中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。
目が印象的だった。半年前の第86回感門之盟、[破]の出世魚教室名発表で司会を務めたときのことだ。司会にコールされた師範代は緊張の面持ちで、目も合わせぬまま壇上にあがる。真ん中に立ち、すっと顔を上げて、画面を見つめる。まもなく[守]の教室名が映し出されると、桜が散るようにさっと消え、同時に[破]の教室名が現れる。本楼が歓声で湧いたあと、やっと師範代は司会と目を合わせてくれた。
それはなんとも言えない、菩薩のような慈愛の目をするのだ。冠界式のときのような全身で喜ぶ姿とはまた違った風景がそこにあった。
多くの人にとって破の師範代は一生で一度きり。物語を書くのだから、やりとりする文字の量が膨大なのは明らか。「できるのか、わからない」そんな不安を抱えつつ[守]とはまったく異なる物語が始まる。その切実の一擲が出世魚教室名発表なのだ。原郷から離れ、旅立ちを決意したその目には澄み切った中にも確かな弾力が宿る。
行く春や鳥啼き魚の目は泪 芭蕉
去りゆく春を惜しみつつ旅立つ芭蕉の心情は、慣れ親しんだ[守]の教室名が去って行くような寂寥感とも重なる。暦の上ではもう秋。季節が止まってくれないのと同じで[破]も止まることはない。9月20日、第89回感門之盟では10名の師範代が出世魚教室名を授かり、出遊する予定だ。
冠界式が音からはじまる声の風景ならば、出世魚教室名発表は映像からはじまる文字の景色だ。十人十色の映像制作もまた過酷で、感門之盟ぎりぎりに完成することが多い。当日はその映像と、師範代の眼差しに注目してほしい。
アイキャッチ・文/一倉広美(55[守]師範)
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
かなりドキッとした。「やっぱり会社にいると結構つまんない。お給料をもらうから行っておこうかなといううちに、だんだんだんだん会社に侵されるからつらい」。数年前のイシス編集学校、松岡正剛校長の言葉をいまもはっきりとはっきり […]
花伝所の指導陣が教えてくれた。「自信をもって守へ送り出せる師範代です」と。鍛え抜かれた11名の花伝生と7名の再登板、合計18教室が誕生。自由編集状態へ焦がれる師範代たちと171名の学衆の想いが相互に混じり合い、お題・ […]
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週刊キンダイvol.018 〜編集という大海に、糸を垂らして~
海に舟を出すこと。それは「週刊キンダイ」を始めたときの心持ちと重なる。釣れるかどうかはわからない。だが、竿を握り、ただ糸を落とす。その一投がすべてを変える。 全ては、この一言から始まった。 […]
55[守]で初めて師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る連載「師範 The談」の最終回はイシスの今後へと話題は広がった。[離]への挑戦や学びを止めない姿勢。さらに話題は松 […]
コメント
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2025-10-29
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2025-10-28
松を食べ荒らす上に有毒なので徹底的に嫌われているマツカレハ。実は主に古い葉を食べ、地表に落とす糞が木の栄養になっている。「人間」にとっての大害虫も「地球」という舞台の上では愛おしい働き者に他ならない。
2025-10-20
先人の見立て力にひれ伏すしかないと思って来た「墨流し」。戯れに、Chatさんに「蝶のスミナガシを別の見立てで改名するにはどんな名前がいいですか?」と尋ねてみて、瞬時に現れた名答に打ち拉がれております。