多読ジム出版社コラボ企画第二弾は工作舎! お題本はメーテルリンク『ガラス蜘蛛』、福井栄一『蟲虫双紙』、桃山鈴子『わたしはイモムシ』。佐藤裕子、高宮光江、中原洋子、畑本浩伸、佐藤健太郎、浦澤美穂、大沼友紀、小路千広、松井路代が、お題本をキーブックに、三冊の本をつないでエッセイを書く「三冊筋プレス」に挑戦する。優秀賞の賞品『遊1001 相似律』はいったい誰が手にするのか…。
SUMMARY
イモムシは鳴かない、と思っていたら間違いでした。ウスタビガの幼虫は、気門から「キューキュー」と鳥の鳴き声のような声を発します。
画集『わたしはイモムシ』にもウスタビガの幼虫は登場します。亡骸をいれた器をあけると、生前すごした桜の葉の香りが霧散していたエピソードです。
絵本『Du Iz Tak?』は、たくさんの昆虫たちが昆虫語で会話しています。イモムシも本の最初に登場して「TaTa!」と鳴いて、サナギになってしまいます。本の最後でも別のイモムシが登場して「Ta Ta!」と鳴きます。……「Ta Ta!」ってどういう意味?
詩集『声のために』は全篇ロシア語で、読めない私は鳴くことができません。でも大丈夫。文字に興味を持ってもらうため、芸術家がタイポグラフィにして踊らせました。さらに、すぐに詩が読めるように、まるでイモムシの脚のような索引をページ横につけました。
本は、昆虫の類縁の多足類です。
【虫の声 … 香りを愛でる】
桃山鈴子さんの『わたしはイモムシ』は蝶と蛾の幼虫を無数の点で描いた画集です。桃山さんはイモムシではありません。でも、桃山さんはイモムシとコミュニケーションをとる手段として、イモムシを体躯の隅々まで読み取り、紙の上に体をひらいた展開図を克明に描きます。
イモムシは何も語らないし鳴かない。私はそう思い込んでいたのですが、ウスタビガの幼虫は、呼吸する気門で「キューキュー」と鳴きます。画集にはウスタビガの姿とエピソードが記されています。
桜の枝で暮らしたウスタビガの幼虫が死んだ話でした。お亡くなりの幼虫をシャーレに入れて、2日後に再び開けると、まるで亡骸の細胞すべてがほどけて桜餅の香りになってしまったかのように、満開にひろがっていったそうです。ウスタビガは鳴く代わりに「香りの断末魔」を点てたのでした。
【声の虫たち … 花を愛でる】
「Du Iz Tak?」。日本語にすると「なずず このっぺ?」です。どちらも昆虫語です。人間の言葉に翻訳すると「What is this? 」。日本語で「何 これ?」です。
絵本作家のCarson Ellisさんは、昆虫たちが一本の花の生涯を見届ける『Du Iz Tak?』をかきました。アーサー・ビナードさんが和訳した『なずず このっぺ?』(フレーベル館)も出版されています。
大輪の花が咲いたとき「Unk gladdenboot!(ルンバボン!)」と昆虫たちは口々に喝采します。2匹の虫をのぞいて。その一匹は大蜘蛛で、まだつぼみの花によじ登り占拠しました。まわりの昆虫たちは不平不満を漏らすしかありません。が、まもなく大きな鳥が大蜘蛛をさらってしまい……それきりとなりました。
もう一匹は、イモムシです。まだ芽吹いたばかりの頃に登場します。「Ta Ta!(じゃじゃこん!)」と挨拶すると、もうサナギになってしまいます。花が咲いたときもサナギです。羽化した時、すでに花は枯れきっていました。コオロギがバイオリンを奏でる月夜、蝶は舞い踊ります。夢幻能のシテとして「Unk gladdenboot!(ルンバボン!)」の時分を再現するように。
蝶は、幼虫の頃にきっと世阿弥の『風姿花伝』をむさぼり味わったに違いありません。
【本の声 … 字を愛でる】
私は昆虫の言葉はわかりません。かといって、人間の言葉が全てわかるわけではありません。例えば、ロシア語の前では、鳴かないイモムシ毛虫になってしまいます。
ソ連を代表する詩人ヴラジーミル・マヤコフスキーの詩集『声について』は日本語に訳さずロシア語のまま、1923年出版時そのままの復刻版です。この詩集を装丁したのは、ロシア未来派の代表する芸術家エル・リシツキー。この本は、彼のタイポグラフィ作品でもあるのです。
1917年ロシア革命後、ソビエト連邦はロシア語の識字率が高くない民衆に、政策や改革思想を広く伝えるため、出版や広告に力を入れました。その発信力として活動したのがマヤコフスキーでありリシツキーです。
シュプレマティズムの提唱者マレーヴィチの薫陶を受けたロシア構造主義の代表でもあるリシツキーは、鳴かない毛虫の1本1本の活字を踊らせる、タイポグラフィの詩人、ブックデザインのエンジニアとなりました。
この詩集はもう1つ、索引が特徴的です。ページの側面がシステム手帳のインデックスのようなタグの切込みがあり、1つ1つの詩篇を指で抑えてすぐ声に出せるようになっています。この索引……なんというか……本を横にすると、まるでイモムシの脚にみえるのです。
『わたしはイモムシ』の桃山さんがイモムシ好きになったきっかけは、幼虫を肌に這わせたときの、お腹からお尻にかけて生えている腹脚のピトピトピトな感触です。本もページをめくるときのパラパラパラな感触はたまりません。
本は、昆虫の類縁の多足類です。
【本の虫たち … 本を愛でる】
私が多読ジムに初めて参加して間もない頃、”多読ゼミ”と書き誤ったことがあります。指摘されて「新種の蝉かよっ」と自らツッコんでしまいましたが、……あれ? そんなに間違ってはいないのでは、と思い直しました。なにしろ多読ジムには、本のイモムシや本のサナギ、成虫の本の虫たちが集まっていますから。以上、その中の一匹の活動観察記録でした。Ta Ta!(じゃじゃこん!)
Info
⊕アイキャッチ画像⊕
∈『わたしはイモムシ』桃山鈴子/工作舎
∈『Du Iz Tak?』Carson Ellis/Walker Books
∈『声のために』ヴラジーミル・マヤコフスキー著 エル・リシツキー装丁/土曜社
⊕多読ジムSeason11・夏⊕
∈選本テーマ:版元コラボエディストチャレンジ
∈スタジオ♀ポート(増岡麻子冊師)
大沼友紀
編集的先達:マーティン・ガードナー。ミメコン(ミメロギアコンテスト)荒らしの常連から師範代へ。8年のブランクを経て多読ジムで復活。精神3級の発達障害者にしてMENSA会員。はまっていることはボードゲーム記事のライティング。北海道在住。
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