ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
山本昭子さんが、イシス編集学校でいちばん戸惑ったのは「わける」稽古だった。植物分類学を学んできた山本さんにとって、分類は揺るぎのないもの。ところがイシスのそれは違った。山本さんの戸惑いのその先は。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス修了生による「ISIS wave」。今回は山本昭子さんの分類をめぐるエッセイをお届けします。
■■コケのようにふかふかと
ハコベ、ナズナ、イノコヅチ。小さいころ、道端で母がよく植物の名前を教えてくれた。雑草としてひとくくりにされがちな植物の、ひとつひとつに注意のカーソルが向くようになったのは、母のおかげだ。そんなことを思うのは年齢を重ねたせいでもあるが、[破]のクロニクル稽古で自分史を辿ったら今と昔が呼応し始めたからでもある。
大学時代、植物分類学を専攻した。卒研のテーマは、東西1㎞南北4㎞におよぶキャンパスを季節ごとに隈なく採集して回った植物を標本にし、同定し、目録を作ることだった。目の前にある植物の種類を見分けるのが同定だ。花のかたちや葉の付き方、茎の断面や毛のようすなどを観察し、外見的な特徴からアタリを付け、図鑑の画や記述と照らし合わせながら絞り込んでいく。体系的に整理された分類表のどこに位置付けられるかを突き止めるのだ。
時は流れて2020年、イシス編集学校に入門し、[守]のお題で分類に出会ったときは面食らった。豆腐で役者を分ける? 植物分類での緻密で厳密なイメージの分類表とは違い、雰囲気を手掛かりにモノの分類を試みるお題だ。だが分類の線引きは揺れ動き、豆腐のような頼りなさを感じて不安になる。回答はしたものの、モヤモヤを残したまま卒門した。
2023年、「コケ」を名前の由来に持つ、光合成センタイ派教室の師範代を拝命し、ふたたびこのお題に向き合う。指南を繰り返すうち、ようやく腑に落ちてきた。編集学校の分類が「柔らかい分類」なら、植物分類は「固い分類」と言える。でも、どちらも分類だ。不安になる必要はない。分類のフレームはかっちりとしていても良いし、変化してもかまわない。全く違うフレームを持ってくれば、イメージが動き意外な見方も生まれる。照合するのは「らしさ」と「らしさ」。そう、植物の同定も「らしさ」がモノを言う。キク科らしさ、バラ科らしさ…。分類表とて揺るぎない存在ではなく、新たな知見が加われば改変される。一見固そうな植物分類も、豆腐で役者を分ける柔らかい分類も、地続きなのだろう。
2024年秋、生まれて初めてコケ観察会に参加した。日曜日の都市公園。初心者向けにコケの見方を教えてくれる。「石垣に生えているのか、木の幹なのかなど、生育環境の違いもコケの種類を見分けるのに欠かせない情報です」。石にへばりつくコケにスプレーで水を吹きかけ、ルーペと目をぐっと近寄せる。縮こまっていた小さな枝葉が立ち上がり開いてくる。同時に、胸の奥で何かがじんわりと熱を帯びてくる。さあ、分類を遊ぼう。コケのようにふかふかと、柔らかく。
▲さあ、どう分類しよう(左は旅先で見つけたスギゴケの仲間、右は自宅の庭のハリガネゴケ)
文・写真/山本昭子(46[守]位相オンライン教室、46[破]ほろよい麒麟教室)
編集/山口奈那、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
新しいことをするのに躊躇していたという増田早苗さんの日常に、突如現れたのが編集稽古でした。たまたま友人に勧められて飛び込んだ[守]で、忘れかけていたことを思い出します。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を […]
【書評】『熊を殺すと雨が降る』×5×REVIEWS:5つのカメラで山歩き
松岡正剛のいう《読書はコラボレーション》を具現化する、チーム渦オリジナルの書評スタイル「3×REVIEWS」。 新年一発目は、昨年話題をさらった「熊」にちなんだ第二弾、遠藤ケイの『熊を殺すと雨が降る 失われゆく山の民俗』 […]
正解のないことが多い世の中で――山下梓のISIS wave #71
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 上司からの勧めでイシス編集学校に入ったという山下梓さん。「正確さ」や「無難さ」といった、世間の「正解」を求める日常が、 […]
編集稽古×合気道×唄&三味線――佐藤賢のISIS wave #70
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 新年初めての武術、音曲などの稽古を始めることを「稽古始(けいこはじめ)」「初稽古」といい、新年の季語にもなっています。 […]
ミメロギア思考で立ち上がる世界たち――外山雄太のISIS wave #69
イシス編集学校の[守][破][離]の講座で学び、編集道の奥へ奥へと進む外山雄太さんは、松岡正剛校長の語る「世界たち」の魅力に取り憑かれたと言います。その実践が、日本各地の祭りを巡る旅でした。 イシスの学びは […]
コメント
1~3件/3件
2026-02-10
ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。