先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
中田ちひろさんは「わかりやすい」を求められる広告・広報の世界でずっと生きてきたという。ところが「読み書き」を上達させたいと入ったイシス編集学校の基本コース[守]で、これまでの人生がカワル体験をしたのだという。
その体験とは? 中田ちひろさんのエッセイをお届けします。
■■「わかりやすい」の請負人として
難しいことをわかりやすく伝えたい。
そんな青雲の志を抱いて日用消費財メーカーに入社したのが1986年。男女雇用機会均等法の一期生、センパイはいそいそお茶汲みを引き継いできた。広告媒体はテレビと新聞が王様で、会社のデスクは固定電話機だけ。
「わかりやすい」。ここではこれほどの正義は他になかった。
カタカナをつかうと「団地の奥さんにそんな言葉がわかるのかっ」と偉いさんにドヤされる。TVコマーシャルでは、たったの30秒 or15秒で買いたくなってもらうため、「わかりやすい」はクリエイティブ評価の大前提。プレゼンテーションで、少しでも聞き手にギモンを与えてしまうと、ツッコミの嵐が吹き荒れ結論に辿りつかない。いつしか小学生にも理解できるような「わかりやすい」プレゼンがモットーになっていた。
ひたすら「わかりやすい」を量産し、33年のメーカー人生卒業。今は週3日の広報パートタイマー。ここでも社内報やニュースリリース、所謂「わかりやすい」の請負人。
カイシャのため、ヒトのため「わかりやすい」はおまかせください。これが私の生きる道。
そんなワタシがISIS編集学校に入ったのは
・もっともっと読み書き上達したい
・編集力チェックで、やたら褒めちぎられ調子にのった
そんなところ。
授業料のモト取ったるで! と臨んだ[守]の稽古が始まった。
ぼんやり想像していた赤ペン先生とは、かなり違う…全く違う…別物。それは、文章テクニックの習得ではなく、物事の見方、考え方からやり直させられる感じ。この歳で、こんなにたくさんの「未知」「未体験」に出会うなんて!
中でも、校長の言葉「わかりやすさに抵抗がある」はジンセー狂わす最大の衝撃。
「わかりやすい」ダメですか…オノレの人生全否定。でも、言われてみれば反論できない。求められるまま量産してきた「わかりやすい」は、カンタンに手の届く欲望でインスタントに満足する消費のためだったの? 理解できないままに、川端、谷崎、三島を読み耽った中高生の頃のようなチャレンジングな読書も遠いムカシ。青雲の志にあった「難しいことをわかりやすく」はどこいったんや!
よわい60にもなろうものなら、経験値もつみかさなって図々しいオバはんなわけだけれども、校長の言葉のおかげで初々しいオトメが顔を出した…気がする。オバはん初心にかえる。
しかも、38の守の稽古を進めばすすむほど自分の足りないがくっきり見えてきて、世の中コンナモンサとは到底言えないざわざわした私にもなってきた。
「知らない」はもとより好物ではあるけれど、ケタ外れの母型まで遡るヤリカタも努力も持ち合わせなかった自分に、方法を見せてくれたのはISIS編集学校。
心震えるほどのヨロコビは(好きあっての)困難のサキにある。これもISIS編集学校に教わったこと。
かけだしの、学衆のハシクレではありますが、難しめのお題を考え、考え、考えて回答ができた時、指南を受けもう一度回答をつくり直して再び指南のメールを読んだ時、何ともいえないヨロコビを感じたなぁ。部活のシゴキを乗り越えた時のキブンと似てるかも。とてつもない「わかりにくさ」から得られるヨロコビって、想像もつかない。その域までやすやすとは辿りつかないだろうけど、近づいてはみたい。
ISISの門をくぐったら、わかりやすいワタシが、わかろうとするワタシになっていた。
▲第83回感門之盟にて。ノート結索教室の大和丈紘師範代、小椋加奈子師範と。
文・写真/中田ちひろ(52[守]ノート結索教室、52[破]魔弓マイスター教室)
編集/角山祥道(チーム渦)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-10-20
先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。
2025-10-15
『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。
2025-10-14
ホオズキカメムシにとってのホオズキは美味しいジュースが吸える楽園であり、ホオズキにとってのホオズキカメムシは血を横取りする敵対者。生きものたちは自他の実体など与り知らず、意味の世界で共鳴し続けている。