私の28[花]キャンプは、吉阪隆正の建築思想【不連続統一体】の体験だった。場面ごとに異なる空間が次々と立ち現われてくる。よく分からないままに一周すると、ようやく建物を貫く原理のようなものが見えてくる。この「遅れて」やってくる全体性がたまらなかった。

リスキリング(学び直し)という聞き慣れない言葉が、聞こえてくるだいぶ前から、イシス編集学校では弛まず学びを重ねている。
10月5日 54守創守座。
10月に開講する54[守]の師範代のために、指導陣が学びの一座を建立した。
【三位一体で世界を創る】
この日、デザイナーである阿久津師範は、松岡校長の『デザイン知』を紐解き、デザインと[守]の用法2を繋げて語った。[守]コースには、用法1~用法4の中で38のお題がある。用法2では、細かく切断した情報と情報を接続し、思考の組み立てのための型を学ぶ。編集思考素と呼ばれている同じ力が引き合う三位一体や、情報の全体を捉える二軸四方型は、本来、新しい発想を生み出す型だが、単なる整理術になったり、「型にはめる」だけで終わってしまうこともある。
しかし、師範は語る。
用法2の型を使って情報をレイアウトしたり、置き直しをすると、これまで見えなかった意味や物語が生まれてくるのだと。
たとえば、『三国志』の中で、諸葛亮孔明が劉備に語った世界デザイン、天下三分の計。魏呉蜀の三つの国の国力比は、魏6:呉3:蜀1とも言われている。ケーキを分けるように、天下を三等分するのではない。不均衡な三勢力の引き合いをとり三位一体で一つの世界を創るのだ。師範の語りに目から鱗が落ちた。三位一体は新しい世界を創る。
【スコアは物語る】
用法2のお題の中には「スコアリング」もある。スコアとは測る、図る、計る、量る、察る、度ることだ。
古代エジプトでは、7月半ばの日の出に昇るシリウスが、ナイル川の氾濫の始まりと重なることにもとづき、エジプト暦「ソティス暦」を生み出した。
ダイヤモンドの価値を評価する基準のカラットは、ダイヤモンドの質量を示す。1カラットの重さは0.2gであり、重さが増えると石のサイズも変わる。0.2gが1カラットになったのは、石の重さを量るために植物の種子が使われていたためと言われている。
スコアとは、あるもので、別のものを表すことだ。ナイル川の氾濫の時期を星の位置で測り、ダイヤモンドの質量を種の重さで表す。
イシス編集学校では、これをインタースコアと呼び、スコアを掛け合わせる方法を重視している。
スコアの力はそれだけではない。
もともと音楽にはスコアがなかったが、歌詞のテキストの上に文字やアクセント記号、旋律や音色の異なる線を書き入れたことから五線譜が生まれた。タンゴの巨匠、ピアソラの音楽が、クラシック演奏家によって今も演奏されているのは、ピアソラがタンゴの作曲家には珍しくスコアを残したことに理由の一端がある。スコアとは、文化の伝達手段でもあるのだ。阿久津師範は、この日、一つの童謡を持ち出した。誰もが知っている歌『背くらべ』をスコアという視点で見ることで、世界が驚くほど、深くなる。
『背くらべ』
柱のきずは おととしの
五月五日の 背くらべ
ちまきたべたべ 兄さんが
計ってくれた 背のたけ
きのうくらべりゃ 何(なん)のこと
やっと羽織の 紐のたけ
身長、時の流れ、ちまきの個数、羽織のひもの長さと、たくさんのIn-Form、つまり情報がカタチをもつ様子が現れている。昔は、一年に一度、子供の身長を柱に刻む風習があった。離れて暮らす兄が、二年ぶりに実家に帰り弟の背を測ると兄を待った二年という時に長さの割に、子供用の羽織のひも程度しか背が伸びていないという弟のがっかりした気持ちが表れている。
スコアはただの数字ではない。それは情報であり、情報は情報を連れてくる。つまり、記録もメモリも、孤立した情報にしない。情報を切り取り、つなげることで、フォームが生まれ、新たな価値をつくり出すことができるのだ。それは、イシス編集学校の教室の中においても起こることだ。学衆と師範代が持つ情報がつながり、新たなスコアを生むインタースコア編集によって、これまでにない価値観が現れる。
文/北條玲子(54[守]師範)
アイキャッチ/阿久津健(54[守]師範)
◆イシス編集学校 第54期[守]基本コース◆
稽古期間:2024年10月28日(月)~2025年2月9日(日)
詳細・申込:https://es.isis.ne.jp/course/syu
イシス編集学校 [守]チーム
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