棚下照生。この忘れられたマンガ家が、最近、X(ツイッター)で話題になっていた(なぜかは知らないが)。大人漫画のタッチで劇画を描くという、今となっては完全に絶滅した手法が、逆に新鮮に映るのかもしれない。代表作『めくらのお市物語』は、連載当時、大変な人気で、映画やテレビドラマにもなったのだが、現在では、タイトルに問題アリで、復刊の目途もない。もしも古本屋で見かけることがあったら絶対買いです。
松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、それぞれで読み解く「3×REVIEWS」。
風が冷たくて、人が恋しい? それは季節のせいではないかも。現代では多くの人が、心の奥底にさみしさを抱えています。その根源的なさみしさに対し、カウンセリングはどんな方法と信念で向き合ってきたのか。人気カウンセラーが20年ぶんの経験を注ぎ込んだ大著『カウンセリングとは何か』、チーム渦の3人がヨミトキます。
●●● 3× REVIEWSのルル3条
ツール:『カウンセリングとは何か 変化するということ』 東畑開人()
ロール:評者 大濱朋子/羽根田月香/吉居奈々
ルール:1冊の本を3分割し、それぞれが担当箇所だけを読み解く。
● 1st Review
まえがき ふしぎの国のカウンセリング
第1章 カウンセリングとは何か──心に突き当たる
第2章 謎解きとしてのカウンセリング──不幸を解析する
「カウンセリングは社会のど真ん中ではなく、隅っこでなされる」と著者は言う。従来、人が人に話をし聞いてもらうという繋がりが心を支え、問題を緩やかに解決していた。しかし何らかの原因で当たり前の日常が成立しなくなる時、悪化する事態の果てに姿を現す、心に突き当たるのがカウンセリングだと。カウンセリングを訪れるユーザーを理解するために話を聴き、心理学という専門知のもと3A(アフォーダンス・アナロジー・アブダクション)を駆使し、ユーザーを苦しめている謎を解いていく。隅や端や際で今日も謎解きが行われる。あやふやでままならない自己や心や世界の境界で他者と交わり変化していく。カウンセリングとは編集だったのか。(チーム渦・大濱朋子)
● 2nd Review
第3章 作戦会議としてのカウンセリング──現実を動かす
第4章 冒険としてのカウンセリング──心を揺らす
現代は「流動的で不安定な新自由主義社会」だと著者は言う。心療内科の受診者数は20年で2倍以上増え、関連施設数もうなぎ上り(厚労省/医療施設調査)。そして著者が注目するのは「シビアな日常をいかに生き延びるか」が問われる一方「そのことで人生が死ぬ」ことがあるという点。専門家の目線から大胆に「地」をずらし、ユーザー(社会)の目で密室内の行為を詳細に解き明かした。なぜか? おそらく「良きユーザー」を増やしカウンセリング効果をあげるため。医療同様、患者自身の治療への理解と能動姿勢があってはじめて治療は最大効果を発揮する。誰がいつ人生に躓くか分からない現代。未来の良き(正しい、では決してない)ユーザーになるための指南書、そう読んだ。著者の思考と編集稽古との類似性にも注目。そう、突き詰めれば世界は編集でできている。(チーム渦・羽根田月香)
● 3rd Review
第5章 カウンセリングとは何だったのか──終わりながら考える
あとがき 運命と勇気、そして聞いてもらうこと
きちんと終わる。その難しさを著者は語る。カウンセリングの終結期は、とても慎重に、時間をかけて「終わり」に向かうのだという。孤立の辛さを最小限にする、あるいは最大限味わうためだ。そのプロセスの最中に起こっていくのが、物語化である。これまでの苦悩や危機や人間関係が物語に、つまり過去になる。過去になり、個人の歴史となってようやく、それらとの「終わり」がくる。新しい局面が開かれる。
物語には語り手だけでなく、読み手が必要だ。きわめて個人的で微弱な物語に耳を傾け、一人の読者になる。語り手を密やかに勇気づける。それがカウンセリングであり、切実を編集するということなのだ。(チーム渦・吉居奈々)
『カウンセリングとは何か 変化するということ』東畑開人/
■目次
まえがき ふしぎの国のカウンセリング
第1章 カウンセリングとは何か──心に突き当たる
第2章 謎解きとしてのカウンセリング──不幸を解析する
第3章 作戦会議としてのカウンセリング──現実を動かす
第4章 冒険としてのカウンセリング──心を揺らす
第5章 カウンセリングとは何だったのか──終わりながら考える
あとがき運命と勇気、そして聞いてもらうこと
■著者Profile
東畑 開人(とうはた かいと)
1983年生まれ。臨床心理士・公認心理師。専門は臨床心理学・精神分析・医療人類学。東京都内のカウンセリングルーム(白金高輪カウンセリングルーム主催)で長年現代人の心と向き合う。著書に『野の医者は笑う―心の治療とは何か?』(誠信書房 2015、文春文庫2023)、『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院 2019)、『心はどこへ消えた?』(文藝春秋 2021)、『聞く技術 聞いてもらう技術』(筑摩書房2022)、『雨の日の心理学』(KADOKAWA 2024)などがある。『居るのはつらいよ』で第19回(2019年)大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020受賞。
●●●3×REVIEWS(三分割書評)を終えて
千夜千冊エディション『心とトラウマ』を開くと、最後に載っている千夜が『森田療法』(1986年刊・講談社現代新書)。そこには「あるがまま」の精神療法の起こりが語られている。東畑さんと森田療法のつながりは不明だが、東畑さんもカウンセリングは「何もしないために、全力を注ぐ」と記している。心の病や生きづらさ自体は触らず、あるがままでよく、異世界転生のごとく異なる風に当ててやることが大事なのかもしれない。確かに、編集の出番だ。
■■■これまでの3× REVIEWS■■■
鷲田清一『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS(43[花])
前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS(勝手にアカデミア)
四方田犬彦編『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS(勝手にアカデミア)
ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史(上巻)』
ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史(下巻)』
東畑開人カウンセリングとは何か 変化するということ』×3×REVIEWS
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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新しいことをするのに躊躇していたという増田早苗さんの日常に、突如現れたのが編集稽古でした。たまたま友人に勧められて飛び込んだ[守]で、忘れかけていたことを思い出します。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を […]
【書評】『熊を殺すと雨が降る』×5×REVIEWS:5つのカメラで山歩き
松岡正剛のいう《読書はコラボレーション》を具現化する、チーム渦オリジナルの書評スタイル「3×REVIEWS」。 新年一発目は、昨年話題をさらった「熊」にちなんだ第二弾、遠藤ケイの『熊を殺すと雨が降る 失われゆく山の民俗』 […]
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コメント
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2026-02-19
棚下照生。この忘れられたマンガ家が、最近、X(ツイッター)で話題になっていた(なぜかは知らないが)。大人漫画のタッチで劇画を描くという、今となっては完全に絶滅した手法が、逆に新鮮に映るのかもしれない。代表作『めくらのお市物語』は、連載当時、大変な人気で、映画やテレビドラマにもなったのだが、現在では、タイトルに問題アリで、復刊の目途もない。もしも古本屋で見かけることがあったら絶対買いです。
2026-02-17
小川の水底での波乱万丈を生き抜き、無事に変態を遂げた後は人家の周りにもヒラヒラと飛んできてくれるハグロトンボ。「神様とんぼ」の異名にふさわしく、まるで合掌するかのように黒い翅をふんわり広げては閉じる。
2026-02-10
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