感門之盟の受付からカフェを通ってスタジオまでは長いパサージュがある。ネットワンシステムズ社のnetone valleyは広いのだ。その途中に、黒いアップライトピアノは置かれていた。休憩時間となると他のロールから着替えたピアニストがふたり現れ、連弾を始める。ふたりの指が絡むように動き、奏でる軽快なリズムに、行き交う人は立ち止まり、引き込まれていった。曲は、近代フランスの作曲家モーリス・ラヴェルの『マ・メール・ロワ』。17-18世紀の作家の童話を下敷きにした連弾作品であり、童話から音楽へとメディア編集させた、親しみやすくも緻密なラヴェルの名曲の一つである。演奏者は同じ音楽大学の出身で、ひとりは遊刊エディストのJUSTライターを束ねてきた上杉公志、もうひとりは16[離]を退院したばかりの瀬尾真喜子だ。
実は、ピアノの音は、「多読アレゴリア」に誕生するクラブのひとつ、「音づれスコア」への勧誘の調べであった。「楽譜が読めなくてもいい。楽器が弾ける必要もない。必要なのは、音楽への関心とフェチだけ」と、クラブの発起人である上杉と瀬尾が誘う。
読書と演奏は似ているのかもしれない。本に書かれる文字を読むのと同じように、譜面の音符を指で音にして、社会の切り口から音楽の効用と高揚、またマリアージュとマッチングの秘密に迫ろうとする。ピアノの周りは、その鋭く柔らかな手腕を魅せる場面となっていた。
そもそも「音づれスコア」は上杉が松岡校長からいただいた教室名「おとづれスコア」に肖るもの。「おとづれスコア」には、遠い昔に「鐸(さなぎ)」が鳴るのは神の「おとづれ」を知らせるものと考えられていたように、鐸のように学衆からの回答(=おとづれ)にスコアリングしていきたいという思いが込められているのだという。
マラルメの火曜会のように、音楽を媒介に、参加される方々のフェチもシェアしながら、ポリフォニックな「音楽×編集」のスコアが生まれるような場にしていきたい。
とは、上杉の言だ。
訪れや便りをスコアにして五線譜に乗せては場を動かす。そんな魔法を使ってみたいと思ったら、「多読アレゴリア」へお申込みの上で、イシス随一の紳士と淑女でもある名ピアニストのふたりが待つ「音づれスコア」の門を叩こう。話や音楽にゆるりと耳を傾けるだけでもいいし、時には思い切って語り尽くすような多様な参加が歓迎される、クラブというよりも「サロン」のイメージをもつ場がそこにあるはずだ。
【講座名】多読アレゴリア
【開講日】2024年12月2日(月)
【申込締切日】2024年11月25日(月)
安田晶子
編集的先達:バージニア・ウルフ。会計コンサルタントでありながら、42.195教室の師範代というマラソンランナー。ワーキングマザーとして2人の男子を育てあげ、10分で弁当、30分でフルコースをつくれる特技を持つ。タイに4年滞在中、途上国支援を通じて辿り着いた「日本のジェンダー課題」は人生のテーマ。
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