【多読アレゴリア:大河ばっか!】べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その五

2025/02/07(金)22:00 img
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 数寄を、いや「好き」を追いかけ、多読で楽しむ「大河ばっか!」は、大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブです。
 ナビゲーターを務めるのは、筆司(ひつじ)こと宮前鉄也と相部礼子。この二人がなぜこのクラブを立ち上げたのか? それは、物語好きな筆司たちが、過去の大河ドラマを編集工学の型によって紐解き、その魅力を分かち合いたいという思いからです。

 節分が2月2日になるのは4年ぶり。その節分の日に放映された第5回は、「福内鬼外」こと平賀源内先生が大活躍の回となりました。

 


 

第5回「蔦に唐丸因果の蔓」

 

◆語られる限り、夢は次の世へ流れていくもの◆

 

 夢ってぇのは、ふしぎなもんだよ。「夢がある」と言やぁ前向きな響きがするのに、「夢物語」となると、途端に後ろ向きに聞こえちまう。

たしかに、世の中はそう甘くはない。夢は朝露みてぇなもんさ。日が昇りゃすうっと消えちまうし、指先で掬おうとすりゃ、ぽたりと落ちてしまう。そんな儚ぇものを語ったところで、無駄な話だって?でもねぇ、本当にそうかねぇ?夢を語ることが、そんなに無意味なことかい?夢ってのは、ただ口にしただけじゃ終わらねぇ。語る者がいて、聞く者がいて、拾う者がいりゃあ、いつかそれは「もし」に変わって、新しい現実になるかもしれねぇ。

 だからこそ、夢は語り続けることが肝心なのさ。夢がついえちまっても、誰かがそれを語り続ける限り、それは物語として生き続ける。物語になっちまえば、それは誰かの胸に残り、やがて次の世へとつながっていくのさ。夢は消えたときが終わりじゃない。夢が語られた瞬間、次の物語が始まるんだよ。

 

刹那の輝き、そして儚く散った夢

 

  秩父で鉄の精錬を試みた平賀源内は、火事を起こし、大損害を出しちまった。借金を背負い、金を返せと迫られ、今度は炭の商売に乗り出そうってんだから、まったくもって、しぶとい男さね。

 そんな源内に、蔦屋重三郎(蔦重)がぽつりと漏らした。「儲け話を考えて、人を集めて、金を集めて、一々大変なのでは?」すると、源内は笑いながら言ったのさ。

 

「自由に生きるってなぁ、そういうもんでさ。自らの思いによってのみ、わが心のままに生きる、わがままに生きるということを自由に生きるっていうのよ。」

 

 なるほどねぇ、夢を見る自由ってのは、こういうことを言うのかもしれないねぇ。人が思うように生きるには、世間のしがらみや掟を越えなきゃならねぇ。けれど、源内先生はそれをものともせず、まるで蔦のように、どんな障害があろうともするすると絡まり、手を伸ばせる先へと伸び続けるのさ。けんどねぇ、自由を貫くにも、夢を追うにも、まずは金がいるのさ。そこで源内は田沼意次のもとを訪ね、こう言い放った。

 

「開国しようじゃありませんか」

 

 異国と交易すりゃあ、幕府の堅物どもも「ものの値打ち」ってもんを知ることになる。この国じゃ、武士だの家柄だので人の価値が決まっちまうが、外国じゃそうはいかねぇ。ものの値打ちを決めるのは金銀銅、そして知恵と才覚。

 

「やつら(異人)が取り引きしてくれるのは(米ではなくて)金銀銅。人の値打ちだってそう。おりゃ、先祖が偉いんだってまくしたてても通じませんし、通じたところで、『は、それで?』って話でしょ。」

 

 これが、開国すれば世の中が変わる、って話につながるわけさ。言葉を覚えた幇間(ほうかん)が通詞(通訳)になり、商才のある町人が異国の商人と渡り合い、力のある者が身分に縛られずに生きていける時代が来る。そうなりゃあ、先祖の名だの格式だのじゃなく、「今、何ができるか」で人の価値が決まる世の中になる。力のある者が身分に縛られずに生きていける時代が来る——。そんな未来を、二人は夢見た。

 

 だが、意次はため息をついてこう言った。

 

「開国すれば、あっという間に属国になるだろう。」

 

——その一言で、夢は砕けた。手元でふわりと揺れていた灯火が、ひと息で消されちまうように。けれど、そこで終わりかい? いいや、夢ってやつはそう簡単に消えはしないのさ。夢がついえたなら、その続きを考えるのが人間ってもんだ。源内と意次が夢見た開国の物語。それが誰かの耳に届いたとき、こう思うかもしれない。

 

 もし、属国にならずに開国する道があるとしたら……?

 この「もし」が生まれた時点で、夢はまだ生きている。そして、それを考え続ける者がいる限り、夢は形を変えながら、次の時代へと受け継がれていく。それは、唐丸の話とおんなじさね。

 

夢が枯れても、語り続けりゃあ、また花が咲く

 

 唐丸は、天才的な絵の才能を持っていた。だが、唐丸の過去を知るという浪人に脅され、蔦屋の銭箱に手をつけ、姿を消した。更に悪いことに、その浪人が川で溺死体となって発見された。唐丸は盗人どころか、人殺しの仲間と噂され、名を汚されることになったのさ。

 

 その前夜、蔦重は楽しそうに語っていた。「おめぇを、当代一の絵師にしてやるよ」。けれど、唐丸はどこか遠くを見つめるように微笑んで、静かに言った。「そうなるといいね」——その言葉は、まるで遠い未来へ向かってつぶやかれたもののようだった。

 

 唐丸失踪後、九郎助稲荷で何も知らなかったことに落ち込む蔦重に、花の井はそっと言った。

 

「真実がわからないなら、できるだけ楽しいことを考える。

それが私たちの流儀だろう?」

 

 そうさ、夢が潰えたなら、新しい夢を紡げばいい。ならば唐丸には、新しい物語を与えてやろうじゃないか。

 

 唐丸は大店の倅だった。後妻に疎まれ家を追われるように出たものの、やがて戻ってきた——けれど稼業に身は入らず、ただ筆を握って、

ひたすら絵を描き続けた——。

 これが花の井の見た夢、いや紡いだ物語。

 

「きっと、唐丸は絵を捨てきれねぇ。いつかまた戻ってくるさ。」

 

 蔦重は、そう言って口元を歪めた。唐丸がどこへ消えようと、噂がどう広がろうと、この江戸に戻ってきたときには——

 

「そのときは、『謎の絵師』として売り出してやるよ。」

 

 現実の唐丸は消えちまった。だが、それなら新しい唐丸というキャラクターを仕立てて、語ればいい。盗人でも、人殺しの仲間でもなく、世を忍ぶ「謎の絵師」として、江戸に蘇らせるのさ。夢は一度は砕け散った。けれど語り続ける限り、唐丸は「物語のなかの絵師」として生まれ変わる。

 そして、いずれ誰かが「もし、この謎の絵師が本当にいたなら?」と「もし」を語り継げば、唐丸という存在は、ただの噂話ではなく、伝説となって生き続けるのさ。

 

◆さぁ、あなたの大河を紡ごうじゃあないか◆

 

 語られる夢の数だけ、新しい物語が生まれる。夢が生まれるたびに、それを語る者がいて、聞く者がいて、そこからまた、新たな「もし」が生まれる。

 

 もし、田沼意次が開国に踏み切っていたら——
 もし、唐丸そのままが絵師として世に出ていたら—

 

 さぁ、あなたも歴史からたくさんの「もし」を集めて、新しい大河を生み出そうじゃないか。物語は、語られるうちは途切れることはない。夢がある限り、大河のように、どこまでも続いていくのさねぇ。



多読アレゴリア2025春「大河ばっか!」


【定員】20名(各クラブごとに定員が異なります。定員になり次第、締め切ります)
【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025haru
【開講期間】2025年3月3日(月)〜2025年5月25日(日)
【申込締切】2025年2月24日(月)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
 以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
 例)2025春申し込みの場合
 購入時に2025年3月分を決済
 2025年3月26日に2025年4月分、以後継続

 ・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
 ・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。

 



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