言葉の意味は流転する。[守]20番お題「コンパイルとエディット」を体に通した者なら、辞書に載っている決まり切ったような言葉の定義も、もとは誰かが確固たる意志を持って編集したものなのだと速やかに了解できるところだろう。
2022年8月6日土曜、新たな意味が加わった言葉がある。「セブンイレブン」。100人聞けば100人があの大手コンビニチェーンを思い浮かべるはずだ。しかし元の意味を思い返してほしい。7-11。つまり1日16時間営業するお店は1920年代のアメリカ・テキサス州で始まった。もとは氷小売販売店だった。のちに食品や生活用品も扱うようになったこのお店は、戦後まもない1946年、朝7時から夜11時までの営業時間を店名に掲げるようになる。
この言葉の本来に立ちもどり、また意味を更新する場を、49[守]配線うなる教室の森重実師範代がオンライン上に立ち上げた。その名は「配うなセブンイレブン」。文字通り朝7時から夜11時まで開いている。何が開いているのか。森重師範代が勧学会に掲げたコンパイルを引いてみよう。
朝7時から夜の11時迄開いてるzoomルームです。
そこにいるのは配うなの師範代もりしげです。
Q 何をする気?
A 「誰に」に注意のカーソルを当ててください。お題が進まないなあというあなたに、まず聞いて欲しい。zoomでその場で目当てのお題を開いて、読んでみて、回答の方向性を考え巡らしてみて、師範代のちょっとしたアドバイスを支点にして、回答出力へ向かえるようにしましょう企画です。
つまり、学衆のよろず相談に乗る場。学衆はコンビニにふらりと立ち寄るように、自分の都合のよいタイミングでzoomにアクセスし、とっつきにくいお題や稽古の進め方など稽古の困りごとあれこれを師範代に相談できるというわけだ。決行日は8月6日土曜日。ちょうど兄弟教室・キジトラ疾走教室とのチーム「そびらっこ」合同オンライン汁講を予定している日である。夕方の汁講開催をセブンイレブンでサンドイッチする格好だ。師範代御手製のタイムテーブルを見てみよう。
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★ 8月6日土曜日 ひみつの大作戦 ★
★ 配うなセブンイレブン開展します ★
★ ★
★ 朝7時から始めるよ! ★
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07時┃ セブン開展!
休憩┃ 休憩は毎時10分挟んでいくよ。
08時┃ 朝ってけっこう知的な活動向き。
休憩┃
09時┃ 掃除洗濯すませてジョイン!
休憩┃
10時┃ 出かけるかどうするか迷ったらジョイン!
休憩┃
11時┃ お昼前にひと活動。
休憩┃
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昼休み〜┃ ひとまずお昼休憩にしましょう。
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13時┃ 午後は眠気を吹き飛ばすために
休憩┃ 声出していこー!
14時┃
休憩┃ 飲み物とおやつをお供にどうぞ。
15時┃
休憩┃
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16時┃ そびらっこチーム合同zoom汁講 第一部
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17時┃ 本楼zoom汁講
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18時┃ そびらっこチーム合同zoom汁講 第二部
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夕飯〜┃ おかわり汁講が続いているかも。
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20時┃ 夜の部は汁講参加者がそのまま滞在するかもね。
休憩┃
21時┃
休憩┃
22時┃ 最後はイレブンまで突っ切ろう!
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23時┃ イレブン戸締まり〜!
┃
┃ 最後にスクリーンショットで記念撮影があるよ。
┃
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みんなお疲れさま!
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「掃除洗濯すませてジョイン!」
「出かけるかどうするか迷ったらジョイン!」
各時間帯、あの手この手の誘い文句を載せているが、なにせ土曜朝の開店、いや開展である。夕方の汁講自体、前日になっても参加の回答はまばらだった。本当に学衆は来るのかー。
◎7:00
開展祝いに師範が駆けつけると、森重師範代、もとい森重店長が笑顔で迎えた。背景には見覚えのあるロゴマーク。聞けば、カラーガムテープを買ってきて手作りしたのだという。「今なら何も見ないでもロゴが作れる」と照れ笑いする店長。しかし、その後来客の気配はない。もしかしたら、このまま…。一抹の不安を抱えたまま、師範代と師範だけが画面に映る時間が流れる。
◎8:00
事態が急展開を迎えたのは開展から1時間を過ぎた頃だった。「本当は朝7時に来たかったんですけど」天真爛漫な第一声とともに、記念すべき1人目のゲスト、学衆Jがやってきたのだ。ここのところ身の回りのことが忙しく、なかなか稽古に集中できなかったという。いま取り掛かっているというお題を師範代が画面に写し、まずお題を音読してみよう、と誘った。Jがお題を読み上げる声が響き渡る。「これってつまりねー」「なにか思い浮かぶものはあるかな?」「学校でいうと…」大学院生であるJの地に寄り添いながら、師範代・Jの間で共読が進んでいく。「そういえば授業で…」Jの中で、お題という情報の乗り換え・持ち替え・着替えが起こり、回答への手すりがぼんやりと浮かび上がってくる。
▲ときに教室の他メンバーの回答も取り上げながら、お題への向き合い方を手渡していく。イシスならではの学びの深め方だ
森重師範代が率いるのは「配線うなる教室」だ。お題と学衆との間でもつれた配線が、師範代の手ほどきで、回答出力に向かいだした。
▲記念撮影を、と師範が促すと2人揃ってピースサイン。森重師範代の背景ボードには、実はロゴと並んで第二回番ボーの入選・入賞作品が貼り出されている
◎9:00
「なんだかできそうな気がしてきました!」笑顔で帰っていったJに手を振り、最初のゲストを喜んだのもつかの間、あらたな来客がやってきた。なんと、今度は配線うなる教室の学衆ではない。兄弟教室、キジトラ疾走教室の学衆Hが姿を表したのだ。
実は前日の夜、チームそびらっこ師範の尾島はキジトラ疾走教室の勧学会にこの一日限りの場のオープンを密かにリークしていた。こんな酔狂な企画、いち教室だけで楽しむのはもったいないとの思いだった。はたして開展2時間後、さっそく教室を越えての来訪が実現した。「夜の7時じゃなくて、本当に朝7時からやってるんですね」驚きを率直に語る学衆Hは、常に1,2を争う回答ペースで教室を引っ張るムードメーカー的存在だ。教室メンバーへの声がけも惜しまず稽古を楽しむ姿勢に、安田晶子師範代からは早くも「あなたは師範代になるべき」とラブコールが送られている。そんなHとはまもなくゴールが見えてきた守のこれまでの振り返りや、これからのことに話題が及んでいく。
▲本日2度目の記念撮影
◎10:00
娘さんをピアノの発表会に送っていくというHに別れを告げ、少々の休憩を師範代が取ろうとする間もなく、3人目が画面に映る。皆、なぜ示し合わせたようにきっちり1時間ごとにやってくるのかー。うなりだした配線は師範代を休ませなかった。「来ないと悪いと思って」。そうはにかんで姿を見せたのは、4月の教室開講当初、誰より先に共読の面白さを口にして師範代を喜ばせた学衆Yである。熟考タイプで稽古が遅れがちだったが、熱心な稽古ぶりで第二回番ボーでは入賞、入選を2つも勝ち取った。編集術への関心が深いYとは、お題相談だけでなく、この先の破の学びにも話が及ぶ。「稽古の復習をするなら、破に進むのが一番」と師範が背中を押す。
こうして激動の午前が終わった。このあと夕方の汁講までは凪の時間帯が続く。師範代はしかし画面を開けたまま、来客のない間は指南を返し場を温め続けた。汁講へは新たに、「ここでの学びを仕事に活かしたい」と意気込む学衆Tが参加。これまでの稽古の振り返りや本の読み方などじっくりと交わし合い、いよいよ散会する頃には、セブンイレブンもあと3時間ほどとなっている。画面に来客はない。午前だけでも賑わったなら、よかったのかもしれない。
▲休憩パネルも御手製
◎21:00
そんな勝手な納得を吹き飛ばすように、ラスト2時間で配うなセブンイレブンは開展以来の賑わいを見せた。21時過ぎ、これまでコツコツと回答を積み重ねてきた学衆Oが来店。ほぼ同時に、午前に来店したJが用事を済ませて再び訪れ、2人同時のお題共読が始まった。
▲本日初の2人同時来店。右端は師範の尾島
◎22:00
「卒門できるように頑張ります」と笑顔で宣言したOを見送り、画面に残ったのは師範代、師範、学衆J。破にも進むつもりだというJと、稽古のこと、日常と編集のこと、話題を広げながらゆっくりと交わし合いの時間が流れる。そうしていよいよ、閉店5分前ー。もうひとつサプライズがあった。午前に教室を越えて来店した学衆Hが、再び姿を表したのだ。もう一度師範代御手製のタイムスケジュールを見てもらいたい。
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23時┃ イレブン戸締まり〜!
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┃ 最後にスクリーンショットで記念撮影があるよ。
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この記念撮影の案内を学衆Hは覚えていた。家族が寝静まる自宅から、声を出せない代わりにわざわざチャットで「本当に11時まで開いてた!」と再びの驚きを送ってくれた。最後に場の空気が1,2度は上がったセブンイレブンは、かくして戸締まりの時間となった。
それにしても森重師範代はなぜ誰もが「本当に?」と耳を疑う企画を思いつき、本気で実行に移したのか。実はオープン前、チームに企画意図を打ち明けていた。
「稽古が遅れがちなメンバーへの受け皿をつくりたい」
卒門日は8月21日。卒門条件は38題全番回答だ。今ならまだ間に合う。間に合わせてほしい。ずっと開いている場なら、気軽に相談に来やすいかもしれない。それはまさに、日中は忙しく買い物に来られない人々のニーズを汲み取り普及したコンビニエンスストアの原点である機能を、イシス編集学校において継承した場だった。
こうして新たなセブンイレブンがこの世に誕生し、幕を閉じた。たくさんの笑顔のスクリーンショットとともに。
尾島可奈子
編集的先達:おーなり由子。十離で典離ののち5年ほどかけて師範代、師範の編集道へ。煌めく編集才能に比して慎重すぎるほどの歩みは、奈良が第二の故郷ということもあり、鹿っぽいと言われる風貌のせいか。工芸ライターやまちあるき企画で活動中。
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