蛹の胸部にせっかくしつらえられた翅の「抜き型」を邪険にして、リボンのような小さな翅で生まれてくるクロスジフユエダシャクのメス。飛べない翅の内側には、きっと、思いもよらない「無用の用」が伏せられている。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
上司からの勧めでイシス編集学校に入ったという山下梓さん。「正確さ」や「無難さ」といった、世間の「正解」を求める日常が、変化していったそうです。いったいどう変わったのか。
イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ、「ISIS wave」。第71回は、山下さんの変化と気づきをお届けします。
■■「型」があるからこそ
私は、「共感資本社会の実現」を掲げる株式会社eumoで、電子決済サービス「共感コミュニティ通貨eumo」に携わっている。円から縁へ、交換から共感へ。決済をきっかけに関係性が育まれる、少し変わったサービスだ。
仕事では日々、さまざまな人の想いに触れ、正解のない相談や感情の揺れに向き合う。数値化や最適解では割り切れない領域であり、相手の言葉の裏にある温度や迷いを感じ取りながら判断することが求められる。そのプロセスは、AIに完全に置き換えることのできない、人と人のあいだに生まれるものだと感じている。その中で[守]で学んだ情報の見方や関係づけは、大きな支えになっている。
《コップは何に使える?》という[守]の稽古は、用途を一つに固定せず、情報の多様性をひらく練習だ。飲むための器という前提を外すと、測る、すくう、音を出すなど、見方は一気に広がる。また《地と図》というお題では、背景(地)と主題(図)を置き直すだけで、同じ事象でも意味が変わることを体感した。
この学びは、約300名が参加した会社のイベントでも活きた。制限のある条件の中で、運営チームや参加者の柔軟な発想を受け止め、私自身も固定化した見方を外して考えることで、想像を超える結果が生まれた。型(ルール)に収まるのではなく、型を足場に場が動き出す。その感覚を実感した。型があるからこそ、安心して遊びが生まれるのだと思った。
▲約300名が参加したイベント「eumoな日2025」の集合写真
イシス編集学校に入ったきっかけは、上司からの「文章にもっと遊びを入れてみたら?」という言葉だった。当時の私は、仕事柄「正確さ」や「無難さ」を優先する文章ばかりを書いていたが、その分、自分らしさや感情が削ぎ落とされていたのかもしれない。上司からの言葉は、文章と人との距離について考え直すきっかけになり、イシスの門を叩いた。
基本コース[守]では、ラウンジへの投稿も最低限で、課題も締め切り直前に提出するだけ。お題の意図を十分に掴めていたとは言えない。それでも卒門(修了)後の感門之盟で、言葉を大事にし、個性あふれるイシス編集学校の人たちがつくる場の空気に惹かれ、応用コース[破]へ進むことを決めた。
[破]では締め切りを意識し、言葉と向き合う姿勢は整ってきたが、他者の文章に目を向ける余裕はまだなかった。転機になったのは京都での感門之盟だ。仲間や師範代と顔を合わせた瞬間、文章の奥にあった温度や背景が立ち上がり、編集コーチ養成コース[花伝所]へ進む決め手となった。
[花伝所]では、師範代の視点でお題を捉え、教室という場を編集する。同じお題から生まれる回答は驚くほど多様で、文章にはその人の経験や、在りたい姿が滲み出ていた。
正解のないことが多い世の中だからこそ、思考の足場としての型が必要になる。型を守り、型を越え、また型に立ち戻る。その往復を、日々の生活で意識し続けていきたい。
文・写真/山下梓(52[守]風月盆をどり教室、53[破]幕をあけます教室)
編集/チーム渦(長谷川絵里香、角山祥道)
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
編集稽古×合気道×唄&三味線――佐藤賢のISIS wave #70
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コメント
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2026-01-20
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2026-01-13
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岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)