[ISIS for NEXT20#1][中編] バイトあがりの教務主任―局長佐々木千佳の膝枕力ー

2020/12/30(水)20:20
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20時20分になりました。エディストをお聴きのみなさま、こんばんは。
radio EDIST アシスタントの梅澤です。

なんのことやら?というアナタは乗り遅れるまえに。
[ISIS for NEXT20]#1_局長佐々木千佳の膝枕力 ―年末特番!ラジオエディスト音声配信―

 

 

本日も、佐々木局長のインタビュー模様をテキストでお届けします。
今日の聴きどころは、「イシスって何がすごいの?」

 

もともと教育業界に携わっていた佐々木局長は、どうして編工研に入社したのか?
イシス編集学校と、ふつうの教育のいちばんの違いはなにか。

これからの子どもたちは、みんな師範代になるべき?!

 

そんなQを立てながら、7分55秒〜19分13秒あたりをお聴きください。

 

 

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聞き手:深谷もと佳

 


#1 局長佐々木千佳の膝枕力 [中編]バイトあがりの教務主任


 

―――[前編]では、師範代への憧憬を思わず吐露した佐々木。個々のキャラクターこそ、イシスの宝。それを受け、深谷は自身がもっとも気になっているキーワードを投げかけた。

 

■「エディティング・キャラクター」

 「編集的自己」とは?

 

―――編集学校で近年強調されているこのふたつの言葉。深谷が出自を問うた。

佐々木が経緯をひもとく。もともとは、松岡校長が2008-2009年に花伝所の師範研究会・花の御所で行ったレクチャー「エディティング・セルフの条件」に端を発する。それを聞いた佐々木は、花伝所の次なるステップを考える際「師範代の目指すべき姿はエディティング・セルフだ」と確信。再度、校長がそのレクチャーを語り直したとき、「エディティング・キャラクター」という言葉が登場したという。軽快にインタビュー写真を撮影していた田中晶子所長も、花伝所の内容とあらばすかさず助け舟を出した。

 

―――ここまで聞いて、深谷が探偵のような口ぶりになる。

 

深谷:とすると。時系列的には、「エディティング・セルフ(編集的自己)」という言葉が先にあって、あとから「エディティング・キャラクター」が出てきたという順番でいいでしょうか。

 

佐々木:そうですね、はい。

 

深谷:じつは私、「編集的自己」「エディティング・キャラクター」という語がいつから登場したのか調べたんですよ。

 

佐々木:いやぁ〜すごいな!さすが(笑)

 

―――深谷は、千夜千冊でキーワード検索をし、「編集的自己」の初出は2009年6月の1304夜『セレンディピティの研究』1305夜『無意識の脳・自己意識の脳』だと突き詰めた。

 

深谷:あらためて読み直したらね、なんと佐々木局長のお名前が! こう書いてありますよ。
(校長の声色を真似て)「佐々木千佳の名インストラクションによって、この実験授業はたいへん好評だった」

 

 

佐々木:あぁ、「2+1」(ツープラスワン)のことですね。

 

―――編工研とのなれそめである。佐々木はこのプロジェクトのスタッフとして、編工研でアルバイトを始めたという。

 

 

■BGMにもダメ出しが。

 佐々木千佳の編工研アルバイト時代

 

―――20世紀末、編工研のなかでは教育の情報化プロジェクトがいくつも走っていた。セイゴオちゃんねるでは、その全貌が明かされているが、そのそのなかのひとつが、のちに「カプタリウム」と名前を変えることになる教育ソフト「2+1」の開発だった。

 

―――佐々木は、この教育版PRGのゲームルールやキャラクターを決めたり、ショートムービーを200本ほど作ったりしていた。そして、小学校に出向いては「こんなふうに遊んでね♪」と説明するお姉さん役を。このプロジェクトは、経産省や文科省から予算のついたもの。「国プロ」に総掛かりで挑む編工研の様子を深谷が尋ねる。

 

深谷:当時、校長がそういうプロジェクトにかける意気込みは凄かったんじゃないですか。

 

佐々木:凄かったですよ。その意気込みは、伝習座でも同様で。休憩中にBGMをかけるでしょう、その選曲にまでダメ出しがあるんですよ。メジャーな曲はダメで、歌詞が入ってたらダメで、メロディーラインがはっきりしてたらダメで、でも民族音楽過ぎてはダメでとか、それくらい具体的な基準がありました。

 

深谷:さすがですね。

 

佐々木:「文化をつくる」とか「モードを植えつける」って、こういうことなのかと感じました。

 

 

■前職で感じた、教育の限界

 情報をダイジェストするだけでは間に合わない

 

―――佐々木は、前職をやめてフリーランスになっていたころ、編工研でプロジェクトを手伝うようになった。大学卒業後に就職したのは、映像出版の会社。どうしてそこを辞めたのか。深谷が水を向けると、佐々木は自身の教育論を語りはじめた。

 

深谷:編工研でバイトを始めるまえのことは、『インタースコア』(p.508)に書いてありましたね。「知識やスキルをコンパクトにわかりやすく伝えるやり方にはどこか限界があると思っていました」

前職ではどんなお仕事を?

 

佐々木:大学を卒業してからは、映像教材をつくる会社に勤めていました。たとえば名刺の渡し方とか営業マンのトークなどを学べる教材を作って、「映像を使えば、企業研修がこんなに効率的になりますよ」とセールスしていました。そういうことが売りになる時代だったんですね。

 

深谷:でもなにか、そこに違和感があったのでしょうか。

 

佐々木:そうやって、「これからの時代はこういう営業ですよ」とか「マネジメントはこうですよ」なんて、あの手この手でネタを探してパッケージ化して、次から次へとリリースしていたんです。

たしかに、短時間で能力アップさせられるようなツールではあったんですが、それを見た人が自分で「方法」を考えられるようにはならないんですね。

 

 

■佐々木千佳の教育論 

 自分で発見、そのためには「場」が必要

 

深谷:あぁ、自分で自分の方法を作れない。これが「たくさんの情報をコンパクトにまとめる」だけの物足りなさだったんですね。


佐々木:これだけやっていれば大丈夫だからと言って、口を開けて情報を食べさせたとしてもだめなんですよ。そうではなくて、自分で料理をして、自分で食べられるようにならないと。

 

深谷:そうですよね。

 

佐々木:やっぱり、自分で方法を発見したり、作ったりできるほうがぜったい面白いと思うんです。

 

だから、私は新しいスタッフが来ても、一から十まで教えるのはあんまり好きじゃなくって。「こうすればうまく行くじゃん!」って、その人自身が発見するほうが、その人をかたちづくる。そういう意味でも「教える」ということには、限界を感じているんです。

 

深谷:その当時から「方法」とか「発見」といったキーワードはあったのかしら。

 

佐々木:そうですね。学ぶには、「環境」とか「場」が絶必で、そのなかで触発されていく状態がいいんだろうなと思っていました。

というのも、そのときの仕事は、何かのパッケージを届けるだけ。相手がどう変わったのかわからないものだったんです。

 

深谷:編集学校はそれとはまったく違いますよね。

 

佐々木:そうなんです。編集学校は、メディアが人。学習環境にずっと人がいて、不満も言えば喜びもする。そのような複雑さは、まったく桁違いの面白さでしたね。

 

 

 

■子ども編集学校は

 「究極の学び手」を育てるために

 

―――自装できないと意味がない。佐々木は言い切る。教育とは、情報を教え込むことではなくて、みずから発見する力を養うもの。そんな佐々木の野望は「子ども編集学校」。すでに、世界観やプログラムはいくつかできあがっていて、あとはそれをどう事業化するか考えるフェーズだという。

 

―――流麗に語る佐々木に、深谷はとぼけたふりをして小爆弾を投げ込む。

 

深谷:あの、私、半年くらいまえに小耳に挟んだんです。佐々木局長が「子ども編集学校」の本を出されると……


佐々木:あぁ〜〜そうなんですよ(笑)

 

―――佐々木は顔に手をやった。手がまわっていないことをうしろめたく思っているらしい。その様子に深谷はニヤリ。

 

深谷:空耳じゃなかった!

 

佐々木:空耳じゃないです。いまお話いただいているのは、ジュニア向けの新書シリーズで、編集者の人ともやりとりをしています。仮タイトルは『学びの編集力』。

 

深谷:どんな内容なんですか?

 

佐々木:「みんな師範代になろう」という本ですね。

 

深谷:えっ。「みんな」というのは誰なんでしょう?

 

佐々木:子どもたちです。師範代を「究極の学び手」と考えているので。

 

深谷:そうかそうか! たしかに究極の学び手ですよね。これはやった人しかわからないかもしれないんですが。

 

佐々木:そうなんですよ。やっぱり「相互的に学べる」というのがいちばん大きい力ですね。

 

 

―――師範代こそ究極の学び手。パッケージを作って届けるという従来の教育に携わっていた佐々木だからこそ、教えると同時に学んでいく「師範代」という方法の可能性に魅了されたのだろう。話題は、いまの子どもたちが置かれた環境の問題点に及んでゆく。

 


■方法があれば

 やりたいことだって見つけられる

 

佐々木:授業をさせてもらった学校の子どもにインタビューをするんですが、びっくりしたことがあったんです。その子いわく、「情報とは、過ぎていくものだと思っていた」「でも、この目次読書をすると、情報が全体像をもっていて、積み重ねていけるものだとわかった」と。

 

深谷:情報を扱う実感知がなかったんですね。

 

佐々木:スマホ検索で、あるキーワードに行き当たったら終わりと続けていると、情報に対する感覚がこれほどに変わっちゃうんだと驚いたんです。それじゃあ、やりたいことも見つからないよなと納得しました。

 

でも、そういう子たちであっても、たとえば、「自分が好きだと思う3冊の組み合わせを作って」と言うと「私はこれがやりたかったんだ」と気づくんです。

本を3冊集めるだけなんですよ。それだけの手続きで、やりたいことに出会える。そういう子どもたちの変化を見ていると、編集の方法を伝えることの大事さをものすごく感じるんです。

 

子どもが育つ環境を、大人がもう一回考えていきたいですよね。たんに流行り物で埋めてしまうのではなくて、なにが必要か吟味する。それも編集学校のミッションのひとつかなあと思います。

 

―――「方法」があれば、生き方さえ見えてくる。佐々木が子どもたちに手渡したいのは、小手先のスキルなどではない。生きる方法なのだ。

 

 


 

[中編]、いかがだったでしょうか。

なにか気になるキーワードやホットワードはありましたか?

ぜひご自身の「場」で共有してみてください。

 

編集学校という、人がメディアとなった唯一無二の場。

ここに集っていることを誇りに感じられてきますね。

 

明日でいよいよ佐々木局長インタビューはラスト。

NEXT ISISって結局何なの?

いままで明確に語られてこなかったNEXTのヴェールをはがします。

 

[後編]NEXT ISISの艶めく大黒柱、乞うご期待。

 

 

<<<[前編]はこちら

>>>[後編]へつづく

 

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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