【別典祭】550冊の本がもたらす福「本市福袋」

2025/12/05(金)08:00
img ZESTedit

市庭(いちのにわ)では文物を交換することを神が見届けることによって、別の世界と交流できると考えられたからだ


松岡正剛『見立て日本』「市場」

 
 神ならぬ「終活読書★四門堂」「多読ジムClassic」「大河ばっか!」3クラブが合同でが仕立てたのが、別典祭最大の市「本市」だ。
 イシス編集学校の各講座に、「出遊本」の協力を請い願い、新たな出会いのためのムスビを約束した。

 

それまで潜在していた力が目に見えてあらわれてくること、それが産霊だった。

 

松岡正剛『見立て日本』「産霊(むすび)」


 あちらこちらから集まった種々多様な本は700冊以上。ここから「本の相談室」棚に並べる150冊ほどを抜いて、550冊ほどをセットにしていく。学林堂に集まって本を触る2日間とラウンジでのやり取りによるムスビのプロセスは、まさに「秘密基地でBPT」の連続。
 まずは各クラブの「…っぽい本」が選ばれると、「三間連結・三位一体・二点分岐・一種合成」の編集思考素を駆使した三冊組みが次々にできていく。時に「地と図」の運動会が起こり、「コンパイルかエディットか」が問われては組み直しをいとわぬ<編集は終わらない>状態が続いていった。

 

十七世紀に元三大師(良源)に起源を求めた百通りの籖が各地の観音霊場におかれたことで流布したもので、五言四句の漢詩によって吉凶を示した。その観音菩薩ないしは元三大師のお告げを民衆はよろこんだのだった。

松岡正剛『見立て日本』「籤と運」


 セットされた本たちは、「別典祭」という本の祭典にふさわしく「おみくじ本」として、出会いの「セレンディプ度」とともに、お告げによるレコメンドを重視した。
 「終活読書★四門堂」の野嶋真帆堂守がデザイしたおみくじしおりの表面には、多読アレゴリア・ボードの結司として奔走しつつ「倶楽部撮家」を率いる後藤由加里瞬姿の本楼写真とともに、各クラブが選りすぐったセイゴオ語録がちりばめられている。

 ではどのようなお告げが記されていたのか、少々、明かしてみよう。

 

■黄泉の国から有頂天まで巡りたい人は、この四冊を読むべし
 『町田康詩集』町田康(角川春樹事務所)
 『田辺聖子の古事記』田辺聖子(集英社)
 『ヤマケイ文庫定本 黒部の山賊』伊藤正一(山と渓谷社)
 『遊廓と日本人』田中優子(講談社)

 

■からくりの心で未来を覗く人は、この三冊を読むべし
 『東芝の祖 からくり儀右衛門』林洋海(現代書館)
 『機械の神話:技術と人類の発達』ルイス・マンフォード(河出書房新社)
 『シリコンバレー精神 グーグルを生むビジネス風土』梅田望夫(筑摩書房)

 

■役者より物語の導き手に注目する人は、この三冊を読むべし
 『私が食べた本』村田紗耶香(朝日文庫)
 『本に読まれて』須賀敦子(中央公論新社)
 『私の世界文学案内』渡辺京二(筑摩書房)

 

各クラブの個性と遊び心がにじむ、妙味あるご託宣となっているのではないだろうか。

 

「いったい運の正体がどういうものかはわからないけれど、みんなどこかで幸運との出会いを待っている」

 

松岡正剛『見立て日本』「籤と運」

 

 別典祭<壱の間>の奥に置かれた古めかしい薬箪笥。そこにおみくじが入っている。運を求めて訪れた人は、まずその薬箪笥の前で迷う。39ある引き出しのうち、どこを開ければ、自分にぴったりの本と出会えるのだろうか。引き出しに書かれた「大黄」「人参」「甘草」といった薬の名は処方と関係するのだろうか(まったく関係ありません)。
 「この引き出し!」と決めて、中を覗く。おお、赤、緑、ピンク。様々な色のおみくじがあって、また迷う。「えいっ!」と一枚を引いて、裏をめくる。
 お告げの言葉と共に記載された番号を伝えると「はい、○番の袋です」と渡される。袋の中をみて、「この本は読んだことがなかったです」「この間イギリスに行ったばかりなので嬉しい」「園芸には興味がなかったけれど」といった声があがる。それぞれの結果を楽しみながら、「そうなるように頑張ります」「もしかしたらそうなのかも」など、おみくじのお告げと本とを結びつけ、本と自分との関係を探っていた。ちょっとした編集ワークが早速始まったのだ。

 

引き出しにてひく人を待つおみくじ

運ためし、いかがでしたか?

 
 では、最後になってしまったが、この企画の与件としてなくてはならない本たちをご寄贈くださった方々をご紹介したい。
 本が新たな本と出会い、そこに新しい意味が生まれ、その意味を三冊(以上もあるが)の本として別の人が受け取り、そこにまた新しい物語を紡いでいく筈だ。
 そのきっかけを作ってくださった方々に心から感謝を捧げます。ご協力ありがとうございました。


【本をご寄贈くださったみなさま】
青井隼人さん、阿曽祐子さん、板垣美玲さん、猪貝克浩さん、岩崎大さん、太田香保さん、大武美和子さん、笠井麻代さん、木村久美子さん、後藤絵理さん、後藤由加里さん、佐藤雅子さん、鈴木康代さん、高橋英子さん、田中晶子さん、田中香さん、田中優子さん、高本沙耶さん、戸田由香さん、野嶋真帆さん、畑本浩伸さん、八田英子さん、東村雅史さん、古谷奈々さん、北條玲子さん、細田陽子さん、増岡麻子さん、翠川辰行さん、港谷武広さん、森山智子さん、米山貴則さん、若林牧子さん、渡會眞澄さん(お名前の五十音順です)


写真:後藤由加里(「倶楽部撮家」)/相部礼子(「大河ばっか!」)

  • 大河ばっか組!

    多読で楽しむ「大河ばっか!」は大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブ。物語好きな筆司たちが「組!」になって、大河ドラマの「今」を追いかけます。

  • 豊臣双瓢譚 ~第七回~

    タイトルがタイトルだけに、様々な兄弟にフォーカスが当たるだろう、という予測はしていたものの、その中に「義兄弟」まで入るとは。表面上はよく知っているようでいて、まだまだ奥の深い戦国時代です。  さて歴史をふかぼれば宝の山 […]

  • 豊臣双瓢譚 ~第六回~

    一分の隙もない完結は、逃げ場のない歪みを溜め込み、内側から自壊する。だが、穿たれた孔たちは、硬直した運命の圧を逃がすエスケープとなる。その孔たちは、支え合うふたつの不揃いな生命が、秩序という牢を穿つ、狂おしい蜂起の痕跡 […]

  • 豊臣双瓢譚 ~第五回~

    ローマ時代のコロッセウムを思わせるような八角形の闘技場での戦い! ちょっと関西万博の大屋根リングのようでもありましたね。  さて歴史をふかぼれば宝の山。史実と史実の間にこぼれ落ちたものにこそ真実が宿る、かもしれない!? […]

  • 豊臣双瓢譚 ~第四回~

    英雄の快挙に酔いしれる余裕などない。泥にまみれた現場は、ただそれぞれの「生」を死守するための、狭い視野に閉じ込められている。 しかし今、二つの脆い個が、互いを不可分な半身として分かちがたく結ばれた。祈りに縋るのではない […]

  • 豊臣双瓢譚 ~第三回~

    曽我兄弟! 四年前の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、本当は頼朝への謀反の企みだったものを、義時がうまく仇討ちの美談に仕立てあげていました。その義時を演じた小栗旬が信長として見守る能舞台で演じられたのが「曾我物」。豊臣 […]