[守]の型はこう使え、第2弾! 《のの字》劇的創文法【47[破]講義録】

2021/10/26(火)17:00
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イシス編集学校は、コーチの育成にも渾身の編集を重ねている。

講座はオンラインでのテキストコミュニケーションが主だが、編集コーチにはリアルでの研鑽機会が設けられる。

今回は、応用コース[破]師範代に向けた講義の特別エディション第2弾。文章では何を書くべきか? 書くべきことをどう選ぶのか? 企業広告などを手掛けるライター梅澤奈央師範によるイシス的ライティング術をどうぞ。


47[破]番記者の梅澤です。前回の記事に続き、創文術について紙上レクチャーをしてみます。先日はようやくニューワード創文法として「どう書くか」をお伝えしました。でもじつは、文章を書くときには「どう書くか」以前に必要なことがあります。それは「何を書くか」です。

 

太田香保総匠は41[破]伝習座の文体編集術レクチャーのさい、格言を残されました。「ダメなネタはどう握ってもダメ。握りすぎて鮮度が落ちる前に、ネタを替える」と。

ということで今日は、文章の命運を握るネタ選びの方法をまとめてみます。それに使うのは、《「の」の字の不思議》です。のの字、覚えていますよね。「会社の車/車の会社」など、「の」で区切られた前後関係を入れ替えることでイメージをゆらす[守]の型です。

 

 

《のの字》を使って書いた記事があるので、まずこちらの記事をご覧ください。45[破]P1グランプリで吉村堅樹林頭が大フィーバーした、ということを茶化して書いたDUSTな文章。今日はこれを題材にします。じつはこれ、林頭を描こうとした記事ではないのです。

 

■煮るのか焼くのか、そのままか

 まな板の上のネタをつぶさに点検

 

この記事の発端は、裏話のリークでした。P1グランプリの直後、ざわめく本楼のなかで福田容子師範が「ネタになる!」と耳打ちくださったんです。いわく、プランナーの学衆西村洋己さんが感門当日が誕生日であったこと、優勝コメントにそれを用意していたこと、そして見事優勝できたこと。そんなミラクルが重なったのに、林頭のオンステージでヒーローインタビューがなくなってしまったこと。

いわば、本番に《ないもの》をネタ提供いただいたのです。こんなに美味しいネタ、細心の注意を払って料理せねばなりません。記事を書き出すまえに、煮るのがいいのか、焼くのがいいのか。醤油なのかタレなのか、板前さんの気分になってネタを点検していきます。

 

まずふつうに考えてみます。
西村さんを地にしてみると、学衆が見せ場を奪われたというマイナスの出来事ですね。いわば「学衆の事件」です。同じ教室のメンバーにとっては大事件。勧学会で書いたら盛り上がるでしょう。でも、つぐつぐアーク教室以外の遊刊エディスト読者にとってはピンとくるスケールではありません。

 

■学衆の事件? 事件の学衆?

 

そこで《のの字》を使って、ネタを裏返します。「事件の学衆」として見てみます。するとどうでしょう、「感門之盟という晴れの場で、事件に巻き込まれてしまった学衆」という見え方になりました。あの厳かな式典で事件があったと聞けば、野次馬もいっぱい集まってきそうですよね。

 

「学衆の事件」として考えると西村さんしか視野に入っていませんでしたが、西村さんを「かわいそうな事件の被害者」として見ると、視点がすこし高くなります。たとえば、「加害者は誰?」という新たな問いが浮上しました。この事件を引き起こしたのは、コーナーの司会をしていた林頭。ということでこの記事の見かけ上の主役は、吉村林頭に設定。

 

林頭が言葉いっぱいにノリノリで司会する様子を活写することで、言葉を発することのできなかった無念の西村さんと対比させたつもりです。《のの字》を使うことで、イチ学衆にとっての残念が、感門之盟で起きたスキャンダルに書き換わりました。

 

■下から見るか、横から見るか

 

書きたいネタが決まったとき、書き始めるまえにグッとこらえましょう。おいしそうなリンゴがあってもいきなり齧ってはいけません。皮をむくべきか、八つ切りにするか。火にかけてもいいし、すりおろしてもいい。まな板のネタを裏返したり、逆さにしたりするのには、《のの字》がオススメです。

創文をするときは、料理人になった気分で、このネタがいちばん生きる調理法を探してみてください。そう、書き手のワタシだけでなく、料理人としてのワタシも動員すること。いつでも自分は多様に、見方は自在に。つねに、たくさんのワタシのひだひだから、編集を始めましょう。

▲伝習座でのレクチャーは、「そっぽを向いた注意のカーソル」というキーワードから始まった。

 

協力:福田容子、西村洋己、吉村堅樹

撮影:新井陽大

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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