田村書店千里中央店は、日本万国博覧会が国じゅうの耳目を集めていたころ産声を上げた、お客様に近い「愛され書店」です。
大阪千里は、いわゆるニュータウン開発の先駆けで、関東圏の都市開発にもさまざまな影響を与えました。こちら千里中央の大丸プラザ(現:オトカリテ)は、オイルショック時のいわゆる「トイレットペーパー騒動」の震源地といわれています。2021年、千里の地は、知祭りの震源地となるでしょうか。
田村書店は、千里中央駅ショッピングモール「せんちゅうパル」3階と4階に位置しています。大阪府・兵庫県一円に十以上の店舗を構えておられますが、千里中央店はその第2号店ということです。この日は時間帯もあり、制服を着た学生さんの姿も多く見られました。
4階の出入り口付近には、書籍の由来を紹介する額が。地元のお客様に愛されつづけている書店の、本への熱いリスペクトが感じられる一角です。
この地域は、転勤族も多い、いわゆるベッドタウンです。書店もファミリー層の利用が多く、3階は児童書が充実しています。夏休みが近いこの時期、腰を据えた読書をと意気込む子どもも、たくさん品定めに訪れます。やはりリアル書店の本棚で、いろんな本のタイトルを一堂に眺める体験こそが、「次の背伸び」への導きとなるはずです。
こちらのブックフェアは、4階レジ付近の、お洒落な一等地でご協力いただきました! 既刊の千夜千冊エディションがずらり。
松岡校長、千里にようこそ。千里吹田のランドマーク、岡本太郎の手になる「太陽の塔」に、この地は見守られています。かつて岡本太郎は、日本の伝統美術をゼロベースで見直すべきだと『日本の伝統』で挑発しました。「もし、本当に伝統があるとすれば、現時点では孤独な日本人が環境と対決して、アンチ日本を打ち出すことが本当の日本だと思うのだ」(鶴見俊輔との対談より)。
穏やかに控えめに、取材に応じて下さった西田店長。「提案型の本棚というよりは、地域に密着して、お客様の求める本を取りそろえるように心がけている」とおっしゃるが、お気に入りの千夜には『パンとペン』『俗戦国策』を挙げる。意外と硬骨漢?
『遊』『遊学』の読者でもあり、杉浦康平ファンでもあった西田さんのお勧めのエディションは『芸と道』。岡本太郎の挑発に応じるのは、世阿弥の背にまねび、琵琶法師の唸りに胸を絞られ、森重久彌の声に痺れてからでも遅くはありません。
また、西田店長は『資本主義問題』も印象的だったそうです。「今の時代の行き詰まりにフィットしている。単なる思想の右左でなく、システムで考えているところに特徴を感じる」。
ファミリー層中心となると、硬質の本はなかなか……と思いきや、コロナ禍で自然科学関連のハイブロウな本が出るようになったとも。難事が迫れば、オーソドックスな知を求める風土が、この地にも確かにある。太陽の塔の見下ろすこの場所で、一から知を組み直す小さな砦が、地元の愛され書店に立ち現れているのです。
千里中央店でのフェアは、8月末くらいまで。記事でご紹介した「一等地」での開催は8月15日までとのことなので、お急ぎください!
文:川野貴志
写真:野嶋真帆
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川野貴志
編集的先達:多和田葉子。語って名人。綴って達人。場に交わって別格の職人。軽妙かつ絶妙な編集術で、全講座、プロジェクトから引っ張りだこの「イシスの至宝」。野望は「国語で編集」から「編集で国語」への大転換。
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