深谷もと佳は飛び起きた。深夜3時19分、所長田中晶子が36[花]ラボに現れたのだ。入伝生・師範全員に、この時間に通達するなどただごとではない。リンク先を開いた深谷は、予想外の事態に身体の震えが止まらなくなった。「これは、まるで『週刊花目付』についての千夜じゃないか」 第1787夜のことである。
数日前から、千夜千冊編集部は口をつぐんでいた。次回の千夜を尋ねると、ある者はタバコを悠然と吸いはじめ、ある者は突然用事を思い出した。イシスの師範を千夜するというかつてない試みは、当の本人・深谷にさえ一切知らされることのなかった、松岡正剛からの唐突な贈り物であった。
翌朝、もうひとりの花目付 林朝恵がはしゃいでいた。「千夜事件:モトカ・ケイパビリティ」と題し、「FMサスーン教室のFMは、Fukaya Motokaでもあるし、Fukaya & Matsuokaではないか」と浮かれる。校長の散髪シーンも動画で収めた林は、深谷と36[守]師範代同期であり、39[守]で初師範を担当した戦友である。深谷とともに式目レクチャーを行った師範中村麻人は「『複問・複感・複応・複答・複返』『半開複々環構造』などのキーワードが、花の秘をひらいていきそう」と花伝所の奥義への手がかりに食いついた。今期36[花]は、5Mのうちの4番目、M4:Mangamentの急坂にさしかかっている。田中は今こそ入伝生に読んでもらいたいと『ネガティブ・ケイパビリティ』を読み返し、「ハンカイフクフクカンコーゾーの36花」とほくそ笑む。
さまざまな祝砲が鳴るなか、深谷は昼すぎに姿を見せた。深谷が「ネガティブ・ケイパビリティ」なる言葉と出会ったのは、今から3年まえ、花伝師範2期目となる31[花]のころだった。花伝式目M2:Modeでは、師範代の基本モードとしての《受容》を徹底して学ぶ。深谷は、相互編集の土壌となる《受容》についての理解を深めるべく、臨床心理系の知見を渉猟していたという。アメリカの臨床心理学者のカール・ロジャーズや、身体知の専門家である諏訪正樹の論考を読むうちに目に留まったのがこのワードだった。そして帚木蓬生の著作を経由し、ジョン・キーツに着地。
詩人はアイデンティティをもとめながらも至らず、
代わりに何か他の物体を満たす
深谷は千夜にも引かれたこのフレーズに、ネガティブ・ケイパビリティの概念が昇華されていると語る。これは世阿弥の思想にも通ずると読み、33[花]での式目改編に大きく反映されることとなった。とくに現行のM2-1解説、M2-2解説にその痕跡は色濃い。
美容師深谷のアトリエは、小田原城の堀から徒歩30秒の一角にある。謙信・信玄の攻略をも拒んだ難攻不落の小田原城、その白い天守閣を望んで深谷はつぶやく。「あの千夜は、『花伝所』『花伝式目』、ひいては『未だ見ぬNEXT ISIS』への千夜だと思います」
イシスが編集工学2.0を担うために。松岡からのサプライズは、DANZEN ISISへの着火剤となった。
※深谷もと佳をもっと知るなら
記事一覧:https://edist.isis.ne.jp/author/fukaya/
●千夜千冊にも取り上げられた人気連載「週刊花目付」
最新#23では、自身のアトリエから動画メッセージも届ける。
●エディスト初の音声コンテンツ「ラジオエディスト」
企画・インタビュー・ナレーション・編集、ジングルの音声まで深谷が手掛け、イシスの次なる20年を”志向”。
●花伝所のレクチャーを特別公開
●「ジャイアン」の名付け親であり、唯一のライバルとして
●1787夜でのレクチャー内容はこちらから
●エディスト公開当初から連載された、ヘアデザインの現場での編集問答
アイキャッチ画像は千夜千冊第1787夜『ネガティブ・ケイパビリティ』より。(撮影:後藤由加里)
深谷は、自分の理想のワークスタイルは「鶴の恩返し」の鶴であり、なるべく人前で見せたくはないとためらった。掲載写真は「私のワークスタイルがありありと切り取られている」とコメント。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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