『キャラ者』は、”マンガ家”だった頃の江口寿史の、(まとまった作品としては)ほぼ最後の仕事。恐るべきクオリティの高さで、この才能が封印されてしまったのはもったいない。
「来年こそはマンガ家に戻ります!」と言ったのは、2016年の本の帯(『江口寿史KING OF POP SideB』)。そろそろ「来年」が来てもいいだろう。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
ある時、三澤洋美さんは本業とは別で、友人と「いちにちだけの喫茶店」をオープンすることになった。「1日だけでも、せっかくやるならいいものにしたい」。思いが強い2人が組めば意見がぶつかるもの。話し合いは平行線が続いた。その障害をどう切り抜けたのか。
イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ、第14回目は三澤洋美さんのエッセイをお届けします。
■■「他者」の存在が創発を生む
長年の喫茶店好きが高じ、同好の友人と二人で不定期開催のいちにちだけの喫茶店を立ち上げることになった。組織開発や人材育成を生業にしている私と会社員の友人、二人とも飲食業での社会人経験は全く無いが、「やりたいならやってみよう」という思いを真ん中に置いて、とにかく進むことにしたのだ。お店の名前は「喫茶ひろまり」。二人の名前を二文字ずつ組み合わせ、わたしたちとお客様、お客様同士、様々なひろがりが生まれる場になるように、という思いを重ねた。そして、喫茶店といえば、と注意のカーソルをめぐらし、「喫茶店らしさ×やりたいこと」を集めて広げて、イメージに合ったレンタルスペースを探し、お互いの実家の定番サンドイッチを看板メニュー「両家のサンド」とし、一つずつ形にしていく過程を楽しみ、夢中でやりきったのが2022年5月。
一年越しの第2弾は、新緑の美しい5月の高尾、小さなカフェを間借りして開催。そこまではスムーズに決まったものの、その後が難航した。メニュー一つを取っても、お互いの意見が噛み合わない。「わたしたちの喫茶店」をクリアに表現しようとすればするほど小さな違いが頻発する。相手が何を求めているのかが見えず、拮抗する綱引きのような話し合いが続き、途方に暮れる。お互い大人なので、このあたりで、と手を打つこともできるのだが、好きから始まったことだからこそ、手は抜きたくない。何が起きているのだろう、と擦り合わせを続ける中で、ようやくわかったのは、立っている「地」の違いだった。
「いちにちだけの喫茶店」を「非日常のステージ」とするか「日常の憩いの場」とするか。
前者に立つと、私たちは「キャスト」であり、ユニフォームは「パッと目を惹く衣装」、メニューには「ちょっとした高揚感や驚き」がほしい。
後者に立つと、私たちは「裏方」であり、ユニフォームは「清潔感のある服装」、メニューには「ホッとする定番感や安心感」がほしい。
そう気づくと、相手の視点(=個々の「地」)が見えるようになり、話は一気に進み出した。2人の共有する大きな「地」である「わたしたちの今回の喫茶店」に立ち返り、「美味しい定番メニュー」を今回の「いちにちだけの喫茶店」の旗印(=図)にすることで、個々の「地」の違いが些細なことに変わったのだ。私たちは無事、オープン当日を迎えることができたのであった。
さて、次は、相手の地に乗って、もっと遊べるかもしれない。あるいは、二人で新しい地を作って「喫茶店ではない何か」を創るかもしれない。全てを「編集」と捉えたら、可能性は広がるばかりだ。
▲三澤さんの「いちにちだけの喫茶店」(上)の目玉は「両家のサンド」(下)。それぞれのこだわりサンドイッチを提供した。左はS家の母の味。やさしい甘さの炒り卵が特徴だ。右はY家の父の味。チーズで海苔を挟んだバター醤油味の一品だ。
文・写真提供/三澤洋美(43[守]非線形裏番長教室、43[破]どろんこ天鵞絨教室)
編集/柳瀬浩之、吉居奈々
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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