radio EDSITをお聴きのみなさま、こんばんは。アシスタントパーソナリティの梅澤奈央です。
年始スペシャル番組「林頭吉村堅樹の志向力」はお聴きになったでしょうか。
みなさんにとって、吉村林頭はどんな印象がありますか。
私は学衆時代には、感門之盟でチラッと見ただけのこわそうな人。
師範代になって、伝習座などで話を聞いても眼光鋭く近寄りがたい存在というイメージは変わりませんでした。
ですが、舞台という「地」が変わると、こうも変わるものなんですね。
この番組では、みなさんの知らない吉村林頭に出会えること間違いありません。
今日から4回に分けて、深谷もと佳によるインタビューの模様をテキストでお送りします。
まずは冒頭7分程度のパートです。関西仕込みの、いや読経仕込みの話芸をお楽しみください。
>>>[序]はこちら
[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力 [起]「僧侶で神父」の真相は
―――2021年新春。21歳をむかえるイシスの未来を語るなら、この男をおいてほかにいない。中核的存在にしてつねに異端児、イシス編集学校学林局林頭・吉村堅樹だ。
伝習座などで難解な内容をレクチャーするその鋭い目つきとバンカラな雪駄姿からは、近寄りがたい印象をもつ者も多い。それゆえ遊刊エディスト創刊時、吉村のプロフィールを見たイシスの面々はざわついた。
現在登録されている81名のエディスト編集者プロフィールはすべて、編集長である吉村が作成しているが、自身の経歴はひときわ異彩を放つ。誰しも気になりながらも触れられなかったその謎に、深谷もと佳はまっさきにツッコんだ。吉村は、待ってましたとばかりに語り始める。
■中学2年でドロップアウト
吉村堅樹の行き当たりばったり
深谷:あの謎のプロフィール。僧侶で神父ってなにごとなんですか。
吉村:人生行き当たりばったりなんですよ。自分で選んだものがほとんどないんです。自分で選んだものは、すべて失敗しているんです。
―――のっけから飛ばしまくる吉村。生まれは京都の宇治、通っていた中高一貫の男子校には馴染めず、唯一の逃げ場は塾。そこは、全共闘世代の人物が物置小屋から始めたもの。受験のための勉強をする機関ではなく、本質的な思考法を学ぶ場であったという。
吉村:90分の授業で、数学の問題1問しかやらないんです。出来上がったら先生のところに行って、解答プロセスを説明するんですね。そして、スコアをつけてくれるんです。
王道のやり方だと「◎」、ちょっと下手だと「◯」、ぐちゃぐちゃなやり方だと「×」、意表を突くやり方だと「▲」。これって競馬の印なんですね。
それが面白くて、大学生になったらその塾の先生になろうと思ったんですよ。でも、僕は大学受験で京都の大学にことごとく落ちたので、「お前、京都の大学行けなかったからダメだ」って断られまして。
■子どもが生まれたからこそ
無給で映画の助監督に
―――吉村が、つぎに自分から目指したのは「映画」の道だったという。大学生のとき、大阪芸大へ行って学ぼうとするもドロップアウト。しかし28歳のころ、転機が訪れる。吉村は、原一男というドキュメンタリー映画の監督に憧れていた。代表作は『ゆきゆきて、神軍』や『全身小説家』。それを知っていた友人が、読売新聞の夕刊に掲載されていた「原一男のシネマ塾」の存在を伝えてくれ、ふたたび映画に没頭。1年目と2年目は夏休みに4日間、大阪九条の元遊郭に泊りがけ。3年目になると、1年間フルで授業を受けながら映画の撮影をした。
吉村:3年目が終わったあと、原さんに言われたんですね。「カネはやらないけど、助監督やりたいやつは東京に来い」と。
2003年ころですね。僕はそのとき結婚していて子どももいたんですが、何をとち狂ったか、子どもができたからやりたいことをやろうと思って東京に出てきました。
ふつうは逆ですよね。子どもができたら、ちゃんと働けよって思うじゃないですか。僕はそうではなくて、やりたくないことをやっている姿を子どもに見せたくないという気持ちがあって。
―――吉村が自分で選んだのは、この塾と映画の2回だけ。ほかはぜんぶ「やってみないか?」と誘われたものだという。
■犬の散歩で僧侶になった
ゲーマーから神父へ華麗なる転身
―――吉村のいきあたりばったり感については聞いたが、肝心の問いへの応答がない。深谷は再度マイクを向ける。
深谷:それにしても「僧侶で神父」ってどういうことですか。
吉村:ああ、僧侶っていうのはですね……。大阪で大学に通っていたとき、住んでた寮の先輩が、犬の散歩のバイトをしてたんですよ。近くのお寺で。で、「堅樹、お前もやらない?」と言われて。それ、時給1000円なんですよ。
学生にしては悪くないじゃないですか。犬は、チャウチャウでした(笑) そうすると、お寺の奥さんに気に入られて「吉村くん、お経読んでくれない?」と。
お寺って、お盆のとき忙しいんですよ。3人くらいのお坊さんに頼んでいたんですが、そのうちの一人をやれと言われて、カセットテープを渡されましてね。
深谷:チャウチャウの散歩をしていたら、お坊さんに……
吉村:テープを聞いて覚えたっていうエセ僧侶です(笑) 得度した三津田知子さん(花目付、24[守]修験ハイジ教室師範代)のように立派なものではないんです。でもね、僕お経うまいんですよ。檀家の評判は住職よりよくって。
―――読経で培った喉の強さなのか、息つく暇なくしゃべり倒す。そのまま任天堂でのゲームデバッカー時代へと話が移る。
吉村:僕、自堕落なんでゲームばっかやってたんですよ。で、ゲームしながら金もらえたらいいよなと思って、任天堂でバイトを始めたんです。でもそれだけじゃ暮らせなくって、肉体労働もやってました。
深谷:それがプロフィールにあるガードマン、ですか。
吉村:そうこうしてるときに、僕のおじさんが「堅樹、神父やらへんか?」って言い出したんです。
「神父ってそんな簡単になれんの?」「うん、半年くらい神学校行ったらなれる」「何すんの?」「結婚式」
神学校っていっても、結婚式のやり方を練習するんです。
2、3年やってましたね。すごく面白かったので、そのうちこういうことをネタに文章でも書こうかなあと思ってます(笑)
―――さらに吉村はいたずらっ子の笑みを浮かべた。
「僧侶とか神父って、あんまり怒られないんですよ。」
いたくうれしそうな口ぶりである。
「僧侶で神父」の真相は、吉村のいかつい風貌に似合わぬ行き当たりばったり人生の産物。
そのさすらいの旅は、イシスに入門したあとも同様だった。
[ISIS for NEXT20]#2 林頭吉村堅樹の志向力
[序] (2020/1/2公開)
[起]「僧侶で神父」の真相は (2020/1/3公開)
[承]風吹けば吉村はためくイシス空 (2020/1/4公開)
[転]新規事業はドブネズミのごとく (2020/1/5公開)
[結]全編集は志に向かえ (2020/1/6公開)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。
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