道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
軽井沢追分は、江戸時代に中山道と北国街道の分岐宿として栄えた宿場町だ。作家の堀辰雄が愛した土地である。また、民謡に多く見られる追分節の発祥の地でもある。
そんな軽井沢追分にKBF(軽井沢別想フロンティア)の守り人モーリス浅羽の田んぼがある。
樹々の緑に囲まれた追分の別荘地を抜けると、無数のハチをヒゲのようにまとっている、通称「はちひげおじさん」の店、荻原養蜂園が見えてくる。そのすぐ隣がモーリス浅羽の田んぼだ。
東日本大震災後に軽井沢に移住した、モーリス浅羽のファーマー歴は12年。最初は19守で師範代をした教室の学衆さんの実家の畑を借りた。
数年後米作りもやりたくなり、友人に紹介された上田の有機農家さんのところに田んぼを借りて、週末だけ上田に通い、米作りのイロハを学んだ。独り立ちして現在の田んぼに引っ越してきたのが3年前だ。
今年の田植えは5月31日だった。植えた直後の田んぼはご覧の通り。まだ苗は小さく、収穫を迎える10月まで無事に育ってくれるか、ファーマーたちの胸は期待と不安でいっぱいだ。無農薬なのでここからは草との闘いになる。
追分の田んぼは北に浅間山を望む。浅間山が田んぼに映り、とても美しい。カメラを抱えた人々が時折見受けられるというが、”映える”田んぼである。三週間ほどたった苗たちは、少し背が伸びたようだ。
しかし、梅雨入りしたと思ったら、全国いきなり30℃越えの真夏日が続く。いったい梅雨はどこへ行ったのか。
ファーマーたちは気が気でない。水は米作りにとって死活問題である。二日間にわたり「さんさん」と太陽を浴びた田んぼは、すでに水が半分ほどになっていた。
このあたりの田んぼは湧き水を利用している。雨が続くときは石で水の出口を塞ぎ、晴れたら開ける。
一昨日雨が降っていたので塞いだ水路の石を大急ぎで外す。
水は田んぼをめがけてサラサラと流れていく。やれやれ、間に合った。
◇◇◇
米作りを始めて、昔の稲作文化の仕組みが実によくできていたということに気づかされた。
「米を作り、その藁で縄をなって草履を作ったり、注連縄にしたり、納豆にしたりする。神様いるよな~って感じます。日本文化の真ん中に米作りがあった。その米作りが身近じゃなくなってしまったから、本来その周りにあったいろいろなものがバラバラになってしまったような気がします」―― モーリス浅羽
相撲も稲作文化あっての神事だ。生活の中でそういったものたちを繋げ直していくには、少し近代の農業の在り方も変えていかないといけないのかもしれない。
◇◇◇
テレビや雑誌などで「ご当地米」が取り上げられるが、長野県のご当地米の1つが、佐久の五郎兵衛新田で収穫される「五郎兵衛米」である。
その五郎兵衛米に対抗して、今年初めて「コシヒカリ」を植えた。
昨年まで、この田んぼでは、「ササシグレ」という「ササニシキ」の父親にあたる品種を育てていた。
以前は東北地方を中心に広く栽培されていた品種だが、病気に弱く、昭和の半ば頃にいもち病で半分くらいやられてしまったことがある。
その影響で、その後あまり栽培されなくなったが、もちもちとした食感のコシヒカリとは違った味わいで人気が高く、最近再び栽培されるようになった品種である。食味はとても良い。
コシヒカリは冷涼な気候の軽井沢ではあまり栽培されてこなかったが、これだけ温暖化が進んでいるのだ。できないことはないだろう、と今年はうるち米はササシグレとコシヒカリの2品種を栽培することにしたのだ。
それとは別に、もち米も栽培しているので合計3品種がこの田んぼに植えられている。
このコシヒカリたちは、11月に開催される「多読アレゴリア祭」にKBFのブースでお目見えする。
台風や日照りを乗り越え、このままスクスクと育ち、黄金に輝く見事な稲穂になってほしい。
田んぼの守り人モーリス浅羽とその苗たちの成長っぷりは、随時「遊刊エディスト」で配信予定である。
乞うご期待!
中原洋子
編集的先達:ルイ・アームストロング。リアルでの編集ワークショップや企業研修もその美声で軽やかにこなす軽井沢在住のジャズシンガー。渋谷のビストロで週一で占星術師をやっていたという経歴をもつ。次なる野望は『声に出して歌いたい日本文学』のジャズ歌い。
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コメント
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