ジュリーの編集力からの律師砲―【88・89感門】準備こぼれ話

2025/09/02(火)15:30 img
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 感門準備の醍醐味は、手を動かし口も動かすことにあり。

 

 8月最後の土日、[守][破][花]指導陣の有志(感門団)で豪徳寺学林堂に集まって、一週間後に控えた感門之盟の下準備に入った。ペットボトル300本に感門特性ラベルを巻いたり、参加者全員分の名札を作成したり、ここではまだ公開できない秘密の品々を取り揃えたり……。いまの時代にはかえって珍しい手作業を楽しみながら、みんなで今期のあれやこれやを振り返る。師範同士でゆっくり話せるチャンスはそんなに多くないから、実は感門準備日は貴重な情報交換の機会であったりもする。

 

 そんな中、「暑いところ皆さんせっかく来てくれたので……」と言って、学林局・八田英子律師があるものを作業机に持ってきた。師範たちの目の前にドシッと置かれたのは、箱入りで真っピンクの超巨大な本。律師が敬愛してやまない「ジュリー」こと沢田研二の写真集『JULIE BY TAKEJI HAYAKAWA 早川タケジによる沢田研二』(SLOGAN)だ。自慢の本に律師もニコニコである。

 とはいえ、単なる趣味のお披露目タイムではない。八田律師曰く、非常に前衛的なものとして評価されてきた沢田研二の衣装やメイクやステージは、高倉健の映画ポスターやプレスリーのレコードジャケットをはじめとし、数々の歴史的なデザインをアルス・コンビナトリアした編集のお手本ともいうべきもの。『JULIE BY TAKEJI HAYAKAWA』(SLOGAN)は、ジュリーの衣装デザイナー&アートディレクターの早川タケジが、そんな編集の手の内を惜しみなく明かしてくれている太っ腹な写真集なのだ。ゆえに最近では、[守]師範代がつくる教室フライヤーのための事前レクチャーでも、この豪華本を重宝しているらしい。

 

 「男性がお化粧するというのは、当時としてはかなり斬新でしたよね」と、準備に来ていた[破]の原田淳子学匠もしみじみ。すかさず律師もわが意を得たりと言葉を重ねる。 

 

「そうなんです! そういうところも彼の編集的なところで、ジュリーはいっさい我を張らずに、やってほしいといわれたことを全部引き受けた。自分を空洞にして、人から編集されることを歓迎していたんですよね」 

 

 炸裂する八田節に一堂なるほど~と頷きながら、それを聞いて今度は[守]の紀平尚子師範が思い出す。

「私が[破]でお世話になった師範代が、ジュリーみたいなことをやってましたよ」 

 紀平学衆の担当師範代は、今をさかのぼること3年前、47[破]で万事セッケン教室を担った堀田幸義師範代。堀田師範代は感門前、お題が終わって退屈している学衆たちに、独自の番外お題を出したことで当時話題を呼んだ。お題の内容は《師範代の感門衣装編集》。「これを着てほしい!」「あれもつけてみてほしい!」と、学衆たちが自由気ままにコトアゲしてきたことを最大限反映した装いで、師範代が感門本番に臨むというものだった(結果、こんな姿に!)。堀田師範代のお題は、コロナ禍のオンライン感門でPC画面越しの学衆に参加感をもってもらうための工夫だったが、同時にそれは、おのれのこだわりを手放して他者からどんどん編集されにいくジュリー的なチャレンジでもあった。

 

 今回の感門でも、また新たな衣装の試みがあらわれるだろうか。ジュリーの魅力から歴代師範代の着替え編集にまで話題がおよび、感門本番へのワクワク感がいっそう増してきたところで、最後にチクリと、あの律師砲がとんできた。 

 

「師範のみなさんも感門衣装はがんばってきてくれるのだけど、できたら伝習座でも、もうちょっと装い編集をしてほしいんですよね……。とくに[守]の男性師範陣。伝習座や創守座もハレの日なんだから……」

 

 服装なんて勝手にしやがれ! とは言ってくれない。なんとも耳に痛い指摘である。師範ボード陣の遊撃的な衣装に対する期待感も高まりつつ、9月6日と20日、奇しくも “ウェア” を冠した感門之盟を迎えようとしている。

 

▲学林堂にある、早川タケジ作品集『JULIE BY TAKEJI HAYAKAWA 早川タケジによる沢田研二』(SLOGAN/2022年7月刊行/27500円)。弥勒のような中性的雰囲気を纏うジュリー。もっと中身が気になる人は、本楼へお越しの際に八田律師へお尋ねください。

 

アイキャッチ・本文写真撮影/八田英子

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