『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
「江戸時代の科学」「日本の科学百年」「空海の世界の構造と広がり」。
どれも湯川秀樹の著作タイトルである。湯川の「科学観」はこのタイトルにもありありとあらわれている。既存のステレオタイプな「科学」の概念の枠組みを打ち破り、より広く捉える湯川のこの見方は、例えば次の一節からも窺い知ることができる。
今日の通念では、江戸時代の科学者といえば洋学の影響を受けた人たちに限られているらしい。そう思われている理由の一つは、科学という概念十七世紀以後の近代科学と同定してしまったからである。しかし、こういう考え方に私は賛成できない。(…)既得の知識の他に、さらに新たに発見さるべき真理が、まだ自然界に潜んでいる。そういう意識を持って、創造的活動をしてきた人こそ科学者と呼ばれるべきであった。
湯川秀樹「江戸時代の科学」より
2022年6月26日(日)の輪読座第3輪は「物(モノ)と霊(モノ)は対立か、連続か、同根か」と題し、日本の科学者や思想家の見方を積極的に取り入れた湯川秀樹の科学観をひも解いた。
江戸時代における日本の科学者に三浦梅園(1723-1789)がいる。自身の考える自然の認識の仕方を「条理学」と呼び、自然界の生成運動の法則を探究した人物である。
その梅園の見方を象徴するのが「反観合一」である。これは「反のうちに合一を知ること」という、ものの本質を正しく捉える方法である。もう少し平たくいえば、相反するものがあるときに、一方を切り捨てるのではなく、反したままで一つに合している関係そのままに観ることを意味する。
「反観合一」は、この「関係そのままに観る」という点において、弁証法の「正反合」と似て非なるものである。例えば、「天動説」と「地動説」について、弁証法では、天動説と地動説のどちらかが正しいかを重視し、天動説を否定し、地動説を採用する。梅園はそうした排除的・選択的な見方ではなく、両方の見方そのままを捉えること、重なり具合やずれをもそのまま掴むことを重視した。
三浦梅園『連環図』(『贅語』「天文訓」より)。太陽中心のモデルと地球中心のモデルを重ねて図式化されたもの。どちらかを選択・排除せずにそのまま捉える梅園の「反観合一」の思想がよくあらわれている。
輪読師のバジラ高橋もこの「反観合一」に肩を持つ一人である。この日の輪読座の冒頭では、第2輪での学びを一枚の図象にまとめた2名が読みのプロセスを語った。2名の図象を見るだけでも、たとえ同じ講義に参加し、同じ著作を読んだとしても、座衆の数だけ見方や表現の仕方があることがわかる。輪読座では、そうしたアウトプットを差異も切り捨てずに重ね合わせることで、より豊かな「湯川秀樹という方法」が立ちあらわれてくる。
「どこから手をつければよいかとても迷った」という松井路代座衆は、湯川秀樹著作の輪読を通じて「宇宙」と「素粒子」に2つの概念に着目する(左右の太字部分)。つづいて、宇宙の現象を説明する法則と素粒子を説明する仕組みとが噛み合わなさに注目し、ルール・ロール・ツールのルル三条によって二つの「差異」を浮き彫りにした(中央部分)。
阿曽祐子座衆も2つの情報に着目しているが、その対象は「(観察による)現実の世界」と「(実験による)可能な世界」となっている。
その上で「見えなさ」の共通点に着目して両者を照合することで、「もう一つの現実の世界」という見方を発見した。「その世界のあり方から、オスカーワイルドの”自然は芸術を模倣する”を連想し、黒い吹き出しの表現(右下部分)を入れてみました」(阿曽座衆)
【日本哲学シリーズ 輪読座「湯川秀樹を読む」関連記事】
【今後の開催予定】
第4輪:2022年7月31日(日)
第5輪:2022年8月28日(日)
第6輪:2022年9月25日(日)
※全日程 13:00〜18:00
※開催終了分も動画でキャッチアップいただけます。
※詳細・申込はこちら
上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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目玉入道、参上。
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