【一冊一印】大澤真幸 の『資本主義の〈その先〉へ』を読む

2025/04/30(水)07:43
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花伝所では期を全うした指導陣に毎期、本(花伝選書)が贈られる。41[花]はISIS co-missionのアドバイザリーボードメンバーでもある、大澤真幸氏の『資本主義の〈その先〉へ』が選ばれた。【一冊一印】では、選書のどこに指導陣がマーキングを入れたのか、読みと共に紹介します。


私たちは、資本主義の終わりや限界について予感めいたものをもってはいますが、しかし、その終わりを積極的に思い描くことができないのです。なぜそうなるのかといえば、それは私たちが資本主義の〈その先〉について、イメージを持つことができないからです。(p.11)

この問題をどう考えるべきなのか。資本主義を限定的に捉え、漠然とそこに嵌め込まれ、思考すらも窮屈になっている自分にいったんは絶望するしかないと思いながら読み進めた。そして、傍らには、H.Dソロー『森の生活』と中沢新一『緑の資本論』を置いて多読している。(林朝恵 43[花]花目付)

 

私たちに属する視線が、私たちを―正面からではなく―斜めから見る。この視線は、相克的な敵対関係を相対化し、相乗的な共同性(私たち)の範囲を区切り直す効果をもちます。(P.416)

アフガンでの中村哲さんは現地主義を貫いた。その態度は二重の役割を伴う。現地の苦しみに共感する内在者のわたしと、日本人の面目を保って生きるわたし。相対するまなざしが、現地の農業社会に江戸時代の重なりを見つけ、現地の道具や技術で建設可能な用水路工事を発案した。内部で向き合う目線は共感で終わり、外からの視線は優劣関係を生む。その二つの視線が交差することで類似が見つかり、別なるルールが編み出されるのである。イシス編集学校が謳うポリロール主義もまた一対の異なる視線をもつ仕組みだ。内部と外部のまなざしをもつ者として、指導陣は様々な場で変化を生み出す媒介者であらねばならない。(古谷奈々 43[花]花伝師範)

 

中村さんたちの活動が劇的な効果をもったのは、彼が、アフガニスタンの共同体に対する外来者としての位格を維持しつつ、同時にその同じ共同体に徹底的に内在したからです。連帯の相手となる他なる共同体に対して外部的でありつつ、内部的でもあること。そのような二律背反的な両極性が維持されるかたちで他者に協力することが、ここでいう「連帯」です。この連帯の行動を、自らが属する共同体から他の共同体へと、こちらのプロレタリアから向こうのプロレタリアへと、一本の太い線を引くことに喩えておきましょう。(p.427)

まず自分自身に内在する外部性を認識する。さらにアンビバレントにゆらぐ両価性を意識し続ける必要もある。そもそも他者同士のあいだに生まれた私たち人間は、生得的に両極を兼ね備えている生き物なのだ。その上に、連帯もコミューンも成り立っていると考えれば、家族から国家まで、思想的な共同体から実践する活動体まで、大小あらゆる分類と相似する骨格構造が見えやすくなる。そこで試される現世ーどこに身を置くか。問われているのは線を引く相手選びとその太さに凝縮される。ん? これって恋愛と同じではないか。つまるところ、資本主義の<その先>は自身の選択と深化に大いに委ねられている。(平野しのぶ 43[花]花目付)

 

アイキャッチ写真 林朝恵

 


『資本主義の〈その先〉へ』
大澤真幸/筑摩書房/2023年6月/2640円

■目次
第1章 終わらぬ終わり
第2章 剰余価値はいかにして生まれるのか
第3章 増殖する知―資本のごとく
第4章 神に見捨てられた世界の叙事詩か?
第5章 “その先”へ

出版社情報

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