物語には、なんとも気になる不思議なツールが登場するものだ。そういうモノに、物語という方法がなぜ必要とされたのかを感じることがある。たとえば、かぐや姫が求婚者にもって来てほしいと願ったお宝に、「火鼠の皮衣(ひねずみのかわぎぬ、火にくべても燃えない布)」というものがある。「火鼠の皮衣」ってなんだろうか? 火鼠は架空の動物か?「かわぎぬ」はつまり毛皮であって、焼いても燃えない布ということはウールの織物? 竹取物語では、右大臣阿倍御主人(うだいじんあべみうし)が唐土まで使いをやり、大枚はたいて手に入れる。
そして肝心の皮衣は美しい紺青色で、毛の末は金色に輝いている。まさしく宝物であって、その美しさはたぐいがない。火に焼けないということよりも、まずその清らかな美しさが、何にも増して素晴らしいのである。
その高価で美しい皮衣を、かぐや姫は火にくべさせる。するととあっけなく燃えてしまった。
右大臣は燃え上がる皮衣を見つめたまま、草の葉のように青い顔をして座っていた。その一方、かぐや姫は、「ああ、よかった」と喜んでいる。
ウーン、あらためて竹取物語を読むと、偽物とはいえ調達コストをそれなりにかけている求婚者に、かぐや姫は冷たすぎないか、と思う。
燃えない毛皮や布は、果たせるはずもない無理難題なのかと思いきや、古代から燃えない布として珍重されたモノがあった。石綿(アスベスト)である。近年、その有毒性が問題視されるようになり、使用には規制がかかるようになったが、それまでは「火にくべても燃えない布的なもの」(ほんとうは鉱物)として、重用されてきた。古代エジプトではミイラをくるんだといい、古代中国でも火に投じると汚れだけが燃えてきれいになることから火浣布(かかんぷ、火で洗える布)とよばれ珍重されたという。
火にくべても燃えない布状のものの不思議さを、中国古代の人々は、火鼠に由来するからだと理由付けた。火鼠は、中国の南の山の、不尽木という燃え尽きない木の火の中に棲んでいるとされる。その毛を織物にすると、焼けばきれいになる布ができるのだ…。
石綿が特殊な機能をもった鉱石であることを古代の人々はわからない。けれどその不思議さを理由づけるロジックがほしい、そこで火鼠という架空の動物を想像したというわけだ。そして竹取物語が成立した平安前期の日本にも、そのような不思議な布があることが伝わっていたのだろう。
不可思議な現象について、理由を知りたくなる、わからなければこじつけたくなる、想像力でもって辻褄を合わせたくなる、それが人間の性なのだろう。ものがたりせずにはいられない人間の編集力がある。[破]講座ではそれを実践的に体験する。
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■日時:2025年2月2日(日)11:00-12:30
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■会場:オンライン(zoom)
■定員:先着20名
■対象:どなたでも参加できます
■お申込み:編集工学研究所SHOP / エディットツアーオンラインスペシャル [破]物語編集術 2025年2月2日(日)11:00-12:30
引用:竹取物語 森見登美彦訳(河出書房新社 日本文学全集03より)
原田淳子
編集的先達:若桑みどり。姿勢が良すぎる、筋が通りすぎている破二代目学匠。優雅な音楽や舞台には恋慕を、高貴な文章や言葉に敬意を。かつて仕事で世にでる新刊すべてに目を通していた言語明晰な編集目利き。
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