先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。

41[花]は5つの道場にわかれて、式目演習に臨んだ。師範代認定への評価は、それぞれの道場を与る花伝師範の裁量に委ねられている。今期わかくさ道場の花伝師範は尾島可奈子。尾島は、敢えて「わかりやすいスコア」ではからない、という編集方針で道場稽古をスタートさせた。
◆はかれるもの・はかれないもの
口数の多さや回答のスピード、あるいは誰と何回、どれくらいのやり取りをしたか、といった数や量で表すことができるもの。言葉遣いやものごとの見方や捉え方、特徴や手触りのような質的なもの。こうしたスコアとしてつかめる、わかりやすいもので入伝生をはからない。尾島が見ているのは、彼らが「場」に出してくるふるまいの奥にあるものだ。
◆わかくさの広場
わかくさ道場の6人のうちで、もっとも「書く」ことに長けているのはYだ。日々の暮らしの情景を軽妙に、鮮やかに描きだす力量と、読むものを引き込む情感あふれる世界観には誰もが一目置く。ことばも柔らかで豊穣だ。かつて[守][破]の講座で稽古の達人の名を欲しいままにしたMは、わかくさ道場でも先陣を切る。彼のユニークネスは、あちこちにハプニング(偶然)を巻き起こす、さながらつむじ風だ。いっぽう、対話のステップを楽しむSは、Chat GPTを道場に持ち込んだ。AIの回答は、連想もアナロジーも新たな可能性もなく、表面的だ、とすっぱり言いきりながらも、Chat GPTなりの「らしさ」の捉え方をおもしろがる。
◆推しはかる
尾島は矯めることをよしとしない。センサーに触れるところにどんどん深く入り込んでゆくUの注意のカーソルの動きを“ほっつき蟻”に見立て、彼の持ち帰るお土産を楽しみに待つ。蝶々のように軽やかに道場仲間の間を飛び回るRが、痛みを感じる瞬間を見逃さず、すっと言葉を届ける。Yの芳醇なことばの奥に気高く咲く花を愛で、SとChat GPTのやり取りに耳をすませる。時にしれっと対話に加わり、さしかかりと見ればきりっと鋭く切り込む。ここぞの場面では、粘りづよく言葉をかさね、決してあきらめない。
◆「場」のチカラ
彼らのふるまいのひとつひとつが、尾島にとってのツールになる。だれかが動けば、周りも動く。そうやって「場」が動き、ひろがってゆく。その「場」に編集されるのは、入伝生だけではない。彼らの一様ではないふるまいが、道場をともにする師範の応接も変幻自在にかえてゆく。師範たちは多様な意味の交換をともに遊ぶ編集数寄者だ。
花伝所はイシス編集学校で、唯一、相互編集を方法として学べる場だ。花伝所の師範は、そこにあるものから「次になるもの」を見つめている。そのイメージメントが入伝生を師範代認定のその先へ、編集道の彼方へと導いてゆく。
文:山本ユキ(錬成師範)
写真・アイキャッチデザイン:宮坂由香(錬成師範)
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コメント
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2025-10-20
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2025-10-15
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2025-10-14
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