「連句」は、個人というものが(絶対なるものではなく)前後の関係で変化するものだということを、方法化した文芸である。間庵・庵主の田中優子さんは、以下の句を例として、そのように<連>や「連句」のあり方を紹介されたことがある。
苔ながら花に並ぶる手水鉢 芭蕉
ひとり直りし今朝の腹立ち 去来
たとえば、この芭蕉と去来の句からは、手水鉢に花かと見まがうきれいな苔が見えて「きれいだ」と思っているうちに、腹立ちがおさまってきた、という物語になる。
苔ながら花に並ぶる手水鉢 芭蕉
ひとり直りし今朝の腹立ち 去来
いちどきに二日の物も食うて置き 凡兆
ところが、このように凡兆の句がその後につづくと、腹立ちがおさまった理由が、苔の美しさではなく、大食いのせいであることになる。
連句は、まず五・七・五の発句(後に俳句になる)があり、ほかの人が連想して七・七の脇句を第2句としてつづける。そこに別の人が五・七・五の第3句をつづけ、合計36句連なるのが定型だが、長いものでは100句までになる。参加する人は連衆、メモを取る人が執筆、リーダーは宗匠と呼ばれる。宗匠はイシスの師範代さながら、それぞれの個性を見出して活かす世話役をつとめる。場にお題を投げかける。(突破された方は、連句を[遊]風韻講座で遊ばれたい)
田中優子さんは、<連>の特質として、世話役はいるがリーダーはいない、常に何かを創造している、存続を目的としない、個人がたくさんの名前をもつなど、以下の10個を挙げている。人と同じにはならないけれど、人と無関係にはならない。大集団は組まないけれど、個々のつながりは大事にする。江戸の日本人は、そういう場に、自由というものを発見した。
<連>の特質
① 適正規模を保っている。
② 宗匠(世話役)はいるが強力なリーダーはいない。
③ 金銭がかかわらない。
④ 常に何かを創造している。
⑤ 人や他のグループに開かれている。
⑥ 多様で豊かな情報を受け取っている。
⑦ 存続を目的としない。
⑧ 人に同一化せず、人と無関係にもならない。
⑨ 様々な年齢、性、階層、職業が混じっている。
⑩ 多名である。個人のなかの複数のわたし。
EEL便#002でご紹介した、丸善雄松堂と編集工学研究所の新本棚サービスを、「ほんのれん」という名称にした。<連>のあり方に肖った。
「今考えたい問い」と「今こそ読みたい本」を毎月お届けするものだが、対話によって一人ひとりのさまざまな見方や能力(仕事にすぐには役に立ちそうもないもの、も大事にしたい)が見いだされ、組み合わされることを目指す。
コロナ禍で、人が集まる理由が問いなおされている。「ほんのれん」は、問いと本がきっかけとなって、人と人が集い創発する知を、企業のオフィス内や地域のコミュニティスペースやイノベーションハブに育んでいきたい。サービスのリリースは、2023年1月を予定している。
[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//
橋本英人
函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。
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