長引いた酷暑が幕を閉じた10月。底冷えを感じさせる雨が降るなか、エディットツアー開催の準備を終えた師範陣はお互いに目配せをし、「この雨のなか、参加者は予定通り来てくれるだろうか」と、やや気弱になっていた。
だがそれはいらぬ心配だった。雨を掃うようにさっそうと現れた参加者Eは、本楼を案内されるや否や、軽快な足取りで梯子を登り、子供のような好奇心で本棚を探索する姿をわたしたちに見せつけた。
日本の各地域の食文化を記録したシリーズ『聞き書 』をみつけ、はしゃぐ参加者E。自身もこのシリーズの福島版を持っているそうだ。
参加者Eは「明言できそうもないものを、できるだけ誠実に取り出したい」のだという。誰かと話していても、本を読んでいても、分節と分節の間に起きている思考を読み取りたくなる。編集術を知ることで、「発想と発想のあいだを説明できるようになりたい」のだと語った。
■連想という名の寄り道
編集とはなんなのか。ナビゲーターを務める相部礼子師範は切り出した。「インプットとアウトプットの間で起きているのが編集です。ただし、わたしたちは普段、このブラックボックスのなかで行われているプロセスを意識できていません」。
ブラックボックスのなかで行われるプロセスとして、情報の収集から誰かに伝えるための演出まで、いくつかの段階がある。質の高いアウトプットのためには、まずインプットの充実をはかりたい。そのために、まずは連想を軽視しないことだ。
連想によってイメージサークルをどう広げられるか。編集術ではこれを重視する。学校や会社では、連想という寄り道はおおよそ許されない。「関係のない話はするな」と。とんでもない。連想によって集められる情報こそが、豊かな発想を導く源泉になる。
参加者Eの悩みは「自分は発想が飛びがち」で「話の腰を折る」と言われてしまうこと。本棚のあちらこちらに手を伸ばしたように、連想によってたくさんの情報にアクセスしているのだろう。頭のなかで繰り広げられている連想を、編集術によって意識的に動かして、その軌跡をたどることができれば申し分ないわけだ。
■「リンゴ」から「大気圏」のアイダ
BPT(ビーピーティ)という編集の型を使って連想を広げてみる。B:ベース(いま、ここ、始まり、現状)からT:ターゲット(方向、行先、対象、象徴、目指したい状態など)に向かって、思いついたことを書き留める。ありたいほうへ、方向性をもって連想することで集まってくる情報がP:プロフィールだ。編集はこのプロフィールが豊かになることを歓迎する。
参加者Eが作成したワークシート。リンゴから大気圏へ、連想が方向性をもって広がる様子を図解した。
■連想×連想のネットワークツリー
つづけて、リンゴを中心にして多方向に連想を広げるワークに挑戦。ルールは参加者全員の連想と連想を重ねること。誰かが連想した事柄をきっかけにさらに連想を広げ、放射状にツリーを広げていく。自分と他者の連想が重なりあったツリーの誕生だ。リンゴのイメージサークルは、思ってもみないところまで広がりをみせた。
参加者Eを含む4人は、ものの5分でリンゴの連想ツリーを広げていった。紙が足りなくなり継ぎ足している。
連想したことを捨て置かず、イメージサークルを可視化できれば、発想と発想のあいだがみえてくる。できあがったツリーの枝を眺め、優先順位をつけて剪定したり、生きのいい枝を挿し木にしてさらに育てていくこともできる。参加者Eのいう「明言できそうもないこと」を丁寧に取り出して、意味付けしたり名前を付けたりすることもできるだろう。
■発想と発想のあいだの風景
松岡正剛『知の編集工学』より
情報が情報を呼ぶ。情報は情報を誘導する。
「情報は孤立していない」、あるいは「情報はひとりでいられない」ともいえるだろう。また、「情報は行先をもっている」というふうに考えてもよいかもしれない。
情報は情報とくっつきたがっている。わたしたちは発想をひろげたいと思っている。それなら話は早い。向かいたい方向に仮のターゲットを設定して、そこに向かってどんどん連想をひろげるといい。ターゲットには愛読書や架空の世界をおいたっていい。そこに向かうために必要な要素、ルール、対話、登場人物など、たくさんのモノやコトが見えてくるだろう。
本楼を動き回って本を探索したように、連想をどこまでも広げて、発想と発想のあいだに見えた風景をそのままに眺めてみてほしい。そこには、忘れていた大切なことや、新しい見方が潜んでいるはずだ。
連想という名の寄り道を歓迎する、そんな編集世界の門が、いま開いている。基本コース52[守]の開校日は10月30日(月)。発想と発想のあいだを見渡すような、体ごとの稽古を体験してほしい。
イシス編集学校 基本コース[守] 秋講座 受付中(残席わずか/定員になり次第締め切り)
稽古期間 2023年10月30日(月)~2月11日(日)
詳細・申込はこちらから
阿部幸織
編集的先達:細馬宏通。会社ではちゃんとしすぎと評される労働組合のリーダー。ネットワークを活かし組織のためのエディットツアー も師範として初開催。一方、小学校のころから漫画執筆に没頭し、今でもコマのカケアミを眺めたり、感門のメッセージでは鈴を鳴らしてみたり、不思議な一面もある。
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