【53破開講迫る】出世魚師範代10名の1か月

2024/10/11(金)20:16 img
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[守]の師範代から[破]の師範代へ! 新たな教室名を、宇川直宏さん制作の浮遊感あふれる映像とともに贈られた53[破]の師範代たち。あの感門之盟番期同門祭から、はや4週間だ。この1か月は、いつもの10倍以上の濃さだったことだろう。課題本読書、いくつもの宿題、伝習座、突破講、錬破、とてんこ盛りのお題を次々とこなす…のではなく、しっかと手に取り、口に入れ味わって、肚落ちした後、振り返るような学びを連日連夜繰り返してきた。

感門之盟での上原悦子師範代(アガサ・フィーカ教室)の発表シーン。フィーカは「どうしてもみんなとお茶したい!気分」をあらわすスウェーデン語。

 

◆「セイゴオ知文術」課題本が一新!
53[破]、最大のチャレンジは、開講1か月目の重要お題「セイゴオ知文術」の課題本が一新されたことだ。ISIS co-missionメンバーが選んだ本、そして[破]ボードが選んだ本と松岡校長の著作、あわせて12冊のなかから学衆は1冊を選んで、ミニ千夜千冊を書く。学衆がどれを選んでも応じられるよう、師範代は読まねばならぬ。ならばみんなで読んだ方がいい。

53[破]のラウンジでは、「ハン・ガンを読んだことあります」と青井隼人師範代(ラップ多義る教室)が登場し、「気になった本を買ってみました」と菅原誠一師範代(なんでもデコトラ教室)が続いた。本を手に入れた、ちょっと読んでみた、一読しました…が少しずつ届く。それに応じるのは岡村豊彦評匠。5万枚もの音楽CDを保有し、もちろん本にも、映画にも没入してきた目利きである。「読んでみた」を報告する師範代たちにとって、応じてくれる評匠の言葉も憧れのモデルとなったであろう。

 

<セイゴオ知文術・課題本一覧>

津田一郎さん:『精神指導の規則』ルネ・デカルト、岩波文庫
宇川直宏さん:『音楽が未来を連れてくる』榎本幹朗 DU BOOKS
鈴木健さん :『知恵の樹』H・マトゥラーナ、F・バレーラ ちくま学芸文庫
今福龍太さん:『続審問』J.L.ボルヘス 岩波文庫
田中優子学長:『苦海浄土』石牟礼道子、講談社文庫
井上麻矢さん:『表裏源内蛙合戦』井上ひさし、新潮文庫(井上ひさし全芝居にも収録)
武邑光裕さん:『仕事としての学問 仕事としての政治』マックス・ウェーバー、講談社学術文庫
大澤真幸さん:『自我の起原』真木悠介、岩波現代文庫
鈴木康代さん:『エストニア紀行 森の苔・庭の木漏れ日・海の葦』梨木香歩、新潮文庫
松岡校長本 :『ルナティックス』中公文庫
破ボード選定:『ビリジアン』柴崎友香 河出文庫
破ボード選定:『すべての、白いものたちの』ハン・ガン 河出文庫

 

と、この記事を書いている最中に、ハン・ガン氏がノーベル文学賞受賞!のニュースが飛び込んできた。なんだかを53[破]を応援されている気持ちになる。

 

◆伝習座 物語編集工学序説 
伝習座にむけて、津田一郎さんと松岡校長の対談本『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』を読み、校長の講義映像「ミメシス・イシス」を視聴する。9月28日の伝習座では、本楼とオンラインをまたがる時空間で、津田一郎さんの講義を受け、カオスから物語が生まれるということを考えた。ついで「まねる」ことであるミメーシスの語源から、編集稽古にあらわれるミメーシス的なあれこれまで、意味を深化、拡張させた。引用する言葉を選ぶことも、誰かのモードを本気でマネたら行動まで変わってしまうこともミメーシスなのか。

津田一郎先生、田中優子学長と膝詰めで語り合う[守][破]の師範、師範代たち。

 

 

◆翌日に突破講
翌9月29日は、イシス初の「突破講」だった。いままでの伝習座のうち[破]のお題や指南についての実践的なレクチャーやワークショップの部分を、オンラインで行った。学衆は突破を目指すが、師範代は最初に突破してしまうという意図でのネーミングだ。
白川雅敏番匠から「破の指南は、学衆のなかに蟠っている<本来>を見い出してゆくこと」とカマエを示され、戸田由香番匠から文体編集術における具体的な<本来>の見い出し方のバリエーションを渡された。

 

師範代には宿題がいくつも出されていた。その一つがクロニクル編集術の理解のために、自分史グラフィック「全然アートなわたし」を制作すること。本職のデザイナー・野嶋真帆評匠と、16[離]で数々のグラフィックお題に取り組んだ得原藍師範から講評をもらう。自分史を将棋盤に載せた奥富宏幸師範代(潮目ディナジー教室)、サーカスに準えた新井隆子師範代(触発ボタニカル教室)、ホルンと本に託した土田実季師範代(イメージ・チューナー教室)。自分らしさを発見し、なにかに乗り換えてゆく方法をつかんでいる。

 

師範代と[破]の師範ボード総勢22名。2日つづきの研鑽後、この笑顔。

 

◆これが師範代のイニシエーション
そしてそこからが師範代になるためのイニシエーション本編なのだ! 息つく間もなく突破講後の深夜から<錬破>が始まった。師範代のリハーサルは、出題→回答→指南を実際にやってみることである。師範が送った回答に24時間以内に指南する。初めての[破]の指南だ。当然、時間がかかるし、迷いもある。これを7日間つづける。指南には師範からコメントや指導がつくし、指南事例をみながら研究もする。仕事や家庭のロールもあるなかで、新たな師範代ロールをふやすのは大変だが、いわば師範代の稽古としてこれだけの集中があってこそ、イシスの師範代は、なんでも編集し、なんでも指南できるようになってゆく。

 

いま、1週間の錬破を終えて、53[破]師範代は、清々しく開講準備をすすめている。1週間前は、他人の文章を指南することに恐れや迷いを隠せなかったけれど、今はちがう。学衆の書いたものを、よき読み手として読み、ともに編集する仲間として指南することに、畏れつつもたしかな喜びを感じているはずだ。

 

「破」は何かを破ることによって、その奥に蟠っていた本来がガバッと顕在してくる動向を示していた。

 ―― 千夜千冊1252夜『守破離の思想』

 

出世魚師範代たちは、感門之盟からの1か月で見事に破った。困難に立ち向かうというよりは、出遊するように破っていった。
53[破]学衆のみなさん、この師範代たちとともに次の編集の旅へ出よう!

  • 原田淳子

    編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。