松岡校長は”黒板派”だ。
子供のころ、先生がチョークの粉をツツツーと滑らせ、漆黒から自在に文字や図を浮かび上がらせていくのを見て、うっとりしていたという。連塾やAIDAや伝習座の講義では、2〜3枚の黒板に次々に動かし、裏表を返して行ったり来たりして、黒板をとびきりのトーキングメディアとして話をされてきた。黒板派の大先達は、校長も影響を受けたという、神智と人智をむすぶ数々の黒板絵を遺したルドルフ・シュタイナーだ。
近畿大学でも、学生図書館サポーターが、黒板派になる。
近畿大学ビブリオシアターは、1階NOAH33と2階DONDENの合計65の書棚で構成され、大中小の黒板が備え付けられている。黒板にどのような世界を出現させるかは自由だが、基本ルールを設定している。①各棚から1冊の本を選ぶ、②1冊の本を紹介するためのメッセージを編集してイメージと共にチョークで描く、③DONDENの黒板は漫画のコマを模写してみよう、④シュタイナーや松岡校長のように、誰もが真っ黒い宇宙の中に生み落とされた子供であり、当初の記憶と歴史的現在に立ち、無地の黒から世界を出現させる黒板派であれ、というものだ。
本を読み、メッセージを編集し、本棚黒板というメディアで世界を現すプロセスでは、もちろん編集術を駆使してもらう。黒板派は、同時に編集族でもある。本の要素・機能・属性を取りだし、キーワード・ホットワード・ニューワードとキーセンテンスを引きだし、いじりみよで見方を差しだす。
人の表情を描くのが得意だったり、文字デザインがうまかったり、ミメロギア型メッセージの編集に苦戦したり。学生の黒板編集プロセスは、すこぶる個人差が出て面白い。それぞれの方法や向き不向きや意外なこだわりも見えてくる。
ぜひ、ビブリオシアターを訪れたら、黒板にも注目してほしい。
[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//
橋本英人
函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。
かつて校長は、「”始末”とは、終わりのことですが、エンディングとビギニングは一緒だということ。歌舞伎役者が最後に舞いたい踊りは、自分を目覚めさせる踊りかもしれないわけで、終わりのメッセージとは、何か始まりを感じさせるもの […]
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