「こういうことなんじゃないか」という感触をもって着地した方が、3シーズン中で最も多かったように感じる。
Hyper-Editing Platform[AIDA]の3期目を締めくくる最終講が、3月4日に開かれた。最終講は常のとおり、座衆の卒業論文にあたる「間論」を主軸にセッションを重ねつつ、全6講を総括してゆく仕立てである。
冒頭の述懐の主は、AIDA師範代の川野貴志氏(たかとき連)。イシス編集学校でも長く番匠や師範として活躍する有名人で、AIDA師範代は3シーズン連続で務めている。その川野師範代が、今回の「日本語としるしのAIDA」の手ごたえを熱く語ったのは特筆すべき点だろう。
「生命と文明のAIDA」「メディアと市場のAIDA」「日本語としるしのAIDA」。Hyper-Editing Platformのテーマは毎期変わるが、座衆はもとより、テーマを決定する座長もボードメンバーも「それが何か」という答えを持ってはじめるわけではない。むしろ、考えるに値するテーマとして「そのようなAIDAがある」といったん仮説し、プログラムを通じて相互編集を行いながら仮説Xに漸近していく、そのようなアブダクションの試みこそがAIDAなのである。
座衆は、それぞれが背負う組織の課題を〈地〉や〈図〉としてテーマに照らしながら、舗装されていないがめっぽう面白い[問・感・応・答・返]の登山道を進む。最終的に何か大きなものを掴みつつも、その何かを爽快には言語化しきれない座衆もいる。しかし、川野師範代によれば、今期は掴みの感触を持てた座衆が多かったという。わかりやすさを目指さないAIDAであるが、Season3の豊かな実りの重みは、テーマゆえか、それともPlatformの成熟ゆえか。来シーズンへの期待が高まる。
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最終講のプログラムは、座衆ひとりひとりが「間論」を元に学びの総括を発表する。日本語としるしのAIDAという仮説から得た示唆を、これからの社会編集にどう活かしていくかという展望や意気込みがさまざまに語られた。きりりと黒一色のコーディネートで場に臨んだ松岡座長が、ときに頷き、ときに笑いながらそれを聴く姿が印象的であった。これまでの講義をもとに「かりそめ」「あそび」「ゆらぎ」というキーワードが頻出した。
松岡座長は、日本語としるしのAIDAにあるもののひとつはスコア、ノーテーションだヒントを添え、圧縮されノーテーションされたものを交換するところに文化があると語った。
イシス編集学校で「交換」といえば、エディティング・モデルの交換(『知の編集工学』p.126※文庫)がまず浮かぶ。まったく同じ言葉も、状況や取り交わし方、先行する編集構造によって意味が変化する。いったんそういうふうに考えたとしたら、というアブダクティブなかりそめ状態のまま、しるしのあそびを保ったまま、モデルをあてはめあいながら状況を進めていく。そうすることで、新しい編集が生まれてくる。
しるしの交換は日本語に限ったことではないが、現代社会では、しるしを記述するメディア≒世界の側で、誤読可能性やノイズやゆらぎを極力排除しようとする圧力が強い。そんな中で、日本語がもつ「仮の状態」を保つ力を、あらためて技能として持ち直したほうがいい、というのは安藤昭子氏の言だ。社会や組織に生命的なシステムという見方をかぶせるのだとすれば、そこには「ゆらぎ」が絶対に必要だからである。
また、AIDAボードメンバーの山本貴光氏は、Hyper-Editing Platform[AIDA]という場そのものが「あそび」の余地をたっぷり持った貴重な場である、ということを指摘した。新たなメディアやプラットフォームを構想するにあたっては、人々がそこにどう関わっていくかという方法の設計が新しさを生むのだと。[AIDA]は、答えではなく仮説や問いを床の間に飾り、台本のない連歌のような検討を大真面目に遊ぶ場である、と私には見える。山本氏は、居並ぶ座衆に向けて、直に学んだことを持ち帰るとともに、この場がどう作られているかについても眼差しを向けてほしい、と気づきを与えた。
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松岡座長は、最後に、日本語は「創」である、ということをあらためて語った。日本のしるしには、創造性(クリエイティビティ)ではなく創(きず)がある。創は、倉(アーカイブ)に対して刀を入れていくという字だ。世界としるしと言語は一体化しているのだから、みなさんは、創をつけないとだめだ、と。創をつけると、そこには新しいロールや数寄が生まれる。それは、イシス編集学校で体現されていることでもある。
「日本語としるしのAIDA」全6講は、創に向かう方法と共に、勇気を与えてくれる場であった。
★今期からは、特設サイトも格段にバージョンアップしている。ぜひこちらもご覧いただきたい。
https://www.eel.co.jp/aida/lectures/
加藤めぐみ
編集的先達:山本貴光。品詞を擬人化した物語でAT大賞、予想通りにぶっちぎり典離。編纂と編集、データとカプタ、ロジカルとアナロジーを自在に綾なすリテラル・アーチスト。イシスが次の世に贈る「21世紀の女」、それがカトメグだ。
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