イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
[守][破][離][花]の講座を走破し、[守][破]の師範代としても活躍した妹尾高嗣さん。51[破]師範代登板中の妹尾さんを、生活のあり様を一変させる大事件が襲う……。
「編集を人生する」妹尾さんの体験をお届けします。
■■失うことで得たもの
妻が脳梗塞になった。2024年2月、51[破]の師範代登板中のことだ。私は感門之盟のP-1グランプリ発表準備のため、いつも以上に慌ただしくしていた。
右半身麻痺、言語障害。妻の症状を医師から宣告されて動揺した。すぐに妻の手術と入院が決まった。乗り越えられないものを天は私に与えないと信じ、「これも一つの物語。編集しよう」と英雄伝説の五段階構造に自分をあてはめる。
【原郷からの旅立ち】
妻の家事や育児のおかげで、私は仕事も師範代もできていた。これからは妻のロールも担う覚悟を決める。
【困難との遭遇】
家族4人分の食事や洗濯は不慣れなものだ。家事は毎日続き際限がない。初めてのぞむP-1グランプリも手探りだらけ。
【目的の察知】
終わりない困難と闘ううちにふと思う。妻が倒れ生じた環境の変化は「私を刷新させるために起きている」と。
【彼方での闘争】
P-1リハーサル。ナレーションを読む我が教室の学衆へ校長は一喝。私は発奮し、本番に向け大幅修正をかける。
【彼方からの帰還】
P-1発表後、子どもたちも一緒に家事をするようになっていた。妻は入院中でも、互いの存在のぬくもりを感じる日々となる。
妻は脳梗塞発症直後の3日間、言葉を発することもできなかった。話すことができなくても、活字に飢えていたのか、妻は私の差し入れた本をとても喜んだ。動かすことのできる左手で本を捲り、文字を丁寧に追う。
すると、文字に引きだされるように、口から単語が溢れ出し、徐々に聞き取れる言葉を話せるようになる。それ以来、夫婦で音読、共読をし、妻と私による、本との新たな交際が始まった。
大きな声でゆっくりとしゃべり、言葉を大切に扱うようになると次第に、右半身も動き出し、右足を引きずりながら歩けるようになる。専門医による的確な助言のもとリハビリをして、体の機能をほぼ取り戻した。
退院後、妻はリハビリに通いながら、入院中に出会った仲間が回復していく様子を動画というメディアに仕立て、周囲を喜ばせて遊ぶようになった。作品完成まで、私と妻で相互編集を楽しむ。妻の映像へのこだわりは、私に問いを生じさせる。私の問いに妻はアツイ言葉で返してくれるのだ。
例えば「前半は病院の印象的なモノに焦点をあて、後半に専門医や患者さんといった人の表情を強調するのはなぜ?」と問う。「静から動へと抑揚をつけたい」「後半に加速感を与えるため」「人を大事にしている人だから、そのことを印象づけるため」と感じていることや、その周辺情報に応じての答えやメッセージ、メソッドが返ってくるから面白い。
映像作品というメディアのメッセージやメソッドに対する妻のこだわりは、私には未知のセカイ。お互いが知らないことを埋め合うようであり、出会った頃の二人のような感覚になる。脳梗塞により、健康や体の自由、これまでの生活を失うこともあるが、日常を編集することによって、新たな関係が生まれ小気味よい。
先日、妻が初めて自ら「映像の学校に行きたい」と言ってきた。私は宙に浮くほど喜ぶ。編集学校で「学びの醍醐味」を味わってしまったから、妻にもこの喜びを共有してほしいと願っていた。50歳を過ぎた私と妻だが、初々しい思いをもって学びにのぞむ。春が到来したかのように心が浮き立つ。
妻と一緒に創作に没頭し、私の幼な心も甦る。妻と共に「編集を人生する」今が愉しい。
▲動画編集を“間”に寄り添うふたり
文・写真/妹尾高嗣(42[守]絶対安全カミソール教室、42[破]よりみちパンセ教室)
編集/大濱朋子、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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