自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
師走として2025年終盤へと加速する12月13日(土)、編集工学研究所の本楼で蒐譚場が開催されていました。物語講座のラストプログラム「編伝1910」のレクチャー&ワークが行われましたね。担当は師範の森井一徳と高橋陽一でした。
編伝1910の創文を書き終わったときに、「いい稽古になったな」ということを目指すためのレクチャーが始まりました。
◎歴史認識は後から生まれてくる
校長・松岡正剛が「雷鳴の一夜」と記したポール・ヴァレリーの千夜千冊0012夜『テスト氏』についての紹介がありました。ヴァレリーは第一次世界大戦が鎮火した1919年に『精神の危機』という論考を発表しています。世界大戦の時点でヨーロッパの精神的な無知状態が表象化されていました。一方、それ以前の19世紀末は「ベルエポック(良い時代)」と後世で呼ばれており、「あの時代のフランスってすごい良かったよね」というシャンソン、演劇、美術などの文化的・経済的繁栄についての振り返りが生じていたのです。
森井は「歴史認識は後から生まれてくるものである」ことを強調していました。歴象データを辞書で探すときに「そのようなことがあった」ではなく、「そのような認識が生まれてきた」ということ心がけで見ていく必要があるのです。
歴象データの収集に『情報の歴史21』を活用することがありますね。事件以前の背景、その後に起こりそうな予測を想像していくのが、編伝1910稽古の趣旨となるのです。歴史を語る視点ごとに、「ヒズ・ストーリー」として分節化し、書き手側で新しく物語を獲得していくカマエを持ってほしい。
◎物語にすることで存在の厚みを表現する
歴史の中で流れる経路・文脈を作品の読み手に分かってもらうために、歴象データに登場する手触りのある超部分や、主人公や協力者や敵対者を含むキャラクター、ワールドモデル、シーンを用意する必要があります。できるだけ主人公として選んだ人物を評価する周辺の本を読んでみたり、日本語にない文献を探す努力をしておきたいですね。事実へとたどり着こうとする道のりを歩むことが、作品の濃度へと影響します。
歴史的な事実に基づかないことを物語で書いてはいけないというルールはありません。主人公が関わる事件にフォーカスして発生してから終わるまでのあいだ、文脈を意識しながら「どこを事実として捉えるか」を判断し、シーンとして描くかどうかの選択する必要があります。森井は自分入りのシーンを描くにあたって、複数のモードチェンジを勧めていました。
・映画監督になったつもりで情景を表現する
・超能力者になったつもりで隠された出来事の関係性を探求する
・心理学者になったつもりで行動の根拠を問い直す
・画家になったつもりで色彩やフォルムを使い分ける
歴象データへの切り口を変えながら、事象の奥に手を伸ばしたり、別様の可能性を想像することで、書き手が物語の内側に潜入してシーンや台詞を描くことになりますね。単なる評伝、史伝、伝記に留まらず、編伝という新しいメディアを見出すことができるのです。
◎歴史の転換期である1910年周辺をコンパイルするカマエ
第一次世界大戦前のヨーロッパの政治危機のように1910年は歴史の転換点になっています。何かが失われつつあって、物事の見方を変えないといけない姿勢が生まれていました。
日本の事例としては、柳田国男が民族学を開拓し始めていましたね。『情報の歴史21』の1910年における大トラック「もうひとつの法則」に『遠野物語』の出版が取り上げられていました。明治維新によって欧米の産業革命に倣って文明開化、富国強兵、殖産興業が推進されてきましたが、「本来、人間って何だったんだろう」という動きが世界中で同時に起こり始めていたのです。
1900年から1920年ごろの帝国主義は全盛期となり、その世界で生きている主人公に関する文献の収集と歴象データへの見方づけを広げたい。破講座のクロニクル編集術のように山登りっぽい様子になりますね。中腹から見える風景は無数の草とか木かもしれませんが、頂上に到達した時に見えてくる風景は360度の視野角を持ちます。「文献を収集ながら登ってよかった。こんな風景が見える」という認識の転換が起こるようにしてほしいですね。
◎レクチャー後のワーク
レクチャー後のワークでは編伝1910の作品イメージをアタマの中にインストールするために、師範の森井と高橋の叢衆時代の創文(抜粋)を読みます。2つの作品から「スタイルとモードの特徴」や「時代を表す超部分」や「描写から感じられるワールドモデル」など、方法的な気づきを発表する場へと移りました。
師範2人と対話する叢衆
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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2026-01-13
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