自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。
56[守]蓮華ソーソー教室師範代のグッビニ由香理さんは、普段は英国で暮らすヨガ講師です。編集学校の奥に見え隠れする小さな花に誘われ歩み続けるうちに、あることに気づきました。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、現役師範代のグッビニ由香理さんが注目するセンサーについてのお話です。
■■「師範代になるための5つの条件」に惹かれ
「師範代になるための5つの条件」。花伝所ガイダンスで聞いた時、全てに心惹かれた。松岡正剛校長がかつての[花伝所]の入伝式で語ったこの5つだ。
1.センサーをあける
2.日本語をつかう
3.得意も不得意もはらむ
4.フェチのフィルターをつくる
5.細部につよくなる
師範代になるつもりはなかったが、とっても気になった。自分には無理だろうと思いながらも[花伝所]に来てしまったのは、「本当の私」が、わたしの本心を観て知っていたからなのかなと、ふと思う。
センサーは「見えない世界」を見るための方法だ。見えないところにこそ真実がある。ヨガや瞑想で「Energy flow where attention goes/意識を向けたところにエナジーが流れる」と、師匠から教えられた。意識を向けた時、「見る」は「観察」になる。ヨガやジャーナリング(書く瞑想)で内観をすることも観察である。自分なりに習慣にしているささやかな自己対話であるが、これでわたしの心はとてもリラックスする。
[守][破]を通じて、なんでもお見通しだった師範代の目はたしかにセンサーだと思った。この「観察」の目がとても大事だと[花伝所]で再認識できたことは、自分に変化をもたらしたと思う。見たいものを見る時、「意識を向ける」こと。そうすればそこにあったものに新たな彩りが現れるからだ。
▲内観をテーマにしたジャーナリングのノート
5つの条件をクリアするのは「自分」だっだ。
「自分とはこんなもの」と思う「自分」とは、いったいどれくらい本当なのだろう? [花伝所]ではワークを通して今まで気づかなかった自分と向き合うことになった。
さまざまな「自分」を30個以上列挙する《たくさんの「わたし」》という編集稽古がある。[守]のあとに再びやってみると、全然違う「自分」が出てきて不思議に思ったことがある。今ならわかる。思考する《地》が変わったのだ。
今いる英国で、外国人として暮らしていると、自分を不足の多い人だと思うことがよくあった。「イギリスを地にした私」と「日本を地にした私」。場所によって、奥ゆかしかったり、大胆だったりと変容する。まるで1枚のコインの裏表のようだ。
海外の人の多くは、日本の「癒し」や「調和の精神」に憧れをもち、それに触れたくて日本を訪れる。三段論法的に言えば、私にもそんな美点があるということだ。日本を離れて「見る」ことは、自分を「知る」ことでもあった。彼らにはないものが自分には「ある」という見方と自負が生まれた。
モノや出来事が情報の多面体であるように、不足も創(きず)も美しさも含んだ「わたし」も、かなりの情報多面体だった。それぞれの情報体が、互いに関係線を引きながら常に相転移しているのだと、[守][破]、そして[花伝所]を経て、日本語という言葉を介して実感するようになった。自分の不足こそ生かせるもの。
自分が置き去りにしていたものに光を当てると、それは悦んで動き出す。そんな不思議なエナジーが心に湧いてくるようになった。
まだまだ成長したい。
56[守]師範代として、そう思う。
わたしにはわずかだけれど実感がある。センサーをあけて、観察(意識)の目を向ければ、そこにある小さな花は鮮やかさを増していく。「意識する」とは温かな光線を作ることだ。小さな花を鮮やかにしていく光だ。目を開いて、置き去りにした「わたし」のひとつひとつも掬っていく。豊かなエナジーの彩を重ね、これからもずっと、あちこちに咲く花を感じていきたい。
▲イギリスの秋晴れ。ウィンザー城近くの赤ポスト。頭上には偶然のヤドリギ。
文・写真/グッビニ由香理(53[守]なんでも軽トラ教室、53[破]アガサ・フィーカ教室)
編集/チーム渦(大濱朋子、角山祥道)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2025-11-18
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2025-11-11
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