「知のアウトレイジ」、最後の一人がやってくる。
「『情歴21』を読む」シリーズ第六弾のゲストは作家・元外務省主任分析官の佐藤優さんです。これまでのゲストの山本貴光さん、大澤真幸さん、田中優子さん、武邑光裕さん、村井純さん同様に佐藤さんも「Hyper-Editing Platform[AIDA]Season2」のボードメンバーのお一人。
第3講DOMMUNEで登壇した際には、「前科一犯、佐藤優です」とひと言目からユーモアたっぷりに登場し、宇川直宏さんとも息ぴったりで、一挙に観客とDOMMUNEビューワーの心を鷲掴みにしました。
https://edist.isis.ne.jp/post/aida2_03pre/
「[AIDA]Season2」では、イシス編集学校の梅澤奈央記者(現在[離]講座を受講中)が佐藤番の番記者として張り付いて、講義後に毎回インタビューを実施しました。
とりわけウクライナ侵攻の危機が迫る中で行われた取材記事「【AIDA】佐藤優氏に聞く ウクライナ危機に見る「歴史なきナラティブ」の危険性とは」(取材:2022年2月12日 公開:2022/03/05)はイシス編集学校内外から大きな反響を呼びました。
https://edist.isis.ne.jp/guest/aida2_05_satomasaru/
その後も佐藤さんはウクライナ情勢について様々な媒体からメッセージを発信し続けています。
2022年6月3日には新書『プーチンの野望』(潮新書)も緊急出版され、すでに7万部突破のベストセラーとなっています。こちらに『プーチンの野望』について佐藤さんが語る動画があるのでぜひご覧ください。
「『情歴21』を読む」イベントでも間違いなく、佐藤さんのご専門でもあるソ連やロシア、ウクライナ情勢について存分に語られることでしょう。
上記の記事や動画からもわかるように佐藤さんは「読むプロ」「書くプロ」であると同時に「語りのプロ」です。イシス編集学校の松岡正剛校長は、佐藤さんのこの「読む・書く・語る」の三位一体のスキルを大絶賛しています。
松岡正剛・佐藤優『読む力 現代の羅針盤となる150冊』(中公新書ラクレ)
松岡校長と佐藤さんの共著『読む力 現代の羅針盤となる150冊』を読むと二人の相思相愛蜜月ぶりがひしひしと伝わってきます。
佐藤さんは「松岡正剛氏は天才的な解釈者である」と評し、校長の千夜千冊エディションシリーズ刊行開始の際は「二〇一八年の知的世界における最大の事件である」(KADOKAWA 本の旅人)と伝えています。
一方、編集工学あるいはハンス・ブルーメンベルク『世界の読解可能性』(1519夜)のコンセプトにもとづくならば、「佐藤優は天才的世界読解者である」と言うべきでしょう。
佐藤さんの表現の魅力は、どんなテーマを表すときも、常に沖縄という出自や元外務省官僚としての稀有な実体験に基づき、さらに神学はじめ膨大な宗教知識や哲学知識を背景にして、わかりやすくいえば「読書力」「サバイバル力」「交渉力」などに通じる、誰もが日常生活で活用できる人生哲学、すなわち「方法」として提示しているところです。
主題ではなく「方法」に非常に自覚的な点は編集工学と大きく通じる点です。
たとえば、先ほど取り上げた『プーチンの野望』の「はじめに」をすこし読んでみましょう。
このような状況で、ロシアのプーチン大統領の悪魔化が進んでいる。他方、ロシアにおいてはウクライナのゼレンスキー大統領に対する悪魔化が進んでいる。私は大学と大学院で神学を学び、社会に出てからも(当初は外交官、その後、作家)キリスト教の研究を続けている。実は他者を悪魔化する発想の背景にはキリスト教の影響があることが私にはよく見える。人間は罪から免れない。罪が形をとると悪になる。悪を人格的に体現したものが悪魔なのである。この思考を採ると、一旦、悪魔のレッテルを貼られた者は、打倒するかしかないという結論になる。こういう思考を純化させると核兵器を使用してでも悪魔(敵国)を殲滅しなくてはならないということになりかねない。しかし、そのような発想は、イエス・キリストの教えに反すると私は考える。イエスは、「あなた方も聞いているとおり、『隣人を愛し、敵を憎め』と言われている。しかし、私は言っておく。敵を愛し、迫害する者のために祈りなさい」(マタイによる福音書」5章43〜44節)と述べた。憎しみは人を曇らせる。敵を愛する気持ちを持つことで、われわれが敵と目している人が何を考えているかを理解する可能性が生まれる。私は外務省でロシア(旧ソ連を含む)を対象とする情報業務に従事していたが、聖書のこの言葉をいつも忘れないようにしていた。敵対する人々を憎むのではなく、その人たちにはどのような内在的論理があるかをとらえるように努力した。そして、神の働きによって敵対する人々の頑な心が柔和になることを祈った。
この文章では、一言で言えば、プーチンやゼレンスキー対する「悪魔化」を語りながら、他方でイエスの教えを持ち出すことで、コミュニケーション論や交渉術としても読むことができるように配慮されています。
このような方法の駆使は、実は、本だけではなく、佐藤さんご本人の身体性にも強くあらわれています。松岡校長が絶賛する三位一体とはこのことです。「佐藤優を読む」うえでもその「佐藤優の”ナマ”」を身体感覚で知るということをぜひオススメします。
眼光紙背? 蛇に睨まれた蛙? あの佐藤さんの蛇のように鋭い眼光の秘密とは何か。一方、真骨頂の語りからはそれとまったく相反する、美ら海のように温かく包み込むような人柄がざぶんざぶんと打ち寄せくるのです。
今回のイベントも、ナマ佐藤優のアウラを体感する絶好の機会となることでしょう。
左:『牙を研げ 会社を生き抜くための教養 』(講談社現代新書)
右:『佐藤優のウチナー評論』(琉球新報社)
「ISIS FESTA SP『情報の歴史21』を読む」は、古代から中世、近世、近代そして2020年まで古今東西様々なジャンルを見開きで一望できる『情歴21』という一大クロニクルに、どんな可能性があるのか、どのように使い倒すことができるのか、さまざまなゲストが自らの方法を開陳するスペシャルイベントです。
このアーカイヴは書籍化の構想もあり、今後も毎月一回ほどのペースで続いていく予定です。まだまだ見逃せない情歴プロジェクト、今後の展開もお楽しみに。
【プロフィール】
佐藤 優 さとう まさる
作家・元外務省主任分析官
1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。在英大使館、在露大使館などを経て、外務本省国際情報局分析第一課に勤務。本省国際情報局分析第一課主任分析官として、対露外交の最前線で活躍。2002年背任と偽計業務妨害罪容疑で東京地検特捜部に逮捕され、512日間勾留される。2009年最高裁で上告棄却、有罪が確定し外務省を失職。同年、自らの逮捕の経緯と国策捜査の裏側を綴った『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で毎日出版文化賞特別賞を受賞。以後、文筆家として精力的に執筆を続けている。
ISIS FESTA SP『情報の歴史21』を読む
第六弾 佐藤優篇
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2022年7月22日(金) 19:30~
■会場:
リアル参加:本楼(世田谷区豪徳寺)
オンライン参加:お申し込みの方にZOOMアクセス情報をお送りします。
■参加費 :
リアル参加:¥ 3,850(税込)
オンライン参加:¥ 2,200(税込)
■参加資格:どなたでもご参加いただけます。
■参加特典:お申込者限定のアーカイブ動画がございます。(視聴期間:約1カ月)
■お申込み:以下よりお手続きください。
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*プルダウンでリアル/オンラインをお選びください。
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:水木しげる
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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