43[破]汁講レポ:31音の物語

2020/01/11(土)15:11
img POSTedit

 今にも雨が降り出しそうな午後、豪徳寺駅前には、金沢から参加の池野さん、『謎床』をきっかけに編集学校に入った原さんの二人が集まる。直前に体調を崩したり、仕事で参加できない学衆もいて、「せっかくの汁講、もう少し集まれるとよかったのに……」という残念を全員で抱えながら、編工研でのリアル稽古が始まる。

 

 今日の物語編集術の稽古のために内海師範代が、用意したのは百人一首の阿倍仲麻呂の歌。


 「天の原 ふりさけみれば 春日なる三笠の山に いでし月かも」

 

 31音という短い言葉で構成される和歌も物語マザーを通してみることで、唐という彼方にミッションを持って旅立ち、唐において高い地位まで上り詰めながら、日本への帰還を果たせなかった壮大なワールドモデルが浮かび上がってくる。内海師範代は、すでに私たちは、様々な物語に囲まれていることを力を込めて伝える。初めて書く3,000文字の物語も恐れずに自然体で向かって欲しい。この言葉を弾みに過去の大賞作品の読み解きに向かう。

 

 物語を書くことに対し最初は少し戸惑いもあった池野さん、原さんも、内海師範代の31音の物語の紹介で肩の力が抜け、少しづつほぐれていく。合氣プロセス教室にとって、物語編集術という「彼方での闘争」に笑顔で向かう勇気を得るひとときとなった。


2019年12月22日(日)
「合氣プロセス教室」汁講
◎合氣プロセス教室 内海太陽師範代
 参加学衆:池野美樹、原文子(敬称略)

 

  • きたはらひでお

    編集的先達:ミハイル・ブルガーコフ
    数々の師範代を送り出してきた花伝所の翁から破の師範の中核へ。創世期からイシスを支え続ける名伯楽。リュックサック通勤とマラソンで稽古を続ける身体編集にも余念がない、書物を愛する読豪で三冊屋エディストでもある。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025