こういう作品は何度でも見たくなる。この物語を生きる人たちといつまでも茶の間で笑い続けたくなる。
2024年11月初旬、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで、井上ひさしの戯曲『太鼓たたいて笛ふいて』を観劇した。演出は栗山民也、出演者は、大竹しのぶ、高田聖子、近藤公園、土屋佑壱、天野はな、福井晶一、そしてピアノ演奏は朴勝哲だ。『放浪記』で人気を博した作家・林芙美子の後半生を描いた評伝劇を楽しくも悲しいピアノと歌、台詞のミックスで描いている。
実はこの劇を私は1週間で2回観た。初回で十分に満足度が上がっていたので、2回目にこれ以上があるものかと少し不安もあったが、予想はあっさりと裏切られた。2回目の方が役者の言葉ひとつひとつが粒立って聞こえてくるし、歌のメロディは鼻歌したくなる。舞台で起きるいちいちのことに心ゆさぶられた。観客の笑いや涙に感染し、大竹しのぶの声とゆらぎ、近藤公園の怒涛の岩手弁に飲み込まれる感覚もよかったが、やはり井上ひさしが書いたこの「メタな物語」「キャラクターの突出」「巧みな言葉遊び」に中毒性があるのだ。いつまでも何度でも見ていたい。
この舞台は一人の作家の生き様を中心に描いた「物語」だが、奥から見えてくるのは、昭和の負であり権力者たちが作った世界の「物語」である。その負の物語は、10月に刊行された松岡正剛と田中優子の対談本『昭和問答』の中で語られている事にも重なる。一部抜粋すると、戦争から降りられなかった日本について松岡は、「井上ひさしはその矛盾を笑いにまぶして芝居にしていった」と記している。矛盾に蓋をする世に対して「書く」ことで抗った芙美子の人生に、井上の人生も重なって見えたからこそ胸を打たれた。
ISIS co-missionの井上麻矢さん(劇団こまつ座代表)から編集学校に届いた言葉を紹介したい。
「太鼓たたいて笛ふいて」…は物語を紡いだ林芙美子の物語、時代や国の物語、一人ひとりの愛すべき人々の物語と三重構造の物語にまつわる物語です。
この物語が令和の今にもつながる物語であること、「書く」ことに命をかけた人の物語であることも加えておきたい。
公演は年末まで場を移しながら続く、ぜひ2度は足を運んでみて欲しい。
【公演情報】
https://www.komatsuza.co.jp/program/#more470
11/1(金)- 11/30(土)東京都 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
12/4(水)- 12/8(日)大阪府 新歌舞伎座
12/14(土)- 12/15(日)福岡県 キャナルシティ劇場
12/21(土)- 12/22(日)愛知県 ウインクあいち(愛知県産業労働センター)
12/25(水)山形県 やまぎん県民ホール(山形県総合文化芸術館)
林朝恵
編集的先達:ウディ・アレン。「あいだ」と「らしさ」の相互編集の達人、くすぐりポイントを見つけるとニヤリと笑う。NYへ映画留学後、千人の外国人講師の人事に。花伝所の花目付、倶楽部撮家で撮影・編集とマルチロールで進行中。
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