2024新春放談 其の肆 – 町に、子どもに、大人に、編集の小さくて大きい種をまくヒト

2024/01/04(木)07:30
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石川県能登地方を震源とする地震により被害を受けられた皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。


 

遊刊エディストの新春放談2024、其の肆をお届けします。4日目は佐々木千佳局長とともに子ども編集学校の種を育て、ここそこに編集の種をまく得原藍さんをゲストにお招きしています。

 

◎遊刊エディスト編集部◎

吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 梅澤奈央 師範、上杉公志 師範代,穂積晴明 方源, 松原朋子 師範代,

 

◎ゲスト◎

子ども編集学校ナビゲータ、理学療法士

得原藍 師範

 

吉村 さて、もう一人、ゲストをお呼びしました。佐々木千佳局長とともに早くから子ども編集学校の活動に参加されてきた得原藍さんです。

 

得原 あけましておめでとうございます。

 

吉村 そもそも得原さんはどんなきっかけから子ども編集学校に関わるようになったんですか。佐々木局長と一緒にだいぶ前から活動を始められた印象がありますが。

 

得原 そうなんです。たしか、本楼でのワークショップは2018年から、世田谷モノづくり学校でのワークショップが2019年だったと思います。

 

白熱の音かるた 子ども編集学校(2019年レポート)

 

得原 きっかけは、自分が[破]の学衆だった感門之盟のとき、佐々木局長が子ども編集学校をやりたい人がいたら声をかけてとアナウンスされていて。すぐにやりたいです、とお伝えしておきました。そこから半年後か1年後に声をかけてくださって、編集学校の近くに住んでいたので、ミーティングもしやすく呼んでいただきました。

 

吉村 たしか、師範代になる前からでしたね。

 

得原 はい。その後、子ども支局の活動が始まって、編集かあさんの連載をされている松井路代さんや吉野陽子さん他と一緒に支局をやらせてもらうことになりました。皆さんが師範代経験者だったこともあって、もうちょっと型のことや手渡す方法も学ばないとならない、と感じました。ISIS編集学校で学ぶ編集の方法を子どもに手渡すためにやっているのに、ISISがわからないことへ引け目を感じていたんです。支局のメンバーの皆さんとプロジェクトをやらせてもらったことで、やっぱり花伝所に入って師範代を経験しないと、と思いました。局長は気にしなくていいよといってくださっていたのですが。

 

吉村 局長にすすめられたからではなく、自ら師範代もされたんですよね。

 

得原 もともと専門学校の教員をやっているときに[守]に入りまして。科学道100冊を職場で知って、すごい100冊だなと思って、それをディレクションしている編集工学研究所に興味を持ったところがはじまりでした。編集工学そのもの、型や稽古をやりたくて入ったというよりは、こんな100選をつくるには何か秘密があるのだろうと思って。

 

ウメ子 [守]に入ってからは、実際にはいかがでしたか?

 

得原 [守]をやっていると、どんな答えにも師範代が何かを返してくれますよね。当時教員をしていましたが、テストの採点の中で一人一人に思うことはあってもそれを直接じっくり伝えることはなかなかできない。でも、師範代は何度も何度も指南してやり取りをします。そうすると教室でも、座が温まることで皆が勝手にしゃべりだしたりする。何かを発するには受け止めてもらえたと感じることが大事なのだと学びました。

 

吉村 最近は大学生でもあまり意見をしない、できない人が増えている印象がありますよ。

 

得原 そうですね、専門学校や大学での非常勤をやっていると、意見を言えない学生が多くて、意見を言えないまま大人になってしまった、二十歳です、ということがあります。

 

後藤 長いこと勤務していた英語学校で様々な大学生を見てきたのですが多くの学生に意見がない、もしくは考える力が弱いなと感じていました。言語力とともに思考の型が必要だと思って、編集学校に携わっているわけですが。そのまま二十歳になってしまっては遅いので、子ども編集学校はその意味でも、《編集人》を丁寧に育てることを担えると思うので、いつも静かに見守っています。

 

得原 ほんとうに。意見の伝え方とか、誰かに意見を言われた時の返し方は、学校の中では誰にも習いませんよね。子どもたちが自分の意見を言えるようになることが大事で、そのためには大人たちが、編集学校のようなこういう練習をしていることが大事だと思っています。大人たちがこんなに意見する場所があるんだとイシスに来ると思えますよね。

 

吉村 得原さんは、師範代時代から[破]の師範をやりたかった。その心は?

 

得原 [破]では、自分の考えていることを言語化する機会がたくさんあります。[破]のプログラム、お題、プロセスにすごく未来があると感じているので、師範の立場に立たせてもらって、見えてくるものが違い、師範代では見えない部分を見ることができました。

 

上杉 [破]の講座が、どうなっていくと面白くなると思いますか?

 

得原 どうやって社会につなげていくのか。起きている生活の中の様々なことに、あのとき考えた[破]の思考プロセスを応用していくには、どうしたらいいんだろうなと考えます。型があって、方法があって、お題があるので、お題をこたえるために、自分の思いを深めるのか、自分の思いを深めるためにお題を利用しているのか、学衆さんが相転移してくれるといいなと思ってながめています。まだ手探り状態ですが。

 

吉村 スポーツの場では、競技人口が増えるにはスポーツの中で優れた成績を残すような選手が現れたり、チームとしても成果が出せたりすると、仕組みとしてうまくいく場合があります。おそらく編集を学ぶ環境をつくるのは、どこかそういう側面も必要なのだと考えているんですよ。[破]がそれには近くて、[破]で学ぶ編集術は社会とつながる可能性がありますよね。

 

得原 そうですね。J-Leagueの発展が参考になるかもしれません。三浦カズ選手がいて、個の突出があったこと。その上で組織ができてきた。お金が回る仕組みを作ってきた。組織も仕組みも、万人に受ける方向に、J-League は向っていったと思います。編集学校も、もっと社会に対して、伝わりやすくなる部分が必要かもしれないですね。編集といったら、本をつくることに繋がってしまうのが現状ですが、編集が世に広まっていくそのとっかかりが子ども編集学校にはあるんじゃないかなという気がしています。

 

吉村 いいですね。“編集って広がるといいよね”と思ってくれていると思うんですが、“編集が広がるに決まっている”と皆さんあまり思っていないんじゃないかな。それって、なんでだろうと思っているんですね。

 

得原 子育てをしている大人たちは、子どもに、多様性や答えのないことの導き方を教えたいと思っています。でも親はそれを習ったことがないとも自覚しています。多様なものから答えを見出す、わからないものに答えを出すことって、世の中の子ども向けのプログラムを見ても、ワークショップをやって知らなかった世界が見えたね、以上、みたいなことばかり。盛り上げて楽しかったね、となるだけに終始してしまう。子ども編集学校で手渡そうとしているのは、そうではなくて、型をベースにしていて、オノマトペや俳句など[守]でならった型そのものを子どもにできるようにして渡します。大人になってもできるものを渡していると思うんです。

 

上杉 子ども編集学校のみなさんは活発に新しい活動をプランニングされていますね。

 

得原 ええ、先日は松井さんが関西で、オノマトペでハイキングを、元学衆の坂口さんと企画して実施されていました。そのように、方法をかみ砕いて企画している支局のメンバーの方たちはすごいなと思います。子ども支局自体が、プランニング編集術なんですよね。参加者の一人としても、机上ではないプランニング編集ができる場所になればいいなと思います。

 

マツコ 2024年、こういう年にしていきたいという抱負はありますか?

 

得原 昨年から、自宅のまえに、本箱を置いたんです。地域で移動図書館の活動をしていた方がはじめたのですが、本箱オーナーの募集があったので手を挙げたんです。人口3万人の町に、30くらい本箱が置かれています。中に入っている本を、近所の人が自由に借りられる仕組みです。また、町中にあるどの本箱にかえしてもいいし、自分の本をそこに寄付してもいい仕組みです。

 

吉村 それは面白いですね。

 

得原 自分の本箱を運営するようになって、編集学校の方法をそこに活かせないかと。分配された本をそのまま詰め込んでしまうと、本箱がぎゅうぎゅうになってしまうので、わたしは大人向け・子ども向け・お母さん向けの本が、それぞれ3冊ずつは入るようにするなど自分なりに編集をかけています。そうすると、ほかの本箱との違いが出せるかなと感じていて。今後は、子ども編集学校でやったPOPをつけるとか、準備してやりだそうとしています。そのうち3冊セットもやりたいと思っています。

 

うみとやまのこども図書館

得原家の前に設置された”みんなの本箱”(「うみとやまのこども図書館」の活動の一環だそう)

 

吉村 編集学校と本箱を介してコラボもできそうですね。

 

得原 そうなんです、少し編集を加えたら、近所の人が扉を開けてよく見ていることがわかって。犬の散歩から帰ってくると、覗いている人と出会ったりします。毎日覗いている子どもがいて、お母さんにしゃべっている声を聞いたり、うれしいことがたくさんあるんですよ。

 

ウメ子 本箱を介してインタースコアが起こっている?

 

得原 はい、それで、編集の種をそこでまけたらいいなって。本って3冊セットができるんだ、ということとか、この絵本とこの絵本が関係ないと思うが説明を聞くと確かにな、とか、私たちが編集学校で気づいた ”ハッ、おもしろい” の種を小さく出し続けられるかな。これを2024年はやっていきたいと思っています。

 

金 ゲリラっぽくしていくのがおもしろそうですね。

 

得原 テロっぽいほうが好きだなと思っていて。

 

上杉 ISISの師範代全員で全国に本箱を持つなんていうのもいいですね。ISIS箱3冊セットを公開するとか。

 

得原 おもしろいことをやっている人があそこにいるよということから、本好きの地域仲間がISISを知る、という入り口ができたら楽しそうですよね。そう、先日、夜のライトを本箱につけるようにしたんです。ご近所さんも、防犯になるからいいわ、と賛同してもらえたのがうれしかった。小さく始める町の編集学校、町に破片を残したいと思います。

 

得原 おもしろいことをやっている人があそこにいるよということから、本好きの地域仲間がISISを知る、という入り口ができたら楽しそうですよね。そう、先日、夜本箱に近づくとライトがつくようにしたんです。ご近所さんが、防犯になるからいいわ、と賛同してくれたのがうれしかった。小さく始める町の編集学校、町に破片を残したいと思います。

 

得原 もうひとつ、自分で運営するプレーリヤカー(移動遊び場)の活動でも「絵本どうぞ」という名の、自由に絵本を持ち帰ることができる取り組みもしています。寄付いただいた絵本が循環することを目指しているんです。これにも、何かしらの編集をかけていきたいなと思います。

 

運営するプレーリヤカー(移動遊び場)

得原さんが運営しているプレーリヤカー(移動遊び場)の様子。

 

吉村 得原さんの次は?

 

得原 今年は[離]に申し込みました。2024年は学衆側で参加するのが楽しみです。イシス編集学校は、私にとってはひとつの“あいだ”の場。こういう場を大事にしたいと思っています。

 

吉村 町の本箱、いろいろ一緒にやりたいですね。2024年は何はともあれ、まず[離]ですね、そこでも活躍を期待しています。ありがとうございました。

 

 

※ラスト、編集部が2024年を予想し妄想する其の伍」は5日に公開。

 

 

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🎍2024年 新春放談🎍

 其の壱 – 登り龍のごとく「E」が時代を翻す(1月1日 0時公開)

 其の弐 – 方法の意識で良記事を次々と生み出すヒト  (1月2日 公開)

 其の参 – ISISな祭りを復活させるレジェンドなラジオ男(1月3日 公開)

 其の肆 – 町に、子どもに、大人に、編集の小さくて大きい種をまくヒト (1月4日 公開)(現在の記事)

 其の伍 (1月5日 公開予定)

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  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。