べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その三

2025/01/24(金)19:00
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 血はつながっていない養子とはいえ、親に認められるのは嬉しいこと。手にとった『一目千本』をめくりながら思わず笑ってしまった駿河屋さん(蔦重の養父)の顔こそ、蔦重に見せてあげたかった。
大河ドラマを遊び尽くそう、歴史が生んだドラマから、さらに新しい物語を生み出そう。そんな心意気の多読アレゴリアのクラブ「大河ばっか!」を率いるナビゲーターの筆司(ひつじ、と読みます)の宮前鉄也と相部礼子がめぇめぇと今週のみどころをお届けします。



第3回「千客万来『一目千本』」


 第2回は花魁・花の井と平賀源内が主役のような回でしたが、今回こそは蔦重の出番。源内先生が書いた序のついた『吉原細見』は評判にはなったものの、吉原は寂れる一方。
 そこで蔦重は次の手を繰り出します。今でいうところのフリーペーパーみたいなもの、でしょうか。女郎さんたちの見本帳のような冊子を企画します。入銀本という、掲載料を多く支払えば支払うほど、紙面のいい位置を確保できるという。こうやって女郎から、いや、その後ろにいる馴染みの旦那方からお金をかき集め、『一目千本』ができ上がりました。
 もう一つの手法が「見立て」に「アワセ」。人の姿をそのまま描いても違いがうまく伝わらない。花に見立てることで、女郎の個性が光り出す、とまぁ、こういうわけです。表紙に「華すまひ」と書かれていましたが、相撲仕立て。花の相撲とは何とまた優雅なことか。
 さらにダメ押し、銭湯、居酒屋、髪結床など、人がたむろするところに配ったのは見本だけ。吉原に来れば全部見ることができるよ、とチラ見せの手法。
 こうして吉原に大勢の人が戻ってきます。

 寂れた吉原でお茶ひいている女郎も総出ででの本作りは見応えがありました。江戸の本作りの世界をのぞくとしたら、三谷一馬『江戸商売図絵』に手を伸ばしたい。
 衣、食、薬、住、旅人、芸能、願人坊主・物買い、旅、季寄せ、雑という10の分類で、実に300以上もの職業を紹介しています。原画を著者の三谷氏が模写し、そこに短い解説がつけられています。

 例えばただいまの蔦重の職業、貸本屋でいうと、黄表紙『七福神大通伝』北尾政演の絵を模写しています。おお、北尾政演といえば山東京伝の浮世絵師としての号。今回、絵師として活躍した北尾重政門下でもありました。

 さて今回でいうとまずは彫師です。絵巻物『近世職人尽絵詞』の眼鏡をかけているように見える彫師が彫刻刀を持って机に向かっている姿が模写されています。解説を見てみましょうか。

彫師は摺師より格が一枚上だとされていました。また彫りには字掘りと絵彫りの別があり、字彫りは武家の内職でした。字堀りには学問が必要だったからです。

 
 その隣の頁で摺師が紹介されています。模写したのは、鈴木年基の草稿。解説では

職人気質で気の向くまま、横箱(摺り道具を入れた箱)を担いで仕事場を転々とする渡り者が多かったようです。馬連(薄く丸い芯を竹の皮で包んだもので、摺る時の道具)があれば飯に困らなかったといいます。


 と書かれています。

 著者の三谷氏は冒頭に

商売の意味を広く解釈して、あらゆる庶民の生業の姿を荒らしたものです。
これ等の職人、商人は当時としては極く普通の人達ばかりですが、今から見ると随分珍しいものがあります。
古い昔の故かもしれません。


と書きました。


 今はなくても名前を見れば想像がつくものあり、さっぱり見当のつかないものあり(定斎屋、紅かん、うろうろ舟。これなんだかわかりますか?)。けれど、絵を見ていると、こんな人たち(何せ職種だけで300、ということは、この本には300人以上の人が描かれている!)が行き来する街を思い、画面で吉原にぞろぞろと来ていた衆のなりわいにも思いをはせることができそうです。

 そして…「若き日の鬼平は野暮だった」なんて書いてしまいましたが。入銀本のためについには親の遺産を食い潰し、あの花の井から「五十両で吉原に貸しを作った男なんて粋の極みなんじゃないかい」の言葉を引き出した。一気に、大通、そう、遊里に通じた粋人となりました。またどこかでお会いできるのでしょうか。

 



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