してみるうちに「三冊筋プレスの形式で書けるのでは?」と気づく。
ここに、三冊筋のスピンオフ版「三曲筋プレス」がうまれました。
◉[序] 「ヨットロック」のらしさ
「ヨットロック」は、柔らかいジャンルだ。
ヨットロックっぽいR&B を「ヨットソウル」と呼んだり、ヨットロックぽいけど若干異なるものも「ニャットロック(Nyacht Rock)」と呼んで傍らに置いておく。ふところが深い。あるいは、ぬるい。
ヨットロックの楽曲から3曲を選んで、それぞれに関係する3曲(ヨットロックでないものもあるが)をクエストしてみる。
◉楽曲をまねぶ 「愛ある限り」/キャプテン&テニール(*1)
ダリル・ドラゴンとテニ・トニール夫妻の男女デュオキャプテン&テニールが1975年にリリースした「愛ある限り」。この曲にインスパイアされなければ、マイケル・マクドナルドが1979年に発表したドゥービー・ブラザーズの「ある愚か者の場合」(*2)がうまれなかった。
「知ってるかい、ダリル、きみはぼくが<ホワット・ア・フール・ビリーヴス>を書くきっかけになった男なんだ。ほら、<愛ある限り>と感じが似てるだろ?」と言っていたよ、と書籍『ヨット・ロック』で、ダリルはマイケルに会ったときのことを話している。
「愛ある限り」は実はカバーソング。原曲はニール・セダカが1973年にリリース(*3)している。さらに、この曲にも元となる楽曲がある。ビーチ・ボーイズが1968年に発表した「ドゥ・イット・アゲイン」(*4)からインスパイアされたものだ、とニール自身がコメントしている。
真に独自性のあるものは「いかに真似されやすいか」なのだ。
アルバムリスト:
*1「愛ある限り(Love Will Keep Us Together)」/キャプテン&テニール(Captain & Tennille)のファーストアルバム。
*2「ミニット・バイ・ミニット(Minute By Minute)」/ドゥービー・ブラザーズ(Doobie Brothers )。「ある愚か者の場合(What A Fool Believes)」を収録。
*3「The Tra-La Days Are Over」/ニール・セダカ(Neil Sedaka )。「愛ある限り」を収録。ヨットロックではない。
*4「20/20 」/ビーチ・ボーイズ(Beach Boys)。「ドゥ・イット・アゲイン(Do It Again )」を収録。ヨットロックではない。
◉別カルチャーと遊ぶ 「ジョジョ」/ボズ・スキャッグス(*5)
『ジョジョの奇妙な冒険』は、登場人物名や彼らの使う能力(スタンド)の名称などをバンドやミュージシャン名、楽曲名をもとにして数多くつけている。ヨットロックでの例をあげると、第3部に登場する敵の1人「スティーリー・ダン」(*6)が、能力名に第7部の主人公の1人ジョジョのスタンド「タスク」(*7)がある。
まさにタイトルにも主人公の愛称にも含まれているのが、1980年にリリースしたボズ・スキャッグスの「ジョジョ」。
「ジョジョ」の由来は、ビートルズの「ゲット・バック」(*8)の歌詞から引用している。作者の荒木飛呂彦と大槻ケンヂとの対談に記録がある。この歌詞のジョジョはジョン・レノンだ、という説もある。
第6部の冒頭で、主人公(空条徐倫)は無実の罪を被せられるが、その罠をかけたのは彼女の恋人だった。ボズの曲の歌詞にあらわれるジョジョは、金持ちで優男で女ころがし(娼婦の元締めとも)。やんわりイメージが重なる。
ところで、ボズは「自分の音楽をヨットロックに当てはめられることが大嫌いだね」とコメントしている。
アルバムリスト:
*5「ミドル・マン(Middle Man)」/ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)。「ジョジョ(Jojo)」を収録。
*6「ガウチョ(Gaucho)」/スティーリー・ダン(Steely Dan)。登場人物が使用するスタンド名「恋人(ラバーズ)」を連想させるジャケット。
*7「タスク(Task)」/フリートウッド・マック(Fleetwood Mac )。結成当初はずぶずぶのブルースだった。徐々に転身して本作はヨットロック。
*8「レット・イット・ビー(Let It Be )」/ビートルズ。「ゲット・バック(Get Back)」を収録。ヨットロックではない。
◉歴史をたばねる 「ヒューマン・ネイチャー」/マイケル・ジャクソン(*9)
キング・オブ・ポップのマイケル・ジャクソンとヨットロックの歴史を並べてみると興味深い。
1963年
マイケル、ジャクソン5に加入。
1969年
ジャクソン5、モータウンからアルバム「帰ってほしいの」*10でメジャーデビュー。
1972年
モータウンがデトロイトからLAに拠点を移す。これにより、ヨットロックを生む礎ができる。
1976年ボズ・スキャッグスのアルバム「シルク・ディグリース」*11に参加したスタジオ・ミュージシャン3人を中心として、TOTOを結成。
1983年
「聖なる剣」/TOTO*12がグラミー賞最優秀アルバム賞を獲得。「ヒューマン・ネイチャー」はTOTOのメンバーが作曲し、レコーディングもスタジオミュージシャンとしてサポートする。
1984年「スリラー」/マイケル・ジャクソンがグラミー賞最優秀アルバム賞を獲得。
2005年
ドラマ『ヨット・ロック』配信。とりわけマイケルと「スリラー」をネタにした第5話が好評であった。
2009年マイケル死去。
2010年ディスコ~ブギーリバイバル。
マイケルの死去により、改めて何度も彼の曲を聞く旧リスナーだけでなく、新しいリスナーも増えた。このことは、ヨットロック復活の遠縁であるように思える。
アルバムリスト:
*9「スリラー(Thriller)」/マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)。「ヒューマン・ネイチャー(Human Nature)」を収録。
*10「帰ってほしいの(Diana Ross Presents TheJackson 5 )」/ジャクソン5。ヨットロックではない。
*11「シルク・ディグリース(Silk Degrees)」/ボズ・スキャッグス。ボズの代表曲の1つ「ウィ・アー・オール・アローン(We’re All Alone)」収録。
*12「聖なる剣(Toto IV )」/TOTO。収録曲「アフリカ(Africa)」は全米シングル1位だが、ウィーザー(Weezer)が2018年にカバーした曲も全米1位になる。
Info
⊕多読ジム Season09・冬⊕
∈選本テーマ:青の三冊
∈スタジオゆむかちゅん(渡會眞澄冊師)
∈3曲の関係性(編集思考素):三位一体型
「愛ある限り(Love Will Keep Us Together)」/キャプテン&テニール(Captain & Tennille)
「ジョジョ(Jojo)」/ボズ・スキャッグス(Boz Scaggs)
「ヒューマン・ネイチャー(Human Nature)」/マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)
「生命に学ぶ」
↓
【楽曲にまねぶ】
・ ・
・ ・
【歴史をたばねる】・・【別カルチャーと遊ぶ】
↑ ↑
「歴史を展く」 「文化と遊ぶ」
※編集工学の仕事の作法をもどく。
⊕参考資料⊕
∈ブログ:まいにちポップス(My Niche Pops)
「ある愚か者の場合(What A Fool Believes )」ドゥービー・ブラザーズ(1979)
∈遊刊エディスト:マンガのスコア
∈ローリング・ストーン・ジャパン誌
ボズ・スキャッグスが語るAOR 黄金期、ブルースの再発見「ヨットロックは大嫌いだ」
∈フォーブス・ジャパン誌
波が似合う爽やかな音楽? 米音楽シーンで注目の「ヨットロック」とは
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:夢野久作
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
11月は別典祭へいこう! 二日限りの編集別天地?【11/23-24開催】(11/21更新)
11.21更新 2日間通しプログラム詳細(EDO風狂連)を更新しました。 11.20更新 2日間通しプログラム詳細(勝手にアカデミア、イシス編集学校、別典祭感門団)を更新しました。 11.18更新 2日間通しプログラム詳 […]
【12/9ライブ配信】田中優子×鈴木健「不確かな時代の方法としての政治 Pluralityと相互編集」
12月9日(火)14時より、イシス編集学校の学長・田中優子と、co-missionメンバーの鈴木健さんによる特別対談を開催します。タイトルは「不確かな時代の方法としての政治 Pluralityと相互編集」です。 &nbs […]
小倉加奈子さん新刊『まぢすご』は何が「すごかった」? 特製しおり付で販売決定@別典祭(11/23-24)
編集学校の小倉加奈子さんが新書を出した。松岡正剛校長と田中優子学長を除けば、編集学校で新書を書いたのはおそらく唯一、小倉さんだけだろう。これは快挙だ。 また、新書といえば、優子学長の『不確かな時代の「編集稽古」入門』 […]
津田一郎の編集宣言◆イシス編集学校[守]特別講義 カオス理論で読み解く「守破離」と「インタースコア」
●「編集宣言」とは? イシス編集学校の基本コース[守]では、毎期、第一線で活躍するゲストを招いた特別講義「編集宣言」を開催しています。これまで“現在”アーティストの宇川直宏さん、作家の佐藤優さん、社会学者の大澤真幸さんら […]
『遊』大放出!? 続報!!「杉浦康平を読む」読了式 多読SP
「杉浦康平を読む」読了式の続報をお届けします。 先月、山田細香さんが最優秀賞&学長賞のダブル受賞を果たしたニュースはすでにエディストしました。ですが、授賞の舞台はそれだけにとどまりません。方源(穂積晴明)賞、武蔵美・杉浦 […]
コメント
1~3件/3件
2025-11-27
マンガに限った話ではないが、「バカ」をめでる文化というものがある。
猪突猛進型の「バカ」が暴走するマンガといえば、この作品。市川マサ「バカビリーバー」。とにかく、あまりにもバカすぎて爽快。
https://yanmaga.jp/comics/
2025-11-25
道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。