全然アートを追い求めて 50[破]アート咲かす展レポート

2023/09/15(金)12:02
img

 突破後、なのに50[破]が熱い。感門之盟を1週間後に控えた9月9日、20人のアーティストがオンライン上に集った。クロニクル編集術の番外稽古「全然アートなわたし」の“回答”を持ち寄り、教室を越えて集う企画「アート咲かす展」でのことである。記録づくしの50[破]、前期のおよそ2倍の20名がエントリーに名を連ねた。

 

 自分史をビジュアル化して一枚に図示するこのお題は、クロニクル編集術のグラフィック版。題目は、「年表」から「グラフィック」にメディアを乗り換えたときのメッセージの変化を堪能すること。加えて、言葉では表しきれないエディティング・セルフを表象していくことである。

 

 エントリー学衆は、キーイヤーを中心としたグラフィックの特徴を発表していく。次に、師範の白川雅敏戸田由香華岡晃生から対話形式で指南を受ける。肖ったモチーフや構図、ツール使いなどの一つ一つの方法に着目しながら、自分史に迫っていく。その後、グラフィックデザイナーの野嶋真帆番匠から、講評が手渡され、それぞれの作品を象徴する方法にちなんだサーカスの技を伝授された。

 

裏話:白川師範が事前にサーカスの技名を列挙して、野嶋番匠がサーカス技と作品の方法を照合していく連携プレイ。

 

01)土居哲郎(胸にピアソラ教室)   クイックチェンジ(早着替え)
02)近藤成直(モモはしる教室)   イリュージョン(マジック)
03)齋藤渉(境域ビオトープ教室)  綱渡り
04)T. D(異郷エンシオス教室)   オートバイショー
05)石黒弘晃(柑橘パイディア教室) 火の輪くぐり
06)吉澤真由美(外骨マガジン教室) 猛獣使い
07)S. N (さやさやドローン教室)  エアリアルフープ(空中演舞)
08)今井早智(胸にピアソラ教室)  曲芸(アクロバット)
09)高橋さやか(体内止観教室)   フラフープ
10)黒田領太(モーラ三千大千教室) ファイヤーイーティング
11)小宮京子(柑橘パイディア教室) ナイフ投げ
12)菅井明子(外骨マガジン教室)  シーソー
13)細井あや(柑橘パイディア教室) 人間ピラミッド
14)廣田雅子(胸にピアソラ教室)  コントーション(軟体芸)
15)千葉聡子(境域ビオトープ教室) ハイボウル(一輪車)
16)名部惇(柑橘パイディア教室)  ジャグリング
17)笠井貴代(決戦アイドル教室)  動物芸
18)青井隼人(ダルマ・マントラ教室)ジキト(馬乗り曲芸)
19)山口奈那(異郷エンシオス教室) 道化芸
20)菅野文恵(境域ビオトープ教室) 空中ブランコ


(エントリー順、敬称略)

 

 50[守]ではミネルバ・ロードス教室の師範代として活躍し、50[破]ではモーラ三千大千教室学衆の黒田領太は手書きと写真を組み合わせて作品を書いた。五鈷杵、十字架の際どいアイコンをグラフィックに溶かしこみ、中心に描かれた立ち上がる火のような象形からファイヤーイーティングの技を授けられた。火を噴くミネルバとしての今後の活躍が期待される。


 胸にピアソラ教室学衆の廣田雅子は、夫と出会った1998年のキーイヤーをトコトン際立たせる作品を仕上げた。「もし、ヒロタという人がいなかったら」とIf/Thenの型を使って、「音楽・仲間・旅行」を結びつけていく。事実が先立ち、多方面に歴象が伸びていくしなやかな分節力にコントーション(軟体芸)の技が贈られた。

 

 全作品を講評した野嶋番匠は「20通りの技をつけるというのは白川師範からの案。ムチャぶりだと思いつつできたのは、20作品それぞれ編集の技が際立っていたから。前回の企画では、参加した学衆の9割が花伝所にいった実績がある。皆さんからも師範代になる底力を感じた」と会を締めくくった。

 

 「アート咲かす展」では、優秀な作品には賞が贈られた。中国書画の評価する「神品・妙品・能品」の3つ品格に肖って、作品賞は「神芸賞・妙芸賞・能芸賞」と名付けられる。その他にも、抜きん出た方法を評価された作品には逸芸賞が贈られた。

 

◆神芸賞:細井あや(柑橘パイディア教室)


◆能芸賞;今井早智(胸にピアソラ教室)

 

◆妙芸賞:山口奈那(異郷エンシオス教室)

 

◆逸芸賞:近藤成直(モモはしる教室)
     青井隼人(ダルマ・マントラ教室)
     高橋さやか(体内止観教室)

 

 自分史の歴象データよりも、グラフィックに落とし込んでいく方法にこそ、らしさが表れていく。


 神芸賞を受賞した柑橘パイディア教室学衆の細井は、全然アートを創作する過程で「事件が起こせなかった人生だった」と語る。「事件を起こすには、破で取り組んできた世界の見え方を変える相互編集が肝要だと気がついた。文字から“グラフィック”に着替えて自分史を、もう一度取り組んだからこそ再認識できたのではないか」と振り返った。


 このお題は、48[破]で番外稽古として始まり、49[破]からは師範代も開講前の第一回目の伝習座に取り組むことになっている。 [破]にとどまらず、イシス編集学校の新たな文化が刻まれていく瞬間だ。


◆神芸賞:細井あや

 地層を見立てとして、地に埋められているのはタイムカプセル。今更掘り出したくない、胸の奥がむず痒くなるような切ない気持ちが表されている。

 


★1999―2007年

 

 仕事に追われた1999―2007年。凝集された地層が描かれる。商品として販売
していたお皿が積まれ、地層になっている。

 


★2011年

 帰宅難民になった東日本大震災。

 

 

★2023年

 イシスを象る月の下で舞う女性。サウンド・オブ・ミュージックのオマージュ。


  • 華岡晃生

    編集的先達:張仲景。研修医時代、講座費用を捻出できず、ローンを組んで花伝所入門。師範代、離を経て、[破]師範に。金沢のエディットドクターKとして、西洋医学のみならず漢方にも造詣が深い。趣味は伝建地区巡り。