「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。

太田香保総匠ほど黒の似合う人はいない。
感門之盟の初日、井寸房に飾られた千夜千冊エディションの字紋を背景に、太田総匠は、全国で展開中のエディション20冊突破記念フェアの真意を静かに語り始める。そもそもこのブックフェアは、4月末に二度目の肺がん手術を受けた松岡校長がぜひ元気になって、これからも書き続け、編集し続けてほしいという願いを込めて、立ち上げたのだという。その想いを受け取り、編集学校の門をくぐった全国のイシス人が、地元の書店フェアに世話人として駆けつけ、校長本との共読を誘う断然ダントツなディスプレイを次々と生み出したのだ。
フェアの模様を、林朝恵師範の制作した映像で紹介した総匠は、その中に一瞬映っていた小布施の古書店スワロー亭へと、中継を繋げる。とっぷりと暮れた空の下、温かく灯る店の前に立つのは、店主の奥田亮さん。カメラを回すのは、編集学校で知り合い「イシス婚」した妻の中島敏子さんだ。
店内には千夜千冊エディションの一冊一冊が、宝石のように並べられている。そのそばにある、校長の著書をはじめとする関連図書の古書の並びも美しい。スワロー亭オリジナルのフェアのチラシも見える。目玉は、小布施での校長の貴重な講演録。全巻まとめて買う人への心づくしのプレゼントだ。
豪徳寺にカメラが戻ると、意外な出来事を総匠は告げる。新しい読者層を広げていったフェアだが、いちばん売れたのは、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』だったのだ。エディション『本から本へ』に収められているこの物語では、本も人も燃やされていく炎のディストピアが描かれ、最後には、それぞれ一冊の本をマスターして本の人となった少数の語り部が登場する。「イシス編集学校はそもそも本の人たちの集い」だと、総匠はこの偶然を読み解く。イシスの指導陣たちは、校長の描いてきた読書世界や編集的世界をマスターできるよう、本との接点を、心を砕いてつくってきた。とりわけ太田総匠と火元組の率いる離は、校長の書き下ろした文巻を丸呑みする講座だ。今期の14離は千夜エディションを全面的に取り込み、カリキュラムを改訂した。「卒門、突破した人たちにも、ぜひ『本の人たち』のように、人類が築き上げてきた知の営みを担う人となるべく、離を受講していただきたい」。総匠の切実なメッセージが、井寸房に沁みわたった。
小布施のスワロー亭は、エディションフェアを9月末まで続ける。古書店の窓から漏れていたオレンジ色の灯りは、校長の編集的世界観という火種を大切に守り続ける熾火のように、今夜も温かな光を放っている。
写真:後藤由加里
丸洋子
編集的先達:ゲオルク・ジンメル。鳥たちの水浴びの音で目覚める。午後にはお庭で英国紅茶と手焼きのクッキー。その品の良さから、誰もが丸さんの子どもになりたいという憧れの存在。主婦のかたわら、翻訳も手がける。
「この場所、けっこうわかりにくいかもしれない」と書かれた看板を手にした可愛らしい男の子のイラストが、展覧会場の入り口に置かれている。眉根を寄せて地図を見ているその男の子を通り過ぎ、中へ進むと「あなたをずっとまっていたのか […]
八田英子律師が亭主となり、隔月に催される「本楼共茶会」(ほんろうともちゃかい)。編集学校の未入門者を同伴して、編集術の面白さを心ゆくまで共に味わうことができるイシスのサロンだ。毎回、律師は『見立て日本』(松岡正剛著、角川 […]
陸奥の真野の草原遠けども面影にして見ゆといふものを 柩のようなガラスケースが、広々とした明るい室内に点在している。しゃがんで入れ物の中を覗くと、幼い子どもの足形を焼成した、手のひらに載るほどの縄文時代の遺物 […]
公園の池に浮かぶ蓮の蕾の先端が薄紅色に染まり、ふっくらと丸みを帯びている。その姿は咲く日へ向けて、何かを一心に祈っているようにも見える。 先日、大和や河内や近江から集めた蓮の糸で編まれたという曼陀羅を「法然と極楽浄土展」 […]
千夜千冊『グノーシス 異端と近代』(1846夜)には「欠けた世界を、別様に仕立てる方法の謎」という心惹かれる帯がついている。中を開くと、グノーシスを簡潔に言い表す次の一文が現われる。 グノーシスとは「原理的 […]
コメント
1~3件/3件
2025-09-04
「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。
2025-09-02
百合の葉にぬらぬらした不審物がくっついていたら見過ごすべからず。
ヒトが繋げた植物のその先を、人知れずこっそり繋げ足している小さな命。その正体は、自らの排泄物を背負って育つユリクビナガハムシの幼虫です。
2025-08-26
コナラの葉に集う乳白色の惑星たち。
昆虫の働きかけによって植物にできる虫こぶの一種で、見えない奥ではタマバチの幼虫がこっそり育っている。
因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。