「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
川邊透
2025-09-16 18:03:53
吉田紗羽さんは、近畿大学生物理工学部の3回生。有機化学を専攻している吉田さんですが、イシス編集学校の基本コース[守]の稽古を通して、趣味や学生生活自体が、変化したといいます。どんな変化があったのでしょうか。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は吉田さんの「撮影の記録」をお送りします。
■■自分だけの“不思議”を探して
「わたしは過去の記録を楽しむトラベラーだ」
[守]コースのお題〈たくさんの「わたし」〉に取り組んで、たくさんの「私」が存在することを実感した私ですが、「日常の中の編集」を軸とするならば、「トラベラーとしての私」が「私らしさ」をよく表していると思います。
トラベラーとしての私の相棒は、一眼レフ。お金と時間の許す限り、相棒と旅をしています。風景も、食べ物も、旅先で出会った方などなんでもパシャリと撮ってしまいます。
撮った写真を見返していると、時々アルバムに“不思議”が混ざっています。どうしてこの写真を撮ったのだろう?今回は不思議な写真の中でも「編集」の力を感じた1枚の写真のオハナシです。
写真を見て、記憶が戻ってきました。
この1枚は語学研修でハワイに行った時のもの。シアー素材のカーテンがふんわりと風に舞い、普段は「見る」よりも「感じる」ことが多い風が、暖かな陽射しと影によって柔らかく可視化された1枚。ハワイという美しく非日常が味わえる場所でのとっておきの1枚が「カーテン」って少し奇妙ですよね。でもあの日、五感で感じた心地よさがこの構図に詰まっているように感じたので、思わずシャッターを押したのです。
ありきたりなものをわざわざ撮るなんて、自分の目を向けるポイントってちょっと独特? と自認した時、ふと[守]の師範代とのやり取りを思い出しました。
[守]では〈豆腐で役者を分ける〉というお題がありました。ある情報を分類するための軸をまったく別の軸で分類する、という稽古です。この稽古の時、私は「お茶」を軸にして「作家」を分類しました。机に淹れたての紅茶があったから、という単純な理由で軸を決めたのです。
これに師範代は、「ふと目の前に入ったものから編集が始まるのは吉田さんの特技ですね」と指南してくれました。他にも、大学の実験で使っていたきゅうりやバスの中の赤ちゃんとの変顔対決で回答したこともありました。
学衆時代は、文章をまとめることが難しくて、苦しみながら稽古したこともありましたが、〈分類〉や〈カーソル〉を使う稽古は楽しくやっていたことを思い出しました。すると、日常で〈カーソル〉を使うことの楽しさと、すでに実践していることに気づきました。気づいた瞬間のなんとも言えないむず痒さは、実生活と編集が結びついた喜びといえるのかもしれません。
私の〈カーソル〉が「日常で役立った!」と思える瞬間はほとんどありません。ですが、世界の見え方がとても豊かになりました。〈カーソル〉を大きく広げたり、グッと狭めて切り取ったり。使い方次第で見える形が全然違うことが面白いと思えるようになりました。そして、私は相棒と一緒にそういう撮影をしていたことにも思い至りました。
今も、他の人は気づいていないかもしれない小さな幸せや美しいものを見つけることが好きです。「自分だけの気づき」という特別感があって楽しいんです。そして、そんな小さい楽しみを発見してくれる自分の〈カーソル〉が大好きです。
絶対どんなところにも美しさって隠れていると思います。それに気づくと日常も旅ももっと素敵なものになる。小さな幸せや美しさを見つけるのって、私にとって宝探しみたいで楽しい旅と同じなのです。

▲5月、浅草を友人と訪れた際、今戸神社で撮影。「天気の良さや神社の温かい雰囲気を感じられるような、鮮やかな色合いの花手水が素敵でした。お守りを購入された方が、足元を見て、思わず“わあ綺麗”と言ってしまうような、小さな感動がそこにありました」(吉田さん)
編集/チーム渦(角山祥道)
学ぶとカワル、ワカルとカワル――第56期[守]基本コース
【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月8日(日)
申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。
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2025-09-16 18:03:53
2025-09-16 18:03:53
「忌まわしさ」という文化的なベールの向こう側では、アーティスト顔負けの職人技をふるう蟲たちが、無垢なカーソルの訪れを待っていてくれる。
このゲホウグモには、別口の超能力もあるけれど、それはまたの機会に。
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2026-03-19
『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
2026-03-17
目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。