コナラの葉に集う乳白色の惑星たち。
昆虫の働きかけによって植物にできる虫こぶの一種で、見えない奥ではタマバチの幼虫がこっそり育っている。
因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。

ある日を境に会えなくなってしまった人。1度も会うことが叶わなかった人。
会いたくても会えない彼方の人がきっと誰しもいるだろう。松岡正剛校長は著書の中で度々、蕪村の句「凧(いかのぼり)きのふの空のありどころ」を取り上げている。もうそこにはない、失われてしまったものが面影として残っていくことを示した句だが、校長は、「きのふの空こそ、ぼくが編集したい当のものだ」と書いている。面影は編集されることを待っている。
2025年8月、倶楽部撮家では、記憶の中の「彼方の人」とどう関係を結び直し、どう現在そして未来を共にすることができるのか、撮影という方法を通して体験することを試みた。与えられたお題は「彼方の人に贈る1枚を撮る」。手紙を書くように撮影した倶楽部メンバーの写真をキャプションと共にお届けしたい。
撮影:小原濤声(昌之)
彼方の人:2009年逝去した父
まぼろしの夏は満席フェリーゆく
父を偲ぶ一枚。料理人として飲食店を母と営んでいた。晩年は飛行機乗り、船乗りになった。船上で永眠するまで夢を追いかけた人であった。
灯台や飛行機雲の夏の果
撮影:キナス美帆
彼方の人:リン・パン/Lynn Pan彼女は自分の最後に決着をつけました。美しゐゲヱムのやうに。佇まいも常に自著『上海風』を體現してゐました。餘計なものは徹底して持たず、張愛玲、ヨナス・カウフマン、そして梅蘭芳を愛した女性でした。
撮影:中西和彦
彼方の人:寺山修司ナイーブな異端の世界を映像や演劇に遺した言葉の魔術師。寺山が描いた日常世界に潜む孤独や個の喪失、社会とのつながりの渇望は今でもある。異形の祝祭空間は見慣れた風景の結界の綻びから秘かに生まれる。
撮影:中y
彼方の人:森岡賢好きだった音楽家をイメージして撮りました。夕焼けの色の仕組みを最初に科学的に解明したのは、ジョン・ウィリアム・ストラットのレイリー散乱。気象条件のハーモニーが織りなす音楽のようです。
撮影:武田英裕
彼方の人:音信不通になった友人たち福島の地にて滝の内側から森の彼方に見える太陽を撮影。震災で散り散りになったり、亡くなってしまった友人たちを偲びながら撮影。
撮影:福澤俊
彼方の人:小松左京
小松左京のことを考えながら、科学未来館へ足を運びました。人工衛星のようなマクロから、顕微鏡のようなミクロまで、強烈な幅のカメラアイをもった小松に、今の日本は、そして世界はどう映るでしょうか?
撮影:小谷幸夫
彼方の人:久野 真光の断片が黒い部分とハーモニーの如く流れる無垢な形。影によって存在を、部分によって全体を暗示する。反射や屈折で光の美しさを表現。時間と空間の狭間に作家の人となりが記憶として蘇る図録を撮る。
撮影:後藤由加里
彼方の人:松岡正剛松岡校長は写真の話になると度々エドワード・ウェストンの〈Pepper〉の話をしていた。それならばと、パプリカに挑戦。赤は編集の火をつける色。撮影しているうちにふと何かが吹っ切れた。撮家宣言としての一枚。
撮影:福井千裕
彼方の人:松岡正剛校長が亡くなった日、路上で雀が息絶えていた。小さな亡骸を掌にのせ、灼ける舗道から植込みの土へ。せめてお花でもと顔をあげると、向こうまで続く植込みのその場所だけ白い花が咲いていた。1年後、おなじ場所で。
撮影:林朝恵
彼方の人:松岡正剛能楽堂の空気を感じながら撮影したかった。松岡校長は世阿弥のように方法の束を惜しみなく手渡す人だった。もっと語ってもらいたいたかったが、もう叶わないのか。いや、私は写真を通して、彼方への呼びかけをする。
撮影:和泉隆久
彼方の人:父漁師だった父が通った漁港。面影や記憶をたどるようにレンズを向ける。まるでお盆に備えるかのように波は静まり、潮が引いて現れた消波ブロックに、浮かび上がってくる西方からの道がかさなる。
お盆の時期、松岡校長の一周忌とも重なるように倶楽部メンバーは撮影に取り組んだ。不特定多数の誰かではなく、特定の誰かに向けて撮られた写真であるからこそ撮影者の想いごと伝わってくるものがあった。写真が共有された時、小原さんと和泉さんの父が漁師であったことがわかり、二人はその偶然に驚いた。海に生きた職人の息子が父のためにカメラ片手に海へと出かけ、その写真が面影と共にここに存在している。
言葉と写真は静かな海に波をおこし、きらめく光を反射させながら、彼方の人との出会いの場面を何度でも立ち上がらせる。エディトリアリティがそこに起動し続ける。
アイキャッチデザイン:後藤由加里
アイキャッチ写真・文・編集:林朝恵
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林朝恵
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2025-08-26
コナラの葉に集う乳白色の惑星たち。
昆虫の働きかけによって植物にできる虫こぶの一種で、見えない奥ではタマバチの幼虫がこっそり育っている。
因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。
2025-08-21
橋本治がマンガを描いていたことをご存じだろうか。
もともとイラストレーターだったので、画力が半端でないのは当然なのだが、マンガ力も並大抵ではない。いやそもそも、これはマンガなのか?
とにかく、どうにも形容しがたい面妖な作品。デザイン知を極めたい者ならば一度は読んでおきたい。(橋本治『マンガ哲学辞典』)
2025-08-19
エノキの葉をこしゃこしゃかじって育つふやふやの水まんじゅう。
見つけたとたんにぴきぴき胸がいたみ、さわってみるとぎゅらぎゅら時空がゆらぎ、持ち帰って育ててみたら、あとの人生がぐるりごろりうごめき始める。