発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

イシス編集学校には「六十四編集技法」という一覧がある。ここには認識や思考、記憶や表現のしかたなど、私たちが毎日アタマの中で行っている編集方法が網羅されている。それを一つずつ取り上げて、日々の暮らしに落とし込んで紹介したい。
「何も困っていることはないよ」。山の上の一軒家でおばあさんは答えた。
6年ほど前、大学院の同期4人で買い物弱者の調査に出掛けた。高知と徳島、香川を結ぶ国道から、一台やっと通れる程度のつづら折りの道を車で20分ほど上がる。間伐が行き届かない杉林は荒廃し、空を遮る。隣家は視界に入らない。
そこから先に人は住んでいない。
こんな場所に一人なのに困っていない?!自分たちとおばあさんは何が違うのか。ある時、64技法の【46測度(metric):測度をつくる、測定基準をつくる、判定化】に思い至り、合点がいった。
自分たち4人は無自覚に自己中心的な測定基準を作っていたのだと気づかされた。町の中心地から遠く、店もなく、人よりイノシシやサル、シカが多い場所で、高齢者の一人暮らし。不自由や不便も多いに違いない。勝手に作った基準を乱暴におばあさんに当てはめたのだ。
「測度」という言葉から一般的にイメージするのは数値だろう。例えば、おばあさんの住む町は総面積315.06平方キロメートル(東京ドームの約6,700倍)で、9割弱を森林が占める。そこに3,570人が暮らしており、平均年齢は63.1歳。数値からは典型的な過疎の町の姿が見える。
一方、編集学校では、数字に置き換えられないメトリックも大切にしている。カウントできない意味や価値こそ丁寧に掬い取り基準をつくろうとする。測度は数値化できないものをも測るモノサシなのだ。
土地に根付いた暮らしのありようを尊重したメトリックがあってもよい。その場所に暮らす人々の想いや感覚を測定基準にしたってよい。この方法なら、過疎や高齢化、人口減少で語られる問題を異なる切り口で捉え直すことも出来るはずだ。
おばあさんの測度で世の中を見ると、どのように映るのだろう。
住み慣れた我が家があり、先祖から受け継いだ土地がある。必要なものは、必要な時に必要な分だけ作るか育てればよい。昔なじみの友もいる。
「これ以上、何が足りんがぞね」。そんな声が聞こえてきそうだ。
(design 穂積晴明)
しみずみなこ
編集的先達:宮尾登美子。さわやかな土佐っぽ、男前なロマンチストの花伝師範。ピラティスでインナーマッスルを鍛えたり、一昼夜歩き続ける大会で40キロを踏破したりする身体派でもある。感門司会もつとめた。
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コメント
1~3件/3件
2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。