自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読むたびに【REVIVAL/再生】するかのようだ。読者の皆様にさらなる編集の契機としていただけるよう、36のコラム+蔵出し写真&映像をふくめ、8日にわたって公開する。
◇◇◇
松岡正剛revivalシリーズのラストは「本とレンズが見ている」と題して、2023年冬から初夏にかけて、レンズを通して捉えた〈松岡正剛の書斎〉を構成するごくわずかな一部分に絞ってお届けします。
高速マーキング
1827夜で千夜千冊された『性のペルソナ』カミール・パーリア(河出書房新社)をぺんてるの赤いサインペンでマーキングしながら読書している視線を背後から捉える。読書スピードが速く、マーキングにレンズの焦点を合わせるのに必死だった。この時期は千夜千冊エディション『性の境界』のため、ジェンダーやLGBTQ+関連の書籍が至るところに山積みになっていた。
編集を着替える
本棚にはいつも季節に応じた何着かのアウターやシャツなどがかけられている。一度だけ執筆中に突然着替えをしていたことがあった。編集チャンネルを変えるために本当に着替えをしているんだ、と小さな宝物を見つけた気持ちになった。
引き出しのライター
初めて見た時にその多さにギョッとして思わずシャッターを切った一枚。たくさんの使い捨てライターが眠っている引き出し。愛用のタバコはメビウス1ミリ。
古いノオト
古いノートや手帳が大切に保管されている一角がある。貴重な古書のような佇まいで容易に手を触れることはできない。せめて背表紙だけでもと写真に収めた。
光が差し込む窓
いつもは日が沈んでから夜の時間帯での撮影がほとんどであったが、この日は所用の兼ね合いで珍しく日中の撮影だった。自然光が差し込む書斎での撮影は後にも先にもこの時一度きりだけだったと思う。やわらかい自然光の中で静かにワープロに向かう姿に神々しさを感じた。
先日刊行された松岡校長の自伝『世界のほうがおもしろすぎたーゴースト・イン・ザ・ブックス』(晶文社)の[第7章 歴史の網目のなかで千夜千冊を紡ぐ]で「顕読」と「潜読」について書かれていた。顕読とは「そこに顕れているものを読む方法」で、潜読とは「そこに潜んでいるものを読む方法」だという。当記事をまとめている間にふと、撮影とは「そこに顕れているものを読もうとする行為」であり、写真を見るということは「そこに潜んでいるものを読もうとする行為」なのではないかと思った。
なぜならば、5枚目の写真を撮影しているときは自然光の中の美しさに目を奪われるばかりであったが、この時執筆していた千夜千冊が『マザー・ネイチャー』(1825夜)であることに今更ながらに気づいたからである。ちょうど「母なるもの」「失われたマザー」あたりの段落であったと思う。だからといって『マザー・ネイチャー』が神々しさを引き出したとは断言できない。あの時の手元には『マザー・ネイチャー』があったというだけのことである。それだけのことだが、そのことに気づく前と後では、あの時の光景が異なる意味合いを帯びてきて、見えていなかった新しい印象に出会えたことに驚いた。潜読という方法に光を当てれば、いつでも松岡校長に出会い直せるのだ。
協力:松岡正剛事務所
松岡正剛revival
08 本とレンズが見ている
後藤由加里
編集的先達:石内都
NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!
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コメント
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2025-11-18
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2025-11-13
夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない!これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。