男と女のルナティック主義【松岡正剛 revival 05】

2025/08/20(水)08:00 img img
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2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読むたびに【REVIVAL/再生】するかのようだ。そこで今回、寄せられたコラムの数々をふたたびご紹介したい。お一人お一人からいただいたコラムには、編集部が千夜千冊から選んだフレーズを付け句している。読者の皆様にさらなる編集の契機としていただけるよう、36のコラム+蔵出し写真&映像をふくめ、8日にわたって公開する。

 

 

◇◇◇

05:男と女のルナティック主義

 

今回紹介する6名のエピソードからは、松岡正剛から投げかけられたクリティカルな問いの数々が寄せられている。松岡正剛はその問いに、どのような編集のルナティックを込めたのだろうか。

 

寄稿者:

金宗代(イシス編集学校 代将)

小倉加奈子(イシス編集学校 析匠)

堀江純一(イシス編集学校 典離)

野嶋真帆(イシス編集学校 師範)

山本春奈(編集工学研究所)

阿久津健(イシス編集学校 師範)

 

◇◇◇

 


【追悼】松岡正剛の”変襲力” 月は裏側も見せませんからね

代将 金宗代

 

松岡正剛はぶっちぎりの「編」の人であり、とびっきりに「変」な人だった。松岡さん自身、「『あいつは変だった』と言われれば本望」(朝日新聞 連載「人生の贈りもの」)と言い残している。

松岡さんとの最後の会話も、やっぱり変だった…

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 たとえば「コップ」を言いかえる。食器とかガラス製品とか日用品とか物体とかというふうに。「ベンチ」や「時計」や「夕焼け」を言いかえる。これは子どもたちがその言葉を知ったときに、いろいろ浮かぶイメージに沿ってみるという言語ゲームなのです。大人向けならば「新聞」「利潤」「国家」などを言いかえると、おもしろい。たくさんの背景や文脈を想定することになります。
後ヴィが持ち出した言語ゲームは、ぼくからすると編集的思考を自由にするための、とても有効なアプローチの仕方なんですね。


【追悼・松岡正剛】圧倒的に例外的

析匠 小倉加奈子

 「御意写さん」。松岡校長からいただい書だ。仕事部屋に飾っている。病理診断の本質が凝縮されたような書で、診断に悩み、ふと顕微鏡から目を離した私に「おいしゃさん、細胞の形の意味をもっと問いなさい」と語りかけてくれている。

 私が編集工学に夢中になったターニングポイントは、イシス編集学校の「見立て」の編集稽古だった。…

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 演繹と帰納では、われわれがソージやルイジを使って膨らませた「あの豊かな感じ」が縮こまっているのではないか。そうではなくて、実際にはソージやルイジがやってくれたことを、いったん仮りに引き受けているステージがあるのではないか。それはアブダクションと名付けられるような仮説領域というステージなのではないか。そう考えたのだ。
ぼくはただちに了解できた。アブダクティブ・ステージには楽屋があって、そこではソージやルイジたちが物まね、見まね、コスプレ、連想遊び、見立てごっこをしていたわけなのだ。


【追悼】「マンガのスコア」が見た松岡正剛

典離 堀江純一

 山田風太郎『人間臨終図巻』をふと手に取ってみる。

「八十歳で死んだ人々」のところを覗いてみると、釈迦、プラトン、世阿弥にカント・・・と、なかなかに強力なラインナップである。

ついに、この並びの末尾にあの人が列聖されることになったのか・・・。

ともあれ、松岡正剛の偉大さは、どれだけ強調してもしすぎることはないだろう...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 ジュネの「最低の代物」はその後、安全ピン、革バンド、前髪の盛り上がり、チェーン・アクセサリー、先の尖った靴、派手なジャンパー、爆音をたてるオートバイというふうに継承されていった。五〇年代ロンドン・テッズを筆頭に、「最低の代物」が流行文化として唸りをあげていったのだ。
本書はこのあたりに「サブカルチャーの発動」があったとみなして、そこに「社会が容認しにくいスタイルの躍如」が始まったというふうに捉えた。社会が容認しないことには暴行も犯罪も騒音もあるけれど、それがスタイルであっても容認できないとき、そこにサブカルズの胎動が窺えるのである。


【校長相話】「通りすがり」も「単なるリアル」もダメ

師範 野嶋真帆

 2002年の大阪。上方伝法塾の塾長、はじめてのナマ松岡正剛は超高速だった。西鶴や蒹葭堂、山片蟠桃らを織り込んで関西経済文化を濃密に説いたかと思うと、目の色を変えて灰皿のもとに行き煙にまみれる。とても近寄れる空気ではない。それなのに、まだ〔破〕の学衆でホヤホヤの伝法塾衆だった私が、食事の会場へ向かうタクシーに添乗することになってしまった。...

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 レヴィ=ストロースはこの変換作業のことを「ブリコラージュ」(bricolage)と呼んだ。「繕う」「修繕」「寄せ集めて作りなおす」「器用な手作業」という意味だが、これはまさに「編集」のことである。レヴィ=ストロースは設計図や理論にもとづくエンジニアリングに対して、その場で手に入るもので作ることをブリコラージュと呼んだのだが、ぼくは神話時代以降の物語、たとえば器楽や映画やVRのように機械システムが介在しても同じことがおこると見て、あえて編集工学(エディトリアル・エンジニアリング)という用語を使うようにした。
模倣を媒介に物語やコンテンツは、必ずやエディトリアル(編集物)としてエンジニアリングの対象になってきたという見方をとったのだ。


【追悼・松岡正剛】暗喩と暗示とシンボルと解釈余地で

 編集工学研究所 山本春奈

 オーウェルじゃ足りない。スフィフトまでやんなさい。

松岡さんに、いっちばん強烈に叱られたときに、言われたことです。...

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 もともとのアレゴリカル・センテンスやアレゴリカル・フレーズには、「他の話し方」や「別の話し方」が混在もしくは内示されている、もしくはコンティンジェントに含有されているということなのだ。コンティンジェントにというのは「あらかじめ」ということだ。つまり、アレゴリーには「別様の可能性」が秘められているということなのだ。
これは編集思想にとってすこぶる重大なヒントをもたらしている。アレゴリーは比喩や類推のための道具や分類概念なのではなく、われわれが何かを表現(表象)するときの「モードの行方を握っている母なる方法」だったということだ。アレゴリーはコードの組み立てに従属しないものなのだ。


【校長相話】マクラメの編み方

師範 阿久津健

 

 「編むはあけぼの」。枕草子パロディのコピーと、マクラメ編みのハンギングにコップを載せた写真で構成した「マクラメ草紙教室」のフライヤーを校長の前で披露したのは、2019年の伝習座だった。しどろもどろのプレゼンのあとの休憩時間に、人混みから逃げるように本棚劇場から井寸房への引き戸を開けると、そこにいたのは椅子に腰掛けた松岡校長だった。...

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 いいかえれば、世界はもともと「もどき」(擬き)なのである。だから世界の表象は断乎たる「もどき」としてあらわされてよく、より鋭くこのことを突いた作品こそが文学であり、アートであり、写真であってよかったのである。
杉本は最初からこのことを見抜いたようだった。「もどき」はシミュレーショニズムではない。むろんたんなるフェイクではない。本物と見まごうばかりの抜きつ抜かれつの接戦を通過しなければならない。そのうえで、見まごうばかりの「ばかり」に向かう。しかしそのように「もどき」に抜けていけるには、やはり「本物」を目利きできていなければならない。

 


松岡正剛revival

01 匠の方法・編集の鬼

02 面影からとどく声

03 エディットリアリティーの森

04 本とはさみと撮影対話

05 男と女のルナティック主義

 

写真:後藤由加里

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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