昆虫観察には、空間の切り取りに加えて、時間軸を切り裂くハサミをタテヨコ自在に走らせるのもおすすめ。この天使のようなミルク色の生き物は、数十分間の期間限定。古い表皮を脱ぎ捨てたばかりのクロゴキブリです。
イシス編集学校[守]コースには、既存の価値観におもねることなくユニークな「評価」を繰り出す目利きの集団、同朋衆がいる。前編に続いて、同朋衆の「評価」の秘訣を解き明かしていく。
◆評価者は対話する
「番ボーの講評では何が交換されているのか」。「栞・目次」を担当した森本康裕同朋衆はこう問いかける。同朋衆は問いをベースに読み、仮説とともにプロフィールを羽ばたかせる。「ちょうちょの栞・青虫の目次(連菫ポレポレ教室/Y・S)」には「書店や図書館が花畑にも見えてくる」と、「虫に見立てる」というエディティング・モデルにアフォードされたイメージを返す。
「栞・目次」の全作品をアンソロジーとして編んだのは相部礼子同朋衆だ。作品を分けて・あつめて章を作って目次をつけ、章のテーマに合わせた千夜千冊を栞のように差し込んだ。作品と作品、学衆と松岡正剛、読み手と書き手が幾重にも交差し混じりあいながら本と読書のもたらす可能性を伝える講評だ。「合掌の栞・開眼の目次(ゆらぎロボ教室/M・S)」に添えた「見る者が知恵に目覚め、世界の見え方を新たにする行為こそが読書なのです」というメッセージが力強い。
若林牧子同朋衆は「甘酒・チョコレート」の原型に迫り、どちらも「天より授かった聖なるしずく」と見た。講評を醸造所に見立て、106の作品をじっくり醸し、こぼれる滴の味わいをふくよかに描く。「真綿の甘酒・天鵞絨のチョコレート(スクっと芍薬教室/A・Y)」は「ふたつの質感が寄り添うことで、そこに至るまでの手間や祈りまでも、ひとつの風味となって融合する」と評した。
対する福井千裕同朋衆は「甘酒・チョコレート」をコンビニの見切り品カゴに置く。アーキタイプからステレオタイプへ、霊性から世俗へ。講評どうしも呼応する。疲れた都市生活者の心身を癒す香味を持ち、ほろ苦い刺激とアナロジカルな魅力を感じる作品を手に取っていく。「町娘の甘酒・花魁のチョコレート(半ちらつもり教室/M・M)」甘味の奥に潜む搾取や差別と、抗いがたい美を生んだ技巧の歴史を講評に絡ませる。言葉とイメージをたっぷりと狩猟し、レジへ向かうと「80円です」。えっ…?後を引く余韻の楽しみ方も、読み手次第だ。
今期いちばんの重厚お題「空海・ゲーテ」の講評に挑んだのは一倉広美同朋衆と景山和浩同朋衆だ。なんと一倉がゲーテ、景山が空海になりきり、二人が千年の時を超えて往復書簡を交わして語り合い講評するという。
1000年の時を隔てた
空海とゲーテを、どうつなぐか。
その方法は、”かわるがわる”
時代も国も職業も、生き方も考え方も異なる2人を対同させるには「方法」が必要だ。
「かわるがわる」の「かわる」と「がわる」のあいだでしか思考は羽ばたかない
(松岡正剛『空海の夢』)
『空海の夢』の一節を手掛かりに、両者のクロニクルを作品と重ね、講評によって同朋衆の見方を加える。空海とゲーテの瑞々しい「らしさ」がみるみる引き出されていく。一倉同朋衆をして「この夢幻講評を書き終えてしまうのが惜しい」と言わしめた景山同朋衆との、空海とゲーテとの、そして学衆たちとの共読・共書・共創体験であった。
編集は対話から生まれる。イシスの「評価」は決してひとりでは行わない。同朋衆どうしが対話し、作品と対話し、お題と対話しながら編まれていく。対話とは、人や作品の中にある「方法」を取り出し、自らも方法をもって応じていくことだ。イシスが創造的な「評価」を行うことができるのは、主題ではなく方法に重きを置いているからに他ならない。
文:石黒好美(56守番匠)
アイキャッチ:阿久津健(56守師範)
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2026-02-24
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