病理医として、日々の研鑽と人材育成のための内外での研修。
二児の母として、日々の生活と家事と教育と団欒の充実。
火元組として、日々の編集工学実践と研究と指導の錬磨。
それらが渾然一体となって、インタースコアする
「編集工学×医療×母」エッセイ。
細胞や組織の形態をみて、この組織、硬いね、というように、視覚からダイレクトに触知的な感覚が想起されることも少なくない。病理医はもしかしたら、共感覚が育てられる専門職かもしれない。ちなみにスキルス胃がんの「スキルス」は「硬性」を意味し、文字通り硬いがんである。切り出し時に実際に胃の壁が厚く肥厚している所見をみることもあるし、顕微鏡下でも、間質組織の多い「硬い組織像」を呈するのがスキルス胃がんである。
千夜千冊541夜『共感覚者の驚くべき日常』にて、シトーウィックは、「科学は体験の全体を構成要素へと分解してしまうが、共感覚とは体験をその全体において提示する方法である」と言う。病理診断の科学的側面は、まさに病変から様々な異常所見を丹念に取り出し、それを分類しながら検討していくことである。病変の構成要素を分解しないと科学的な検証が難しいことも少なくない。特に昨今は、ゲノム医療が進み、肺がんの診断ひとつとっても、実にたくさんの遺伝子異常の項目をひとつずつ検証していくことが求められ、その結果に応じた治療戦略が決められている。しかし、それでその患者さんの肺がんについてわかったかというとそんなことはない。様々なファクターが複合的に関与しているひとつの「がんシステム」において、いくら構成要素に分類する精度を高めようとも、その「アイダ」は埋まらない。要素間の関係性は無数にあり、それを推論する力がひとりひとりの患者さんにベストな診療を提供するうえでは大切になってくる。
小倉加奈子
編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。
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