鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。
20年前の6月1日、教頭の宮之原は、どきどき・どぎまぎ固唾を呑んでパソコンのモニターの前にいた。しかし、ラウンジ発言が見当たらない、なのでメールも送られてこない。宮之原はどうしたことかとはらはら・あたふた心配になり、「開講しています。ラウンジを開いて発言してください」と、かたっぱしから生徒さん(当時はまだそう呼ばれていた)に「電話」をかけたという。
これは、『インタースコア』(春秋社)にも載っていない、教頭から直接聞いた此処だけのホントの話。今では想像もつかないだろうが、本格的なSNS時代はまだ先、「IT革命」が新語・流行語大賞となったミレニアム2000年のこと。
しかし、第1期の場は、「失われた10年」を引きずるままの世間をぶっちぎるごとく、一気に加速した。校長が「わが21世紀はイシス編集学校の12の教室の応答とともにやってきた」と追想しているように、 12人の師範代がまたたくまに熱いエディターシップを発揮し、「問感応答返」の連環を突き動かしていったのだった。
発端の物語、コトの次第や一部始終について、『インタースコア』(春秋社)を手に、ぜひ、あらためて触れてみてください。
さて、こうした「2000年を語る一冊」は、6月1日の「千夜千冊」にとりあげられた、61夜:フリードリッヒ・マイネッケ『歴史主義の成立』。松岡校長はイシス編集学校の創設日に、あえてこの一冊を選本したのだろうか? そうではないだろうと思いつつも、ちょっと聞いてみた。
「そうね、そのようには選んでないけど」とおっしゃりながらも、時代やその変更に対して、これまでの流れがわからないと先もわからない。たとえば、ポストコロナやニューコロナなんて言っていてもダメ。有事であれ平時であれ、われわれの前に投げ出された「世界」を知るためには、本著のような「歴史主義のおさらい」も必要なんだね、と話してくれた。
『歴史主義の成立』、ヴィークルを乗り換え編集された『千夜千冊全集』では、第2巻『猫と量子が見ている』2章「モナドと博物学」に配された。タイトルは、「18世紀が用意した理の舞台」。千夜千冊エディションでは、『神と理性』第3章「西洋哲学史略義」におさまっている。
全集とエディションには、「抱いて普遍」を脱して「放して普遍」に向けて振幅させる「別様の可能性」がある、という編集的世界観が加筆されている。2000年6月1日のこの一冊には、『17歳のための世界と日本の見方』も『国家と「私」の行方』も、そして[離]世界読書奥義伝も、すでに埋め込まれていたのだ。
「歴史というものが数々の人間や民族が去来する“場”の上でくりかえしていく…、そのような反復しつづける“場”を当時の言葉でcorso ricorso という」。
『千夜千冊全集』のすべての夜に短歌を編んでみせた歌人で風韻講座の小池純代宗匠は、こう詠んだ。
くりかへす corso ricorso 粗布の歴史一巻織りあがるまで
◆◆後記◇◇
20年目に差しかかった編集学校ですが、「こういうときこそ新しい方法を確立すべき」という松岡校長の“激”を受け止めながら、600人を超える学衆と指導陣が、今日も「稽古-指南」や共読に勤しんでくださってます。
こうした日々には、たった12人・12教室からスタートした時のあのかけがえのない“初心”が継承され、息づいています。だからこそ、松岡校長が本楼に掲げた「pauca sed matura 少数なれど熟したり」という気概もまた織り畳まれているのだと、あらためて確信しました。
それでは、「2001年」へと、吉野陽子冊師に、バトンをお渡しします。
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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コメント
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