『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
マーキュリーとは、ギリシア神話のヘルメスを意味する。泥棒、商売、旅人の守護神であり、霊魂の導者でもある。様々な境界を超えるマーキュリーという神の名をフレディ・マーキュリーが自ら名乗ったのは至極当然のことのように思う。
多読ジムx倶楽部撮家による〈越境〉コラボ企画《一人一撮edit gallery》が帰ってきました。企画の主旨は第1弾の記事を参照されたい。『物語の函』に挑戦した第1弾に続く、今回の第2弾では『性の境界』がお題となる。『性の境界』を通読し、本から写真への〈越境〉に挑んだ勇士は5人。「本を撮ろう」という気概に溢れた作品が並びました。5人の5作品を鑑賞しながら倶楽部撮家によるコメントを添えていきます。僭越ながら今回も私後藤由加里が講評役を担当します。
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渡會眞澄
「境界をまたぐ」から電話を連想して撮影された渡會さんの作品。表紙の「Q」と受話器の丸みを形状的に呼応させています。加えて、曲線的な表紙カバーに反して、直線的なギザギザが敷かれた対比が面白いです。カラーvsモノクロという色の対比も考えられていて、カラフルな本が際立つ構成になっています。呼応と相反が効いていて、一目見てハッと驚かされました。今回は外撮影を断念されたとのことですが、次回は町で撮影された作品を楽しみにしています。
北條玲子
『性の境界』を読んで「ピンク=女の子」という固定観念はどこからきたのか、疑問に感じた読者もいるのではないでしょうか。そこを逆手にとるように、女性を想起させるピンクの柔らかい布をドレスに見立てて『性の境界』がそこから育っていたという物語を考えられたのは北條さん。女というジェンダーで本を包んだアイデアに膝を打ちました。本が真っ正面を向いているという潔さに、ある強い意志も感じました。北條さんが撮影する人物写真も見てみたいと思った作品です。
松井路代
これまで何枚もの松井さんの作品を見てきましたが今回は「松井さん、挑戦したな!」と思いました。「性の境界を生きる人は痛みを知り、負を引き受けている。負なるトポスで自らを飾り輝く」という読みから、裏っぽい場所で撮影してみたという松井さんの作品です。渡會さん同様に極力背景から色味を排したことで、本が立っていますね。少し斜めから撮ることで奥行きが出たところも◎。欲を言えばボロボロに読み込まれた本っぽさが出ると「負を引き受けている」「裏っぽさ」感がUPするかもしれません。
山口イズミ
『性の境界』の口絵写真のインパクトに引けを取らない思い切った作品です。「第二章 母・女・差別」で取り上げられた本がずらっと並び、「原始、女性は太陽であった」をイメージされたよう。第二章の本とTAROの太陽が背後から『性の境界』を見つめ、圧倒するような配置が面白いです。ここまで大胆にやるのであれば、フローリングの茶色が大きな面積を占めていて全体のトーンを落としているのがちょっと惜しい。
畑本浩伸
表紙のレインボーにあわせて、TOKYO MXの「ゆめらいおん」を掛け合わせた畑本さん。「5時に夢中」ファンとしてはそれだけでちょっとアガりました。前回の作品よりも今回は本が主題として立っていて、カマエが断然よくなりました◎ 本が引き立つように背景を黒に落としたのもGoodです。ただ、ゆめらいおんの方にライトが当たっていて本より目立ってしまいました。帯がちょっとずれているのも気になります。本の頭からのぞく燃えるような付箋紙が面白いので、これを効果的に使っても良かったかも?次回の挑戦も楽しみにしています。
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5者5様それぞれに『性の境界』を読み、新たなニューワードとして1枚の写真に落とし込まれた姿勢がアッパレです。「本を撮る」というカマエも今回ダイレクトに伝わってきました。5名のチャレンジに敬意を表して、今回は全作品をインスタ掲載といたします。メディアを越境し、インスタ上でタイル状に並ぶとまた印象も変わってくることでしょう。あっちとこっち、行き来して作品をご覧ください。
イシス編集学校Instagram(@isis_editschool)
https://www.instagram.com/isis_editschool/
アイキャッチ画像:後藤由加里
おまけ
アイキャッチ画像は、筆者が『性の境界』刊行時にインスタ掲載用に撮影したもの。表紙の「Q」と「クイア」をQueenのフレディ・マーキュリーと重ねてみた。編集工学研究所・映像ディレクター小森康仁にアドバイスを求めたところ、間髪入れずこんなコメントをいただいた。
言われてみれば、確かに隙のない写真になっているかもしれない。ハイ、まだまだ精進します。
後藤由加里
編集的先達:石内都
NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。倶楽部撮家として、ISIS編集学校Instagram(@isis_editschool)更新中!
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コメント
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2026-03-19
『絵師ムネチカ』から目が離せない。天才は往々にして何かが欠けている。そしてそのこと自体がまた天才の天才性を引き立たせる。周囲の人々の鼻面を引き回し、人生を変えていく「天才少年」のデモーニッシュな魅力を容赦なく描いた怪作。
これまでにも「神童」もの(?)を数多く描いてきたさそうあきら先生だが、ご本人は極めて方法に自覚的な職人タイプ。長年、マンガ学科の教員として教鞭をとり、『マンガ脚本概論』などの技法書にも定評がある。
2026-03-17
目玉入道、参上。
体を膨らませ、偽りの目玉(眼状紋)を誇張して懸命に身を守ろうとしているのは、カイコの原種とされるクワコの幼虫。クワコの繭から取れるシルクは、小石丸のそれに似て細く、肌触りがよいらしい。
2026-03-10
平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。