ロシアだってヨーロッパになりたい。「ウクライナ侵攻は、ロシアのアイデンティティが引き起こした問題です」大澤真幸氏は早口で畳み掛けた。3月23日夜、停電が心配されながらも東京豪徳寺・本楼から配信されたイベント「情報の歴史21を読む」でのワンシーンである。
大澤氏は古くからの情歴ユーザーであり、松岡正剛との同志。およ
大澤氏は「千年単位で歴史を見ることと、現代を考えることは直結する」と語る。人類の歴史のなかで繰り返される「文化的定数」を見つけ、歴史の本質を探るには、紀元前7000万年から2020年までを1冊にまとめたこの情歴こそが本領を発揮すると説明した。
ウクライナ侵攻から1ヶ月が経とうとするこの日は、「西洋」をテーマに講義が行われた。連日、世界中で報道されるこの戦争は、いったいなんのためのものなのか。大澤氏はロシアの気持ちを代弁してみせた。いわくこうである。
現代における近代化とは西洋化のことである。つまり、世界はみんなヨーロッパになりたがっている。ではロシアはヨーロッパなのだろうか。
ヨーロッパとは、地域のことを指すわけではない。近代化をもっとも果たした点で見れば、いまや、アメリカこそが真のヨーロッパである。では翻ってロシアを見てみればどうか。ロシアはヨーロッパであり、ヨーロッパでない。この両義性が問題なのだ。
ヨーロッパとはなにか。大澤氏は、「西側のキリスト教の雰囲気を
▲参加者は情歴をめくりながらレクチャーを聞いた。
大澤氏は、プーチン大統領が抱えるのは「ヨーロッパへの嫉妬」と
大澤氏は1364夜に取り上げられたイマニュエル・ウォーラース
▲『〈世界史〉の哲学 中世篇』のカバーは、キリストの脇腹がモチーフになっていると明かした大澤氏。
◇ ◇ ◇
その後、東西で立場が分かれる「フィリオクエ」に関する神学論争や、1052年の東西教会分裂について、そしてさらには中世の
大澤氏は言った。「1000年、2000年くらいでは、人間は変わりません。繰り返される出来事から、ことの本質が見えてきます」「間違っていてもいいので、仮説を立てることで自分なりに『情報の歴史』を読むことができます」
歴史のなかに型を見つける。そのためのツールとして、人類史を一気通貫する情歴がある。2022年のウクライナ紛争と1052年の東西教会の分裂とを重ねてみてみる。これが大澤氏の提唱した情歴の読み方だった。
▼大澤真幸氏に関するエディストはこちら
【次回予告】
ISIS FESTA「『情歴21』を読む」第3弾は、4月10日(日)
ゲストは感門での祝辞も記憶に新しい田中優子氏だ。本楼参加も可。この機会を見逃すな。
撮影:上杉公志(本楼)、梅澤奈央(情歴紙面)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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