「発想力」を伸ばしたい。
柔軟な「思考力」を手に入れたい――。
そんな願いをもつ人たちが集まるのが、イシス編集学校です。編集とはモノの見方を変えること。開校から22年、延べ3万人の受講者は、みなさんユニークな見方を手に入れて巣立っていきました。
今日は受講生のなかでも、世の中すべてを「寄付」というフィルターを通して見る、世にも珍しい”寄付人”の編集術をご紹介しましょう。
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聞き手:エディスト編集部
イシスの推しメン3人目 プロフィール
山田泰久さん
一般財団法人非営利組織評価センター 業務執行理事。2014年、基本コース34期[守]に入門。編集によって自由は勝ち取れるとの信念のもと、2016年、37[守]・38[破]にて「あげあげリバティ教室」というご機嫌な名前で師範代デビュー。Facebookの友だちは5000人。SNSでは毎日「寄付カレンダー」などユニークな発信を続けるイシスきってのインフルエンサー。
■ 寄付ダイエットに寄付カレンダー
勧進帳は「日本最大の募金詐欺」?!
――わ、山田さん、ずいぶんスリムになられましたね! 記事のカバー写真とは別人のようです。
そうなんですよ〜、30キロ痩せました。6年前は105キロ。コロナ禍になって、歩いて通勤したり、外食を控えたりしていたら健康的に体重が減ったんです。あと「寄付ダイエット」ってのが効きました。
――え、寄付ダイエット?
仕事の帰りにコンビニ寄って、ついついデザート買っちゃうことってあるじゃないですか。コンビニに行こうと思ったときに、「いや、この分の数百円は寄付しよう」とぐっとこらえて、ある程度貯まったら知っているNPOに寄付すると決めたんですよ。そうしたら自然と甘いものも買わなくなったんです。寄付もできるし、痩せるし一石二鳥です。
――ええと、山田さんのTwitterを拝見したら、今日は「8月25日はチキンラーメン誕生の日」「日清食品は、チキンラーメン1食0.2円、チキンラーメンどんぶり1食0.34円を寄付」と投稿していらっしゃいますね。「今日は何の日」を寄付にからめて、毎日投稿しておられるんですね。あの、山田さんはいったいどんなお仕事を?
非営利組織評価センター(JCNE)という団体で、NPOの組織評価をしています。日本財団に就職して25年以上、NPO団体を支援する仕事をしているんです。
――なるほど、だから寄付のことをいつも考えておられるんですね。
TwitterやFacebookで投稿していたのは、僕が趣味も兼ねて作っている「寄付カレンダー」です。毎日、何かの記念日ですよね。毎日なにかしらの関連団体に寄付できるように、365日分の情報を集めているんです。
――寄付ダイエットに、寄付カレンダー……
まだありますよ。以前は、自分の所属する組織のブログで「ファンドレイジングスーパースター列伝」というのを2年間連載していました。多くの寄付を集めた偉人たちを毎日紹介するもので、2年で500人分ほど調べましたかね。
――もはや、寄付業界の千夜千冊のようですね。
そうなんですよ、まさに、松岡正剛校長を真似ようと思ってやっているんです。編集学校で情報収集の方法を習ったから、これができるのだと思います。なんでも「寄付」というフィルターを通してみると、世界の見方が変わるんですよ。たとえば歌舞伎の演目で「勧進帳」ってありますよね。あれは、何も書いていない勧進帳を読み上げて、さも東大寺再建のための寄付を集めようとするもの。僕から言わせれば、日本最大の募金詐欺事件です。
■ 編集は「文章を書くだけ」じゃない!
インプットもアウトプットも
――山田さんは、貴婦人ならぬ”寄付人”ですね。そこまでNPO支援のお仕事に没頭しておられる山田さんが、なぜ編集学校に入門されたんですか。
NPO法人って、発信力が必要なんです。たとえばシングルマザーの支援を行っている団体であれば、当事者の方に自分の団体を知ってもらう必要があるし、さらには支援者の方にも情報発信しないと活動が立ち行かない。助成金を得るための申請書を書く文章力も必要。でも、活動の紹介ってなかなか難しい。だから、イシス編集学校の「編集」というキーワードを聞いて、これは発信力強化に使えそうだなと感じたんです。
――実際、学んでみていかがでしたか。
想像以上の威力がありました。編集術って、文章を書くだけだと思っていたんですが、ぜんぜん違いました。アウトプットの方法だけじゃなくて、インプットの方法から一気通貫して学べて驚きました。NPOではつねに、当事者から、支援者からなど、視点を変えながら社会問題を見る必要があるんですが、物事を多面的に見る方法が身につきましたね。
――山田さんは基本コース[守]、応用コース[破]、編集コーチ養成コース[花伝所]を経て、師範代まで務めておられますが、その多面的なものの見方はいつごろ習得できたんですか?
[守]に入門して、2カ月ほどで感じましたね。イシスに入るまえは、師範代という先生と生徒の自分とマンツーマンの稽古を想像していたんですが、編集学校は教室に10名程度の仲間がいるんですよね。ぼくの教室には、主婦の方もいれば広告代理店で働いている方もいました。その人たちのそれぞれの回答を見ているだけで、多様な視点を得られました。人それぞれに人生があって、まったく視点が違うんだなということがありありとわかったんです。
――入門した教室は、リクルートワークス研究所所長の奥本英宏さんが師範代を務める多軸ピボット教室だったんですね。
奥本師範代には、ほんとうにお世話になりました。たとえば、[守]では「珈琲・紅茶」など一対の言葉に対して、「午前の珈琲・午後の紅茶」など形容詞をつけて対句をつくるミメロギアというお題があるのですが、そのミメロギアってひとつのお題に対して、自分でもいくつも回答を出すし、教室の仲間もたくさんの回答を出すんです。その回答のバリエーションを見ているだけでも勉強になるのに、それに対して奥本師範代がさらにさまざまな角度から指南をくださるんです。言葉の球種がたくさんあることを教わりました。
――まさに「多軸」な見方を学んだんですね!
■ メールのやりとりも、社会の変革も
編集術が役に立つ
あとは編集コーチ養成講座[花伝所]の学びも、仕事に直結しました。メールの書き方が明らかにうまくなりましたね。
――といいますと?
花伝所では相手の言葉を「受け止める」ということをまず教わりました。その人がなぜこういう思考に至ったのか、なぜその見方をするのか、コミュニケーションの方法を深く学ぶんです。
――編集コーチたる「師範代』の基本スキルですね。
それが身につくと、たとえば仕事で「寄付集めについてどんな方法があるのか知りたい」というメール相談を受けたとき、「この人はどれくらいの知識をもっているんだろう?」「この人は何をいちばん求めているんだろう?」など相手の状態を察して、お返事ができるようになったんですね。
それ以前は、相手の言うことを受け止めるという意識がなくて誤解が生じることもありましたが、編集学校で学んでからは顔の見えない相手とメールベースでのやりとりでも格段にスムーズになりました。
――イシスでのコーチングスタイルを身につけると、コミュニケーションの方法が変わるのはよくわかります。山田さんは、SNSを使って不特定多数に発信することも多いと思いますが、そのやり方も洗練されたのではないでしょうか。
変わりましたね! 週に3日、NPO団体向けにセミナーを開催していた時期があるのですが、その告知文を作るときにはつねに編集術を意識していました。たとえば、セミナーのタイトルがキャッチーじゃないと興味を得られない。そのためには、編集思考素やネーミング編集術など基本コース[守]で学んだ方法を活用していました。記事本文を書くときは、文節を意識するようになりましたね。[守]では、センテンスを分解して並び替えることで意味を変えてしまうという「バナナと魯山人」というお題があるのですが、そのお題を意識することで伝わりやすい文章が書けるようになった気がしています。
――個々の仕事にも編集術を大いに役立てておられるんですね。NPO活動全体に対して、編集術を活かす場面ってありますか。
NPOの活動は、かなり編集に近いと思います。というのは、NPOの役割は、社会のなかで困っている人と応援したい人をつなぐ仲介者なんですね。それはこれまで行政が担ってきたものだけれど、いまやNPOの責任が増してます。甲子園で「青春ってすごく密」とスピーチした仙台育英高校の監督ではありませんが、NPOも密なんです。人と人とが寄り添う活動だから。それがコロナ禍で形が変わってきました。だからこそ、言葉を使って発信したりすることの重要性も増しているんです。
――編集術を使えば、社会の仕組みさえも編集できるということを確信しておられるんですね。この山田さんの編集力は、エディスト編集部も見逃せません。そのうち、遊刊エディスト紙上でNPO×編集という特別コラムが読める日がくるかもしれません。
アイキャッチ:富田七海
記事中写真:エディスト編集部
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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